act.103 身体と心の不安




※注意喚起。
直接的な性的描写はありませんがちょっと生々しい表現があります。
生理用品や月経についてなど。
それらの不安な方はブラウザバック推奨。









「で?」



レッドはアヤの手を引いてベッドに横にならせる。もうそれだけで痛そうだった。ゆっくり横になったアヤを見ると冷や汗をかいているのか、しっとり前髪が濡れていた。

ぼんやりと前を見るそれは、痛みによる放心状態にも見て取れて。

そう。“あの時”みたいに。



「アヤ、お前フロントで何を買った」

「………ペットボトル、を」

「嘘つくな。それだけじゃないだろ。……まさかと思うがタンポンなんぞ買ってないだろうな」

「…………ぇ…ぃ、いや…」

「………で?それをどうしたのか言ってみろ」

「……さっきトイレでねじ込みました…」

「……………お、っまえ……なあ……」



アヤがギョッとした顔でレッドを見た。

なんでわかったの、と言った顔だ。そんなアヤを見てやっぱりそうかとレッドは額を抑える。買うばかりか、もう挿れてしまっていたなんて。

この阿呆が。そう思って。

ああもうこっちの頭が痛くなってきた。

当たり前だ。あんな膣壁にタンポンなんてもの捩じ込んだら痛いに決まっている。



「痛いに決まってるだろ。俺の指一本も入らないんだぞ」

「血で、入るかと、思って…」

「血で入るわけが無い。あれだけ濡らして時間をかけて準備して、それでも痛くて指一本も入らなかったのを忘れたのか」

「っ…だ、だって」

「だってもこうもない」



そうだ。この一ヶ月、アヤの膣壁を解そうとかなり時間をかけて、前戯は入念に準備をした上で何回もしてきた。けれどそのいずれも、あれだけ濡れていても指一本すら痛みで入らなかったのだ。

それをタンポンなんか入るわけがない。

指ですら全部入らずあんなに苦痛を表していたのに、タンポンはもうずっぷりとアヤの腟内に無理に埋まってしまっている。痛みは尋常ではない筈だ。その証に顔面蒼白だし、冷や汗は凄い。

相当痛いのを我慢していなきゃこんな顔出来ない。

レッドはアヤのスカートを戸惑いなく捲った。



「痛いだろ、取り出すぞ」

「!?」

「歩くのも辛いんだろう。そのまま寝てていいから大人しく…」

「やっ…やだ…!」

「、はぁ?」

「と、取らなくて、いい」

「………」

「このままで、いい」

「………」



イラッと、した。

こめかみに細く、血管が浮き出たような気がした。

舌打ちしそうになるのを必死に抑え込む自分がいる。



「………アヤ、」



だってまだ自分はそこに指すら満足に入れられていないのに。



「…アヤ」



それなのにそんな異物が。

そこに、しかもアヤに痛みを与え続けている。

腟内に、入っている。

自分がまだ触れていない所を。

腟壁を押し広げ、傷をつけている。

アヤの中に今も入っている。

例え生理用品でもありえない。

今すぐ、こんな不毛なやり取りをしている間にも足を開いて異物を引き摺り出してやりたかった。



「アヤ」



ギリギリと己の手のひらに爪が食い込むのを感じる。

ベッドに横になったアヤの手首を掴み、のっそりと上から覆い被さる。いつにも増して聞き分けの悪いアヤを叱るように、彼は顎を掴み自分の方へと些か力ずくで向けさせた。

痛みで目が泳ぐ他に、何か、怯えも含んだ瞳。

……なぜこうも余計なことをするのだろう。痛いだろうに。だからこちとら色々考えながら、中を傷を付けないようにしてやっていたというのに。アヤとて、分かっているはずなのに。そもそもなんで今までナプキンしか使っていなかったのに急にタンポンなど使い始めたのか。

