act.26 ハロー!
「ばうー」
「んうぅ……、?」
「ばう!」
「んー…朝ぁ?…8時?」
「ばうばう」
「マジでー……あ、おはよーリオル」
「ばーう!」
朝。外でポッポが鳴く声とリオルが髪を引っ張る地味な痛さで目が覚めた。ベッドに堂々と乗るリオルの下にはうつ伏せの自分。簡単に言うと踏み潰されている状況である。
アヤが目を覚ました事でリオルは身軽にベッドから飛び降りて洗面所に行ってしまった。
それをぼんやりと眺めてのそのそと起き上がる。上半身を起こした事でタオルケットがパサリと落ちて、寝相で乱れた服装を整えた。ボサボサの頭をガシガシかきながら大きな欠伸を噛み殺す自分はさも女とはかけ離れた生物だろう。大丈夫、今誰も見てないもん。
改めて時間を確認すれば8時を過ぎたころ。
そういえば今日からルビーと暫く行動するんだったっけ、と寝起きの頭で考える。
昨日ルビーと大まかな今日の予定を話して、確か朝は9:00にポケモンセンターのロビーで待ち合わせだったはず。早く支度しないと。
よっこらせ、とベッドから下りて裸足のまま室内を歩き回る。小さな机にはカイリューとウインディが入ったボールが置かれている。二匹はこの室内では体が大きいから邪魔になると気遣って昨日の夜から一度も出てきていないが、ランス達との戦闘では無理をさせてしまったから。それについて謝れば応えるようにボールが揺れた。
ボールがあるのを確認してテレビの上に視線を移す。テレビの上にはムウマージが仰向けになった体制のまま、開眼したまま熟睡している。ピクリとも動かない。恐すぎる。
とりあえずボールの中に無言で戻して洗面台に向かう。そう、洗面台に。
「みんなおはよ、ぅ…」
ジャッーー!
「……………」
「ばうー!」
「フッー」
「……………」
ジャッーーー!
ザバザバ、バシャバシャ、ビチャビチャ、と水が溢れる音が聞こえる。洗面台とその水周りが水浸しだった。
大惨事だった。
「フッー!」
「うばー!!」
「……………君たち」
リオルが洗面所の蛇口を限界まで捻りあげて水遊びをしている。シャワーズも同様である。
恐らく朝の水浴びをしたかったシャワーズだったが、 お風呂場の扉を開けるのを昨日忘れてしまったから洗面台で行ったのか…。洗面台にシャワーズが埋まっている。頭に直接蛇口から流れてくる水を被っているが、全て排水溝に流れず全て床に流れてしまっている。
どうしよう。掃除が面倒…。
サンダースが居ればこんなことにはなっていなかったとは思うけど、しかしサンダースはまだジョーイに預けたままだった。これから引取りに行かないといけないのに…そもそも着替えもまだなのに……。
時計を見れば8時30分になっていた。
呆然とそれを見てアヤは額を抑えた。
これ、間に合うかな……。初日から遅刻かも…。
ジャッーーー!
「きみたち、」
「ばうばーう!」
「フー!」
「……くるぁああああッッーー!!さっきから何やっとんじゃおまえらッッッーーー!!」
「ばうばうーー!!?」
「フッーー!!」
とりあえずシャワーズの尻尾を鷲掴みにして宙ぶらりんの刑に処した。
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9時20分。
ポケモンセンターのロビーを駆け抜けると既にそこにはルビーがアヤを待っていた。
「ルビー君おはよう…!!」
「おはようございますアヤさん」
「ごっ…ごめん!!初日から遅刻しちゃって…!」
「大丈夫ですよ。遅れるって連絡も貰いましたからね。そんな急ぐこともないですし…それにしても何かあったんですか?」
「シャワーズが洗面台に埋まってて…」
「は?」
ハロー!(初日から遅刻しました)
その後戻ってきたサンダースに怒られたらしい。