act.02 極楽天国







ジリリリリリ!!



「……………」



バン!と鳴り続ける時計を手で叩きベルを切った。ゴシゴシと目を擦りながら布団から出れば、冷たい風が肌に直撃してたまらずもう一度布団を被り直す。

ここはリーグ近くのシロナの家である。自分は今彼女の家に居候させて貰っている訳だが。
傍に置いてあるカーディガンを手探りで手繰り寄せ、素早くそれを纏ってベッドから降りた。



「ブイ」

「寒っ…おはよサンダース」



既に相棒は起きていたらしい。

扉のすみっこに座り自分の起床を待っていたのか、きっとあの目覚ましで三分以内に起きなかったら腹に踏みつけを喰らわされていただろう。朝っぱらからそんな胃の中のものをリバースしてたまるか、と心の中で精一杯抵抗して胃の辺りを押さえる。

階段を降りればこおばしいベーコンの匂いや甘いホットケーキの匂いが漂って来て、思わずヨダレが出そうになる。危ない危ない。慌てて袖で口元を正してキッチンに行くとシロナがフライパンを返す姿があった。



「おはようございますー」

「あら、おはようアヤちゃん。朝ご飯できてるよ!冷めない内に食べちゃってね」

「はーい!頂きます!」



寝起きはお腹が空く。更に美味しそうな匂いが鼻…いや脳?…まぁこの際どうでも良いが鼻やら脳が刺激されてお腹もペコペコである。
因みにシロナは料理がとても一般素人とは思えないくらい上手くて、「え?これ作ったの?」と言えるような料理の腕だ。味も見た目もプロのような見栄えで、最初食べた時は物凄い感動的な衝撃が襲って自分の目がキラキラしていた気がする。

やっぱりチャンピオンは私生活も一般人とは違うものなのか。食べてるものも違っていれば生活ルーティンも違う。今は生活基準を自分に合わせているであろう彼女は普段はいったいどんな生活をしているのだろう。しかしシロナにその事について聞いてみれば彼女は笑って言った。



「別に毎回こんな手が混んでるわけじゃないわ。お客さんがいる時は必要最低限のことをしているだけ。私、こう見えてかなりズボラだし面倒くさがりな性格してるのよ?」


……なんて彼女は言っていたけれど。

きちっとしてる今のシロナを見てだらしのない彼女なんて想像出来なかった。そんな会話を思い出しながら食事を堪能する。

ああ、これが頬っぺ落ちるような美味しさなのか…と染々思った瞬間であった。いつも彼女が作る食事は楽しみだった。
嬉々と椅子に座る自分の横で、サンダースも朝食用のポケモンフーズをサクサクと食べているのを見てフォークを握った。

今日の朝食はホットケーキ、ベーコンとコーンのバター炒め、スープ、サラダだ。豪華だと思う。自分だったらこんな手の込んだ食事なんて朝っぱらから絶対用意しないもの。ニマニマするのを必死で堪えながら食べようとした主食であるだろう一つの物を見てフォークを持つ手が震えた。



「ア、アイスが乗ってる……!」



こんがりときつね色に調度良く焼けたホットケーキの上に、シロナはトドメと言わんばかりにアイスを目の前で乗せてくれた。

ホットケーキの上にアイス。
マーガリンではなく、アイス。バニラアイス。

ホットケーキの熱でとろりと溶けるアイスにアヤは口を開けて固まっていた。ホットケーキに、アイスだと!?朝っぱらからなんて贅沢な…!!
恐る恐るフォークをホットケーキに突き立て、切り取った生地とアイスを一緒に食べればそれはもう極楽天国だった。



「うんめぇ……」



涙が出そうになった。いや、ホットケーキ一つに馬鹿じゃねぇかこいつと思われるかも知れないが仕方ない。ボクは自分の感性に素直に生きたいと思います。

フォークを握り締めて新たな感動に浸っているとシロナがニコニコと笑いながらティーカップを二つ持って席に座った。



「どうアヤちゃん?アイス乗っけてみたんだけど…」

「最高でぇす…!」

「それは良かった!じゃあこれも」



ポトリ、とホットケーキの上のアイスの横に生クリームが落とされた。

この日、朝刻二度目の嬉声がシンオウチャンピオンのご自宅で上がったのだった。




極楽天国


シロナさんってほんと、なんでも出来るんですね……

あら、一人だと本当に私、何もしないわよ。

うそだぁ






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