act.08 悪ギツネポケモン
「………………」
「………………」
カノコから戻って来た早々、レッドはアヤを見てその場に一時停止した。
* * * * * * * * * * *
「……………」
「……………」
「…ロァッ!」
「……どこから拾って来た」
「…あ、いや…勢いで飛び蹴りしちゃったんです…」
「…………」
「慌ててポケモンセンターに行って、その後謝って逃がそうとしたんだけど…」
「…なつかれたのか」
「………まあ、はい。そんなところです…」
カノコのアララギ博士から例の図鑑を受け取ったレッド。
図鑑を受け取ったらもうここには用は無いと言った感じで、カノコからカラクサへと戻ったレッドはアヤがチェックインした部屋へと向かい、部屋の扉を開けた。…のだが。
部屋に居る人物は一人じゃなかった。何だか一匹増えてるような気がするのは、気のせいでは無いだろう。
部屋の真ん中に正座して座るアヤの頭に、黒い物体が貼り付いていた。そして直ぐ目の前には無造作に転がった、赤と白のコントラストが特徴的なモンスターボール。レッドはそれを見て小さく溜め息を着き、後ろ手で扉を閉めた。
アヤの目の前へと移動するレッドを、アヤの頭の上の黒い生物はじっとレッドを見つめている。また彼の肩に乗ったピカチュウも、その黒い生物をじっと見詰めていた。約一分くらいだろうか。両者ただ何も言わずに目で会話するこの一人と二匹に、アヤは居心地悪そうに体を揺らす。
突然動いたアヤに驚いたのか、その黒い物体は慌てて頭にしがみ付いた。
「ゲットは?」
「したっていうかされたって言うか…自分からボールに収まりました…」
「…変わった奴だな。見たことない」
「ボクも当然見たことないよ。ねぇ君、名前何て言うの?」
「…ロァ!」
「ロア?ロアって言うポケモンなの君?」
「いやアヤ、それ鳴き声じゃないのか」
「…ロァ!」
キャッキャ、と黒いポケモン…黒い鬣に所々赤の毛並みが混じったそのポケモンはアヤの頭の上で元気良く返事をする。
何の気なしにアヤがその毛並みをわしわしと撫でれば、気持ちよさげに喉を鳴らした。…どうやら結構気に入られているようだ。
レッドは無言でつい先程受け取ったばかりの図鑑を鞄から引き抜き、その黒い生物に感知センサーを向けて電源をオンにする。
途端、独特的な機械音声がそのボイス機能から流れた。
『《ゾロア。悪ギツネポケモン。相手ノ姿ニ化ケテ見セテ驚カセル。無口ナ子供ニ化ケテイル事ガ多イ。自分ノ正体ヲ隠ス事デ危険カラ身ヲ守ッテイル》』
「………ゾロア!ゾロアっての君!」
「ロァッ!」
アヤに名前を呼ばれて嬉しかったのか、黒い子狐は元気に鳴いた。
悪ギツネポケモン
(何故レッドに化けて居たのかは未だに謎である)