act.18 マキシマム仮面





「マァァァキシィィイイム!!!」

「(何この人っっーーー!!)」



リッシコを越えて213番道路を通り、無事にノモセシティまで着いた。だがもう日が暮れる手前の時間で町には暖かな暖色が灯り、店の中から明るい光が漏れている。

ジムが閉まるのは18時。最終受付は17時だったか。今からポケモンセンターに行って体調を整えてもまだ……ギリギリ間に合う時間だ。早々センターに行って回復をして貰ってジムに向かったのはつい数十分前の話し。

回復したポケモン達を引き取り、真っ先にジムに向かった。

電動の扉が開き、中に入るとまず自分を迎えたのは深い水。ぐるっとどこを見ても足元は水場のみでプールのような場所である。そうか、このジムは水タイプを使うのか。なんて分かりやすいジムなんだろう。水タイプのジムリーダーは比較的どの地方にも揃ってはいるがどこの水ジムもこんな感じなのだろうか。

ジムの中には挑戦者であろうトレーナーが数人、皆がジムトレーナー達と戦っている。

皆が自分のポケモンに指示を飛ばす声や技と技がぶつかり合う音が大きく響き、水飛沫などが大きく波立つ。これは全身びしょびしょになる覚悟をしておいた方が良いかも知れない。

歩く度にパシャパシャ跳ねる水音に腰のボールが嫌そうに揺れた気がした。きっとウインディだろう。彼は水が苦手だから。

そしてジムの構造を目で楽しみながらぐるりと見渡した時、ジムリーダーらしき人を発見する。ジムトレーナーより遥か奥の高台に立っている異様に体格が良いおじさん。………間近で見てないからおじさんかどうかはわからないが。

あの人がジムリーダーだろうか?何だか立ち方からして強そうだ。

狭い足場を歩き、中に進んで行くとジムトレーナーが新しい挑戦者である自分に気が付いたらしく、声をかけて来た。

ボールを構えたジムトレーナー(海パン野郎)はスターミーを繰り出し、後ろに控えているサンダースに目で合図すると無言で前に躍り出る。パリパリと電気を纏い、構えるサンダースは準備万端と言ったところか。

因みにこのジムはリオルではなくあえてサンダースを選抜し、戦線に出す事にした。もう少しでジムを閉める準備もあるだろうし、迷惑かけないようスパッと終わらせたい。相手は水、こっちは電気。レベルがそんな高くなければすぐに勝負は着く戦いだろう。



「サンダース、水場ならやることは一つでしょ」



試合開始から数分、サンダースは飛んできたスターミーをプールへと叩き込み、逃げられない電気がスターミーの身体中を炙った。ちょっと可哀想だけど麻痺させてしばらく身動きを取れなくさせてもらった。プールから出られなければずっとこのままだ。

ジムトレーナーは悔し気にスターミーをボールに戻し、またもやスターミーを繰り出して来た。今度はプールの中には入らず、空中戦を仕掛けてきたがそれも関係なくいなす。飛び回るスターミーを磁力の網で捕獲し、電力プールへと投げ入れれば戦闘続行不可となった。

これくらいの電力操作ならサンダースは朝飯前。

大きな水場があり、水タイプが相手ならそれはアヤ達に意味をなさないだろう。水タイプにとって味方となる水場が牙を向くとは考えないのだろうか。プールに電気を流せば直ぐに勝敗が上がる勝負。



「(いや、もしかしたらチャレンジャーへのハンデの可能性もあるし……でもデメリットの方が大きい気がするなぁ)」



電気タイプのポケモンがいればここのジムは恐らく攻略は容易い。けれどもし手持ちに電気タイプが居ないとやっぱり苦労する……のだろうか。

それからアヤ達はジムトレーナー達を押し退けて、辿り着いたジムリーダーに勝負を申し込む筈…だった。



「マァアアアアキシィィイム!!」



変な仮面を被り、いきなりそう叫ばれた日には。



「どうしようかと思ったよ! !」

「どうした挑戦者よ!何か言ったか!?」

「それはそっくりそのままあんたに聞きたい!」

「あぁ名前か!俺の名前はマキシマム仮面!ノモセのジムリーダーマキシマム仮面!歌をこよなく愛するマキシマム仮面だっー!!」

「聞いてないし三回も言わなくて良いよマキシマム仮面!!」



おっさ………彼はマキシマム仮面と言うらしい。

凄く良い体型で筋肉質で上半身裸の、何故か謎の仮面を付けたおじさん。マキシマム仮面。
凄いハイパーテンションなジムリーダーだ。こんな人もいるんだな。後ろを見るとサンダースが一歩後退していた。どうやらああいう人は苦手らしい。