イライラしながらもその真意を探ることにしたレッドはアヤの蒼い瞳を刺すように射抜いた。



「なんでそこまで我慢する。痛いなら無理するな。痛みで放心するくらい、あんなに両手と便座を血だらけにしてたことも気付いてなかったんだろ」

「……って…、……」

「?」



何となく、レッドがわりと本気で怒っていることに気付いたアヤは渋々口を開き出した。

だってここまで怒るとは思ってなかったから。

未だレッドが本気で怒った所なんてアヤは見たことがなくて。……いや、ゾロアの時は比較的に怒っていた。怒っていたけど。というか出来ることなら自分に怒りが向けられないよう、怒られないようにしたかった。だってめちゃめちゃ怖いに決まってる。あんな重圧で怒られたらまともに顔を見ながら話せないし、そんな災難があった日には震えて眠るしかない。

しかし今のレッドは、こう。

聞き分けのない小さい子に叱るような。そんな怒り方だった。

でもやっぱりどうしたって、あんな痛いのを我慢して挿れたのに今更外したくは無い。けれども彼に訳も話さないまま怒られたくは無い。



「っ……入れて、慣れれば…」

「?」

「…タンポン入れとけば。……もしかしたら、その内慣れて、指も入るかも…」

「うん?」

「レッドの指、ちゃん入るかも、って」


アヤの蒼白な顔を見て、思わず何回も瞬きしてしまった。



「ずっと、レッド一人で頑張ってて」

「頑張っ……」

「でも任せっきりじゃ、それじゃだめだって……」



頑張ってて。いや確かに。確かに頑張ってはいる。こちとら全力かつぶっちゃけ朝から晩までそれしか考えていない。本気で試行錯誤中である。まあもう打開策は見つけてはあるが。



「ボク、何も…どうしたらいいか…わかんなくて、」



この一ヶ月。レッドが試行錯誤しながらどうしたら痛みが無くなるのか自分に気遣い、最大限配慮されていたのは勿論知っていた。それを分かっていて全て任せっきりにしていたのだ。

しかしいくらしても、何回やっても入らなくて、痛みは最初と差程変わらない。

レッドは。こういうことをするのにまるで慣れているかのように色々と試行錯誤しながら、痛くないように色々と試してくれていることはアヤでもわかる。

それでも、痛い。

いくら前戯でぐちゃぐちゃになっても、濡れていても。

入らない。

痛くて痛くてたまらない。



「(これって、ボク、体がおかしいのかな)」



他の女の子達はどうなんだろう。こんなに、痛いものなの?

どうしよう。

その内レッドが嫌になってしまったら。

自分とこういうこと、するのが嫌になってしまったら。

面倒くさいって思われてしまったら。

どこかで聞いたことがある。身体の相性が悪いと相手と上手くいかない、と。最悪女の身体の具合が悪いから別れた、なんてのも聞いたことがある。それを鵜呑みにする訳では無いが…。でも。



「(そんなの、嫌だ…)」



レッドに任せっきりにするんじゃなくて。

自分でも何とか、……何とかしないと。

アヤはいつしかそう思うようになって、自分でも広げてみようと思ったのだ。でも一人の時間は限られている。寝室はダメだ。いつレッドやポケモン達が入ってくるかわからない。と言うより自分一人でそんなことしてるのを見られたらその場で死ぬ。恥ずかしすぎてもう生きていられない自信がある。

だから、レッドが入浴したりポケモンセンターのフロント、コンビニに行く時などの僅かな時間を狙ってトイレで自分の腟内を初めて触った。今までこんな、触り方をしたことなどない。こんなところに指なんて入れたことなんてない。乾いたままでは到底入らないから、レッドがしてくれるみたいにとりあえず陰核を刺激してみたけど、いつもみたいにそこまで気持ちよくはならなくて全く濡れなかった。

やっぱり自分じゃダメかぁ…なんて考えて。僅かな時間の中で焦りながらどうにか多少の滑りが出て、中指を立ててはみたが。



「めっちゃ痛いわ……」



というか入らない。少し濡れてたはずなのにもう干上がっている。

無理。どうしよう。こんなんじゃ自分一人じゃいくらやっても平行線だ。……これで何回目だろう。ああ嫌だ、こんな面倒くさいことをレッドはいつも時間をかけて、ここ一ヶ月間ほぼ毎日のように相手にしてくれていたのか。とアヤはグラグラしながら考えた。



