act.101 レッドの頼み事






そう。子供を成す以前の問題に、まずアヤの腟内をどうにかしなければならない。痛みがあるまま近い将来そのまま事に及ぼうなんて一切思わない。痛みがあるなら痛みを無くさなければならない。

しかしあの狭い壁はどうすれば解れる?

痛みを感じなくさせた上で、腟内を解す方法。

それにはアヤの気持ちの問題も含まれているだろう。

怖いのなら怖さを無くせばいいのだが。



『なんだ、簡単じゃん』

「あ?」

『アヤの意識がない時にすればいいんじゃない?』

「は?」

『ようは生殖器が狭くて痛くて入らないんでしょ。ほぐそうにもそもそも痛みが強くて何もできないんでしょ』

「………」

『だったらアヤが眠ってる時とか、痛みを感じ無い時に少しずつ解して行けばよくない?』

「それだ、」



レッドは思わず指を鳴らした。

幸先不安で曇っていた視界が急遽晴れる感覚。

素晴らしい。その手があった。



「ありがとう、ピカチュウ。本当助かった」

『主人って変なところでぬけてるよねぇ』



あはは、良かったね。

そうピカチュウは言って笑った。そして眠っているアヤを見て悪魔のように…めちゃくちゃいい笑顔で笑ったのだ。



『頑張ってねぇアヤ』



いい仕事したなぁ〜と笑いながら。





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「チュリネ、少し良いか」

『は……はい!なんでしょうか』

「頼みがあるんだが」

『わ、わたしに…ですか?』



次の日、早速レッドは行動を開始した。

レッドはチュリネをとっ捕まえていきなり頭を下げる。彼からしたら藁をも掴むような状況。お願いを聞いてくれるなら頭でも何でも下げる所存である。



『えっ…ま、頭をっ…頭を上げてください…!』



何してんのこの人!?とチュリネは怯えた。

短い間ながらもチュリネはレッドという人物を理解しかけていた。この世の全てがアヤで回っているような男という印象が強く、そして感情の起伏が恐ろしく薄い。常に無表情だが、アヤとポケモンの前なら表情が多少動く。

野生の時に噂で聞いたくらいだが、猛者ぞろいのポケモン達を手持ちに引き入れ、ポケモントレーナーが目指す頂き、ポケモンリーグなるものに所属している人間であるということ。その中でも頭一つ抜きん出た強さを誇っているということ。

そしてポケモンにめちゃくちゃ優しいとアヤとレッドの手持ち(特にサザンドラはレッドを神のように小一時間程褒めちぎっていた)が言っていたが、それはまだ分からなかった。まだそこまで見ていないし、レッドと共にした時間が少ないから。

しかしながら何となく害がない、良い人間であることは分かる。
何せペンドラーに食い殺されかけて昏睡状態だった死にかけの自分を気にして、毎日のように様子を見に来てくれていたらしいとか。

それになんでか分からないが、ポケモンの言葉を話すこともできる。



『(本当に何者なんだろうこの人)』



レッドに捕まえられたチュリネは内心ビビり散らかしながら震えた。まんまるツヤツヤ球根ボディが今や冷や汗でべしゃべしゃである。
チュリネは焦ったようにレッドの後頭部を見て、早く帰ってきてアヤちゃん…!と神にも縋る勢いで祈り始めた。因みにアヤは今1階のポケモンセンターのフロントに行っている。何やら生活品が足りないとのことで、直ぐに帰ってくるからとピカチュウとオシャマリを連れて部屋を留守にしている。

しかしレッドは不審に思ってストップを掛けた。

生活品は足りているはずだ。何が足りない?と疑問に思いながら「一緒に行く」と勿論アヤについて行く気満々だった……が、アヤに大丈夫だから、と猛烈に拒絶されてついて行くことを拒否された。今までそんなに拒否されたことがなかったレッドは当然多少の衝撃を受けて、渋々引き下がったのだった。

代わりにピカチュウを連れていくことに条件を付けて。



「(なんだ、何を隠している)」



たぶん、いや、絶対何か隠している。アヤがフロントに出かけてから15分が経過した。生活品をフロントで買うなど10分もあれば戻ってこれるはず。フロントからこの部屋番まで距離も短い。もう少し待って帰ってこなかったら迎えに行く気満々だった。

そしてその間にレッドはチュリネにお願い………否、交渉した。



『あの、頼みとは…』

「お前は自分の体からハーブやアロマを作ることができる……合ってるか?」

『は、はい。草タイプですし』

「痛みはあるのか?」

『いえ。痛みは特に……あっ。頭の葉っぱを無理矢理引っこ抜いたり食いちぎったりすると痛いです!』

「そりゃあ当然だろ……」



レッドはこのチュリネがなかなかバイオレンス思考なのが気になった。



『でも、アヤちゃんに助けられてジョーイさんに治療してもらってから、頭の葉っぱを抜いても前ほど痛くないんです。ほら、アヤちゃんの誕生日にハーブを作った時………それにすぐに葉っぱ、生えてきました!だから何回でも引っこ抜けます!が、我慢すれば全部いけます』

「いいのかそれ」

『な、慣れたんでしょうか……』

「おい、慣れるな慣れるな」



レッドは早速チュリネの今後が心配になった。

たぶんチュリネがこれから先、なんの躊躇いもなく己の葉っぱを引っこ抜いたり千切ったりした所をアヤが見たら、確実に泣く。そして絶叫する。だってこの前のハーブの時で卒倒していたから。

頼むからアヤの前でそんなことするなよ……とレッドは苦虫を噛み潰したように言うとチュリネは『はい』と頷いた。



『あの、レッドさんももしかして、ハーブやアロマが欲しいんですか?』

「………話が早くて助かる。薬だ」

『く、薬?』

「ああ。薬が欲しい。毒は作り出せるのか?」

『どっ……毒……!!?』



チュリネは目をひん剥いた。毒……!?な、何に使うの…!?