「さぁ勝負だろう?挑戦者よ!このノモセのヒーロー、マキシマム仮面が相手をしてやろう!」

「え、ジムリーダーじゃなくて?」

「ノモセのヒーロー、マキシマム仮面!いざ尋常に!勝負!行けええええ出撃だフローゼルウウウウウ!!」

「構え!サンダース!」

「ブイ!」



ボールから放たれたフローゼル。何故かな、凄く目が死んでいるような気がする。そうか、主人のせいか。マキシマム仮面のせいなんだな。

一瞬でマキシマム仮面とフローゼルを見て理解した自分は変な同情をフローゼルへと送った。確かにあんな人は…………失礼かも知れないが、知人として扱いたくはないだろう。
サンダースとフローゼルがフィールドに出れば審判が試合開始の合図を初め、マキシマム仮面は特大のハイドロポンプをお見舞いしてきた。ジャンプで避けたサンダースが目を見張る。

ハイドロポンプが背後の壁にぶつかって弾ける音がした。



「…いきなりドロポンかぁ」

「うぉおおおマキシさんんんん!しびれるううううう!!!」

「リーダー凄いです!流石だぜ!」

「かっこいいマキシさんんんん!!貴方のジムトレーナーやってて本当に良かった!」

「シャラァアップ!!貴様らァ!何度も言っているだろう!俺は今マキシマム仮面だ!仮面を被る時はマキシマム仮面!市民の平和と安全を守り、歌を愛するマキシマム仮面だ!!マキシと呼ぶなぁッッ!」

「マ…マキシマム仮面!」

「マキシマム仮面!」

「マキシマム仮面!!」

「……………雷!」


ビシャアアアアンッ!!!


「ゼルゥウウウ!!」

「フっ…フローゼルウウウウウ」

「あぁっマキシマム仮面のフローゼルが!!」

「あの子強いぞ!」

「俺のスターミー完封されたぞあの子に!」

「ああ強い!」



どうやらマキシマム仮面の本名はマキシと言うらしい。

変な会話を繰り広げている隙に雷をフローゼルに落とす。とりあえずフローゼルにはなんの罪もないので威力は最小限に止め、速やかに倒してしまった。

くそ!水泳の舞だー!!と何故か水中でシンクロを始めたジムトレーナー達と中心のマキシマム仮面。……なぜ…?挑戦者達や観戦している人達も今やシンクロを見てすごいすごいとパチパチ拍手している。にわか素人とは思えないシンクロを見せてくれた人達。それにしてもここの人達何かの選手なのかな…キミたちジムトレーナーじゃないの?

そして愉快なジムリーダーとトレーナー達を密かにポケギアに付いている写メと動画機能で写真を撮った。後でレッドに送ってやろう。

挑戦者の連戦でさっきのフローゼルが最後の一体だったらしくバトルは速やかに終了された。それにもうジムを閉める時間らしい。



「ほら、フェンバッジだ!受け取ってくれ挑戦者のお嬢さん」

「あ、有り難うございます。マキシさ…」

「誰だそれは?俺はマキシマム仮面だ!!」

「……ありがとうマキシマム仮面!」

「がっはっはっは!礼には及ばん!」



さぁジムを閉めるぞお前達!と掛け声で一斉に動くトレーナー達。ジムの外からそれを上の空で見て、受け取ったバッジをポケットに突っ込んだ。



「…………ご飯、食べに行こうか」

「…ブイ」




空はもう真っ暗だ!





マキシマム仮面


「ピカー」

「………」

「ピカピ?ぴぴぴ?」

「取り敢えずこの覆面のオッサンは誰なの状況を説明して貰いたい」








- ナノ -