「(いや…いや。絶対やだ。面倒くさいなんて思われたくない。もういい、なんて。言われたくない)」



いよいよ本当に怪しくなってきた。

自分のカラカラに干上がった入口はもう滑りも何もなく。焦りと共に全て消えた。

これじゃあ本当に、自分の不具合のせいでいつか諦めてしまって。これ以上もう何もすることもない、出来ないと言われる日が来るのではないのか。



「……〜ッ………!!」



絶対に嫌だった。

そんなこと言われるなんて。

そんなことを言わせる自分にも。

はく、と空気をかじって飲み込む。目元が熱い。泣きそう。

レッドに任せっきりにするんじゃなくて。自分でも何とか、…何とかしないと。



「………そうだ。滑らないなら、ずっと湿ってる時に…」



そして考えた結果が吹っ飛びに飛びまくって今回タンポンをねじ込むことに決めたのだが。

もうすぐ生理が来ることを利用して、自分で広げようと思ったのだった。けれどタンポンは持っていない。あるのは通常のナプキンだけだったから、フロントに行って買いに出かけた。たぶんレッドに見られると「やめなさい絶対入らないから。痛いから」と止められるに決まっている。だから、内緒で買うことにした。

絶対痛いだろうな、とは思ってた。

でも、血液も充分滑るだろうからいけるかも、と。

まあ一筋縄じゃいかないだろうけど、とも。

ポケモンセンターのフロントでいくつか種類のあるタンポンを一つ購入した。なるべく大きいサイズのものを。レジに持っていくと外から見えないように紙袋に丁寧に包んでくれた店員のお兄さんには感謝だ。
……勘が良いレッドのことだ。何かの拍子に紙袋の中を見られると止められてしまうかもしれないから、タンポン一本と説明書を予め抜き取ってポケットの中に入れた。そしてピカチュウにアイスを買ってあげるかわりに「これ、後でこっそりボクの鞄の中にしまっといてくれるかな」と紙袋を預けると彼はいい笑顔で「ピ」と一声鳴いてアイスとサイコソーダを指さした。

1個じゃないんかい。

こんな時でも抜かりない。流石ピカチュウさんだ。そんなピカチュウさんは部屋に着くなりレッドを軽々素通りして部屋の奥へ。その後なんでもないかのようにアイスをポケモン達と山分けしていたが、何故かオシャマリは心配そうに自分を見ていた気がする。

案の定、レッドの訝しむ視線を掻い潜りながらトイレへ直行して。

そして早速説明書を見ながら使用してみたら。



「っっ〜〜〜〜!!」



激痛だった。

もう、めっちゃ痛かった。

死ぬほど痛い。

しかし入れないと広げられない。アヤは意地でねじ込んだ。



「〜っ……っ、っ、いっ……たぁ…っ」



説明書を見てもなかなか上手く使用出来ないし、しかも、めちゃめちゃ痛い。というか初めて見るタンポンってこんな形をしているのかと。こんな先っぽのプラスチックがギザギザした所なんて鋭利すぎて、膣内の肉が切れたらどうしようとか。そんなことを思って。そもそも挿れるところが違うんじゃないかと思うほど。今こうしている間にもポタポタと腟口から血液が流れ落ちて、便器の中と手と、指を真っ赤に染め上げている。

生理中にこんな秘部をじっくり触ったことなんてないから、嫌な感じだった。

血液でヌメるタンポンを痛みを無視しながら奥に少しずつ差し込み、そしてプラスチックを引き抜く。凡そ5cm程の綿の棒が腟内に置き去りにされた。
凄まじい圧迫感。ギチギチと狭い膣壁が中の異物を押し潰すように悲鳴を上げている。確実に中が擦れて傷になっているのでは…?と思う程。

