act.03 執務
「…………」
アヤの今現在の仕事場。
それはグランドフィスティバル本部にある自分に与えられた室内で、大きな机の上に束になって置かれた紙を食い入るように見ていた。いわゆるトップコーディネーターとしての執務をこなしている訳だが。案外その仕事は当初思ったよりも困難じゃなく、寧ろ自分にとって楽しい方で手も良く進む。…一部を除いては。
自分に今現在任されている仕事の内容は書類に判子を押す事。コンテストの備品や設備を直したり増やす要望があったらそれをトップコーディネーターの見解としてそれが本当に必要かどうか考えて審査にかけたりすることだ。こんなん運営幹部がやることなのに。
たぶん人手が足りないのか仕事量が多いのだろう。
まあ各地のコンテストを運営するのは全て本部であるグランドフェスティバルが一任しているからしょうがないのかもしれないが。
その他に主に多いのはホウエン地方とシンオウ地方のコンテスト参加者のプロフィール整備だったりする。これが一番嫌いだ。それに書かれているリボンの保持数でトーナメントを組んだりする訳だが、それのプロフィールを逐一確認する仕事が一番嫌いだった。肩が凝るし骨が折れる内容である。
まあアヤは確認するだけで良いからまだよかったものの。
しかし今年グランドフェスティバルに参加するコーディネーターでも何人居るのかわかってんのか、と文句を言わずには居られない。
「ったく…毎日息のつまる…っどわ!?」
「ゲゲゲッ」
「な、何ムウマージ…、あ」
頭にずしりと重みが加わり、少し上を向くと只笑ってるムウマージが手をバタバタさせていた。何故か最近昼間に寝なくなったムウマージは普段ボールの外に出ている時間が多くなった。何百枚もあるプロフィールの内、数十枚を手に取ったその中に見知った人物の顔写真があって少しびっくりした。
ヒカリだった。
出身地や手持ちのポケモン、そして今まで見てきた人より倍に書いてあるコーディネーターとしての成績が書かれていた。因みに他参照の枠にシンオウとホウエンのジムバッジの数が全て8つ揃っていて目が飛び出そうになった。
どうりであんな強い訳だ。バトルのスタイルがレッドに酷似していた事はあえて置いとくとしよう。確かヒカリはあの時ジョウトに行くって言ってたような。あの地方にはコンテストは無いからきっとバッジをぶん取りに行ったのだろう。
きっと恐ろしいスピードでジム制覇して行くんだろうな…何かジムリーダーの人達が可哀想に思えてきた。
え?というか、ヒカリだけじゃなくて他のコーディネーター達もバッジの数はそれなりに保持している。グランドフェスティバルに出場するための条件はリボンの数である。ジムバッジはコンテストに必要ないのになんでこんなに保持率が高いのだろう。
もしかしてバッジが何かに影響するとか、あるのだろうか。
「……ボクもジム戦行った方がいいのかなぁ」
「ゲゲゲゲゲゲ」
「え?」
「ゲゲゲ、」
「……だって見た目の差が、さ……」
アヤは瞳孔ガン開きのムウマージを腕に抱いて死んだ目をしながら語りかけた。
周りから見ればどん引きされるような図である。こんな何考えてるのかダントツで分からないムウマージだが、ある程度意思疎通が出来るようになった。相変わらず顔はいつも笑っているがかなりの進歩だと思う。
自分が持っているのはホウエン地方のバッジを3つとジョウト地方の2つだけだ。なんでホウエン地方が多いのかと言うとコンテスト会場がホウエン地方にはかなり多くて、それの一貫でジムバッジもいくつか所有する必要があった。全てのコンテストを制覇する為には目的の場所へ行きたくても指定のバッジを所有していないと進めない道だったり、ポケモンに乗って空を飛ぶには資格として規定のジムバッジが必要だったから取得した。
それだけのことだ。
因みにジョウトのジムバッジはそこまで必要なかった。まだトレーナーになりたての頃にジョウト地方を旅していただけで、目標もなかったしただフラフラと旅をしていただけだったから何も考えもせずに気楽に腕試し程度に挑戦してシンオウ地方に移動してみたくなって………現在に至る。
とまぁバッジ差が激しい。充分挫けそうな数字だ。加えて彼女はジョウトに行けば全てを獲得するだろう。いや、そもそもバッジを取りにジョウトに行ったのかは分からないが。でもそれ目当てなら全部で24個になる。
さすがにトップコーディネーターが想像よりもバッジ弱者だなんて恥ずかしすぎる。
「…どうしようムウマージィ……戦う前に心折れそうだよ…ボク、普通のバトルは苦手なのに…」
「ゲゲゲゲゲ」
「仕事の合間縫って挑戦してみようかなぁ…」
ペンをクルクルと回しながら独り言のように呟く。するとコンコン、と扉を叩く音が聞こえてどうぞ、と言えば書類を持った運営の関係者が人当たりの良い笑みを携えて歩いてくる。
「失礼します。どうですか?仕事は捗っていますか?」
「あはは…まぁボチボチと」
「そうですか。では、これも追加だそうなので宜しくお願いしますね。だっていつでも暇でしょうアヤさん」
「そ、そんなぁ!」
ドサッと置かれた倍の紙の束。
関係者の嫌な笑みを見た。
ぶっ殺すぞ、と心の内で暴言を吐いておく。
……今日はまだ、帰る事は出来ないようだ。
執務
いくらなんでも増えすぎの雑務にそろそろ嫌気が差してきた