誰か殺すの?



『ど、毒の種類にもよりますが、あの……ど、どんな毒で……ひ、人を殺す毒は……ちょっと……………』

「待て、誤解だ」



チュリネが青くなってガタガタ震え、レッドから距離を取って机の下に隠れた。

助けてアヤちゃん。早く帰ってきてアヤちゃん。

お願いアヤちゃん。この人が罪を犯す前に早く。

そんなチュリネを見てレッドは片手を上げて首を振る。



「眠り薬だ」

『眠り薬、』



それを聞いてチュリネはやっと机の下からモチモチと出てきた。それならそうと早く言って欲しい。恐る恐るレッドに近づき、頷く。



『眠り薬なら、あの。出来ますよ!』

「!……そうか。頼めるか」

『あの。でも、用途を教えてください。調合するのに調節しますので』

「…………」



レッドは言うか迷った。

しかし、調節してくれると言うのなら。



「アヤに、」

『えっアヤちゃんに?』

「ああ。……眠りを深くしたい。揺すっても、多少の“刺激”には起きにくいくらいの」

『アヤちゃんに……ですか…。うん、そうですね。最近アヤちゃん、元気ないですもんね…』



そう言って、最近のアヤを思い出すチュリネ。
この1ヶ月、本当にぼうっとしていて元気がない。最初会った時と、目が覚めて会った時のアヤの印象が強いからこの変わりようには多少驚いているようだ。


その理由は、勿論レッドは分かっていた。

これが相手がオシャマリだったなら。夜な夜な、いつも何をしているか洗いざらい喋っていた……かも知れない。オシャマリなら少し他人に言いにくいような話も普通に聞いてくれそうだし、ピカチュウみたいにいざとなればアドバイスも得意なのかも、とも思う。何だかんだ、ピカチュウとオシャマリは人間みたいな感性を持っているからだ。所々淡々としていて、客観的に考える節がある。

しかし新参者な上、なんだかチュリネに言うのは気が引けた。

雰囲気が、こう……あまりおいそれと喋れるような内容じゃないからだ。

だから嘘は言っていないが、本当のことは言わない事にして。



『今日中に作りますね!アヤちゃん……早く元気になってくれるかな……』

「………善処する」

『え?』

「なんでもない」

「ただいまー」

『あっ。アヤちゃん、おかえりなさい』

「おかえり」



そんな話をしている内に、アヤが帰ってきた。

頭と肩にピカチュウとオシャマリを乗っけている。オシャマリはフロントで買ってもらった雪見だいふくをモチモチ食べており、ピカチュウもサイコソーダを抱えて飲んでいる。『サザンドラもチュリネもこっち来なよ。アイスとサイコソーダどっちがいい?』なんてアヤには言葉こそ聞こえないがピカチュウが袋を引き摺って部屋の隅に行ってしまった。『えっ?わたしのもあるんですか?』と驚くチュリネにピカチュウは呆れながら当たり前でしょと返して。

極力部屋にいる時は邪魔にならないようにボールから出ようとしないサザンドラは、呼ばれれば当然ボールから出てくる。出てきなよ、と先輩であるピカチュウに声をかけられたら当然無視することもできず。
ボールから出てきたサザンドラは精一杯大きな体を縮めようとして丸くなっているがやはりどうしたって大きいものは大きい。彼はチュリネにどっちでも好きなものを選びなよ、と先に選ばせていた。『アイスとソーダって何ですか…?』なんて見たことない食べ物にうんうん唸るチュリネを見てオシャマリは『どっちも美味しい』と言う少し質問の内容と外れた答えを言う彼女にそれぞれ笑って。

アヤはビニールからお茶を取り出してレッドに渡した。

残ったビニール袋には自分の分の温かいペットボトルが一本とアイスらしきものがいくつか入っている。こんな暑い時に暖かい飲み物とアイスってどんな取り合わせをして来たんだ、とレッドは疑問に思った。



「はい、レッド。飲む?アイスもあるよ!」

「………?ペットボトルと……アイスだけか?足りてない日用品はどうした」

「あ…あー…えっと、やっぱり大丈夫だった!」

「………?」



何かを隠しているのは、明らかだった。

けれど、言わないということはレッドに言い難いこと、ということ。

………何を?

知りたい。

いったい何だ。隠されていること自体が気に食わない。どんなことでもいいから、話して欲しかった。



「えっと、ちょっとトイレ行ってくるね」

「………」



ビニールをそのまま受け取ったレッドはとりあえずアイスを冷蔵庫に入れて。

そうしてアヤはトイレに向かって、そこから数十分戻って来なくて。

レッドが声を掛けてやっと出てきたと思ったら。

両手血だらけになりながら顔面蒼白のアヤが姿を表したことに、レッドもポケモン達も目をひん剥きながら絶句して、卒倒した。(ここにいる全員が倒れそうになった)









レッドの頼み事

何かのドッキリだと思いたかったけどそうじゃなかった。






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