あまりの痛みに冷や汗も出てきて、頭皮がぐっしょり汗で滲んだ。

真夏のトイレ内の熱気もあり、グラグラと思考が揺れる。



「(これ。挿れながら、歩くの?)」



え、無理。

アヤは即答で無理だと判断した。

抜き取った血塗れのプラスチック容器を持って放心していた時間はどれ程だったのか。
しばらくすれば痛みは落ち着くのかと思って、ずっとそのまま座っていたが痛みは変わらなかった。寧ろ悪化している。腟内がジンジンして、痛い。膣の入口が痛い。ちょっと触ってみると、完全に入り切らなかったのか自分の挿れ方が悪かったのか、タンポンの頭が膣口近くにあった。



「(……あれ。これって、確か違和感ゾーンがどうのこうのって……)」



きちんと奥まで入ってないと痛みがある……とかなんとか書いてあったかも知れない。だとしたら、もっと奥まで入れてみれば…と思って中途半端なタンポンを指で押し込むが痛みと内臓を下から圧迫するような不快感でそれは出来なかった。

ポタ、と頭皮から汗が流れて、頬に伝った。

そうこうしている内にコンコン、と外側から扉を叩く音がしてアヤは視線を上に上げた。何回か心配するような声で名前を呼ばれてぼんやり「ああ、早く出なきゃ」と思いながら手に持った血に濡れたプラスチック容器の存在を思い出す。慌ててそれを袋に入れてゴミ箱に詰める。これは見られたらマズイもの。…口の中がカラカラだ。足元に落ちている説明書が目に入り、ああ、これも捨てなきゃ。と持てばそれも少し自分の経血で汚れた。



「―――〜〜ッ」



立ち上がると、中に入ったソレが膣壁をゴリゴリ抉って。タンポンは体外に出ようとギチギチと膣壁を傷付け続ける。

痛覚がむき出しになった感じ。

痛い。痛い。痛い。

股間から下腹部にかけて太い杭で刺し貫かれているみたいに、痛い。冷や汗が止まらない。ドアノブを握ったまま俯いた。そしてそんな状態で外に出ればまぁ、皆倒れそうな程吃驚していたのだが。

あ。そうだった、手を洗うの忘れてた。血がついた手でふと触れてしまった所があった気がする。きちんと拭いたかどうかも忘れてしまった。トイレの中も、流したっけ……どうだっけ……。

ドッと背中が重くなった。
ギィィ、というトイレの扉の音にはっとして、視線を上げるとレッドの口元が早速引き攣っていた。

あ、まずいこれはバレる。とかそんなことも思ったが、それよりも彼のそんな表情初めて見た…とアヤは思う。

そしてベッドに連れてこられて横にされて、立っているより横になっていたほうが幾分楽だけれど。痛みは相変わらずだった。でもこうして腟内に入れ続けた方が何もしないよりかは良いに決まってる。きっと今は痛いけど、その内すんなり入るように……。すんなり……入るまでこれを続けるの?

こんな痛みを何回も?



「(指………というか、それをする理由は。解して、男の人のアレを、ようはレッドのをここに、入れるんだよ……ね……、え?指より大きいものがここに、ちゃんと入るの…?む、むり。裂けて死んじゃう)」



もうマイナスのイメージしか無かった。

以前、不可抗力で触ってしまったレッドの下半身を思い出した。
ズボン越しでも大きく膨張して、硬かった。テントを張ったあれは、きっとズボンの外に出したら自分の予想の、想像より遥かに大きいだろう。

あれを、自分のここへ、挿れる。

受け入れなければならない。

そのためにちゃんと入るようにレッドは準備して、でも上手くいかなくて。自分はタンポンなんぞを無理矢理ねじ込んで穴を大きく開こうとしている。



「(普通は…入るんだよね?でも、入らないってなんだろう。ボクの体、もしかして普通じゃない?……普通の子達と比べて、おかしいのか、な)」



考え出したらキリがなかった。

他の女の子達はどうなんだろう。こんなに、痛いものなの?

どうしよう。

……どうしよう。

その内レッドが嫌になってしまったら。

自分とこういうこと、するのが嫌になってしまったら。



「大変なことばっかり。いつもボクが何も言わなくても。レッドが黙ってても何とかしてくれるから」



面倒ばかりかけやがってとか。

色々死にそうな所とか、鈍臭い所を助けてやるばかりかここでも手助けをしてやらねばならないのかと。

いい加減面倒くさいって思われてしまったら。

お前一人のためにそんなに手をかけねばならないのかと。

もうしないと言われたら。



「自分でも…なんとかしなきゃ。って、いろいろ考えてみた け、ど」



そんなの、嫌だ。

だから自分でも頑張るのだ。

タンポンでもなんでも挿れてその痛みに慣れれば。



「いろいろ考えたんだ。でも、…でも、」



だから抜かない。

ずっと挿れとけば、痛みに慣れてもしかしたらいつしか解れて、指も入るようになるかも。

ちゃんと、いつかレッド自身を受け入れる事ができるように。

ちゃんといつか最後までしてみたい。

レッドと最後までしたい。



でも。でも。



「でも、やっぱりいた、い。痛いものは痛い。どうしたらいいか…もうわかんないよぉ……」



アヤはついに耐えきれなくて泣き出した。

こんな痛い思いをしなければ、受け入れる事すらできないのか。

好きな人と身体を繋げることはこんなにも難しい事なのか。

思った通りに上手くいかない。

アヤの想像の数倍、この行為は難しいものだった。



「…………」

「っ…グスッ……ふ、」


横たわったまま、アヤは布団を手繰り寄せて顔を埋めて泣いた。
自分のせいで上手くいかないのだ。情けない。こんな体で恥ずかしい。レッドはこんなにも上手くリードしてくれるのに。その彼がお手上げ状態。いったい何がいけないのだろう。どうして自分の体はこんなんなの。凹凸の少ない体。胸はないし、顔は良くもなく悪くもなく普通。秀でた特技がある訳でもない。

その癖、レッド自身を本来受け入れる場所がこんな感じだ。

せめて体で彼を喜ばせるものであったなら良かったのに。

それなのにどこもかしこも全く使い物にならない。

比べてしまう。なんでも全て完璧な彼と、そうじゃない自分。



「上手くできなくて、ごめんなさっ……」



本当に、なんで何もできない自分が。

彼にこんなにも大事にされているのだろう。



「…………」



そして。

表面上に発さられたアヤの言葉を聞いて、レッドは早速内心悶え苦しんでいた。

アヤが。アヤが可愛い。いつにも増して最強に可愛い。

可愛すぎて鼻血が出そうだった。

見ろ、うちの子はこんなにも可愛い。

まさかまさか。こんなにも自分を受け入れたいと強欲になっている。強引にタンポン捩じ込むとかいう、些か思考が斜めにブッ飛びまくってしまっているが。恐らく自分からしたら想像もつかない程の痛みを我慢して、膣壁を広げられるように頑張ったのだろう。自分なりに考えて、努力したのだろう。

アヤはまだ“肉欲”そのものを知らない。

本当に欲に取り憑かれている人間は、化け物のように気持ち悪い。

レッドは何度も何度も、何人も何人も。それを見てきたし実際経験もしてきた。
けれどアヤは腟内で得られる快感をまだ知らないし、どんなものか想像もしたことが無い。暴力的な快楽に嬲られ、訳も分からず勝手に押し上げられていく津波に呑まれるような感覚なんて想像もつかないだろう。

一度その快感を知ってしまって、それに取り憑かれた人間の末路を、レッドは知っている。少し、怖さがある。アヤも“あんなふうに”なってしまうのか。自分がそれを見たくないような、見たいような。

それを知らないのにも関わらず、ただ痛みしか感じないのに。

顔面がそんな蒼白になるくらい、冷や汗びっしゃりかくくらい。

痛みを我慢して、それもこれも全部自分のために。

自分のためにそんなことをしている。

なんていじらしい。



「(あー…可愛い…)」



こんなに痛い思いをしてまで、そんな事を思っていたなんて。体を我先にと開発しようと躍起になって気付かなかったが、アヤもアヤで沢山考えて不安に思っていたと。しかも心配なんてする必要がないことまで考えて。

これはもう何がなんでも痛みを無くすしかない。

絶対に何とかしてみせる。

もうめっちゃ頑張る。指1本と言わず2、3本余裕で入るくらい解して広げてみせようじゃないか。俄然ヤル気が出てきた。

さっき感じた怒りはもうどこかへ飛んで行った。我ながら単純な思考回路で笑った。
頭の中はこれからの開発の段取りと、どエロいアヤへの設計図と完成版アヤで埋め尽くされていた。そして自分が一から育てた最高の女を骨の髄までしゃぶり尽くす事を想像して、滾る。

ああもう。頭の中が上機嫌でピンク色一色に染まっている。嬉しい。痛いだけでアヤにとって今はデメリットしかないのに。それなのにこんなにも泣きながら自分を求めてくれることが嬉しい。あーもうどうしよう可愛い。早く何とかしたい。可愛すぎて泣く。

思考が変な方向に飛ぶ前にレッドは小さく咳払いすると優しく声を掛ける。



「アヤ、アヤ」

「ぅ…ふ、ぅぅ…グスッ」

「アヤ、大丈夫だから。泣くな」



布団に顔を埋めて泣き続けるアヤの頭を撫でる。出来ることならぐしゃぐしゃに撫で愛で回したいところだが、それをすると髪が絡まるのでやめた。名前を呼んでも顔を上げないから、抵抗されるかも…と思いながら布団をゆっくり剥がすことした。

そっと布団を退かすともう顔中涙でぐしゃぐしゃだった。

涙でぐちゃぐちゃだったが、それでもその泣き顔は可愛いの一言に尽きる。だって自分の為を思ってそんなに泣いているんだろう?何それ最高かよ。あ、いや。でもそんな思い詰めて限界まで苦しんでそんなに泣いてしまっているのはダメだ。精神が痛みで傷ついて心にずっと傷が残るような思いはさせられない。危ない危ない。

若干震えるアヤの肩を撫で、安心させるように撫で続ける。



「大丈夫だ。普通なら初めては痛い」

「…ぁう…っ…っ…」

「……俺以外とした事ないんだろう」

「っ…!!」



既に分かりきった事を聞く。彼女が自分以外の誰かとこんなことする筈がないのに。
吃驚したアヤが何でそんなこと聞くのと言わんばかりに目を見開いた。

蒼い瞳から更に涙が滝のように溢れ出した。嗚咽しながらコクコクと勢い良く何度も何度も頷いた。



「してっ…ないよ…!するわけ…ないっ」

「ああ、知ってる」



寧ろ、自分以外の誰かとそういうことをしたのなら。

そんな人間がいたなら。

恐らく相手を最も苦痛を与える方法で嬲り殺す。

楽には死なさない。



「〜〜っ…くっ…ぅぇえ…」

「だから良いんだ。痛くて当然なんだ。アヤのそれは、痛いのは普通だ。激痛だろうに。苦痛だろうに。寧ろ早く痛みを取ってやれなくてごめんな」

「ふっ…!…う、ぅぅっ…」

「その痛みは無理にすれば取れるもんじゃない。ゆっくり時間をかけて慣らすもんだから、寧ろそんな事をしても中が擦れて傷が付くだけなんだ。悪循環だ。もっと痛くなる」

「っ…っ…!」

「自分でもいろいろ、考えてくれたんだな。痛かったな。……頑張ったな」

「………、……っ」

「ありがとうな。この1ヶ月ずっと悩んでたんだろ?俺の為にそこまでして、痛い思いしながら」

「……………」

「だからアヤ」




「あとは、全部俺に任せろ」



大丈夫だ、絶対何とかするから。

そう言ってあやされて。

レッドは笑った。









身体を繋げる不安



「というか、お前な……ヤれないからって面倒臭いとか思う訳ないだろ」

「だ、だって」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ。俺は猿か」

「そっそんなこと…っ」

「お前が思ってるのは簡単に要約するとそういうことだ。俺をそこら辺の猿共と一緒にするな。それは俺自身を甘く見られてるとも侮辱されてるとも取れるぞ」

「……っご、ごめんなさ……」

「だから二度とそういうことを言うんじゃない。……分かったな」

「……はい」




きちんと説教は受けた。








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