act.17 要注意
「あ、今目が合ったね!勝負しよう!!」
「(はい4人目!)」
下っぱ迷惑集団の騒動もスモモの刃の拳で無事に収まり(奴らは無事では無かったが)、トバリシティを抜ける事にした。去り際、今度一緒に大食いコンテストに出ようと誘われたが丁寧にお断りして。
ジュンサーのバイクに縄ごとくくり付けられた犯罪集団はこれから牢獄暮らしだろうか。簡単には釈放されまい、可哀想に。
それからポケモンセンターにポケモンを預け、回復したら直ぐにトバリシティからノモセに行こうと決めていた。
頭にへばりくっ付いているリオルだけをボールから出し、ノモセへの道をゆっくりとした足取りで進む。ノモセに行くその為には214番道路を抜けてリッシコを通り、更に213番道路を通らなくてはならない長い道だ。
そんな長い道にはトレーナー達が沢山いる訳で、さっきから戦いっぱなしだ。今声をかけて来た塾帰りと思わしきお坊っちゃんで4人目である。難なく勝利は出来たが何故か皆くれる賞金が非常に高額だ。お金に困ってないのか、と思うがまぁそれには助かるので素直に賞金を受け取る。
ボールを突き付けてきたやる気満々の坊っちゃんに、断る理由も無いので頭に乗るリオルに視線を送る。それにいち早く気付いたリオルは軽い身のこなしで頭から回転しながら飛び降り、いつでも準備OKだと一声鳴いた。そして坊っちゃんはこちらの準備を確認するとボールを投げた。
「よし、行くぜ!行ってこいドーミラー!」
「来るよリオル!」
「ばう!」
坊っちゃんのボールから放たれたのはドーミラーだ。坊っちゃんのボールベルトを見たところ残りの手持ちはあと2体、リオルに視線を戻し声をかけると勇ましく鳴いて返事をしてくれる。そういえば最近リオルが勇ましい。良いことだ。
二度蹴りとはっけいを連発する指示を飛ばした数分後、ドーミラーは目を回して地に落ちた。
ごめんよドーミラー、君に恨みは無いんだ。
坊っちゃんが戦闘不能になったドーミラーをボールに戻し、二番手のポケモンをボールから放つ。
「頑張れイーブイ!」
「ブイ!」
「おぉ!イーブイ!可愛いねぇ」
「イーブイ、電光石化して噛みつけ!」
「カウンター!」
ボールから出されたイーブイ。サンダースやシャワーズの小さな頃の姿を見て思わず頬が緩む。昔はあんな可愛かったのに今はこいつらときたら…と考えているとボールの中からアヤの不穏な考えに反応するようにブーイングが飛んでいるのかカタカタと揺れている。
いや、ボク間違ったこと言ってないもん!事実じゃん。
因みにリオルはこの頃ずっとバトルでの戦闘を頼んでいる。今までのトレーナー達もゴーストタイプでなければリオルに戦闘を頼み、戦って貰っているがこれも経験値を稼ぐ為。ルカリオに進化させる為にあれやこれと手段を尽くしたがどうやら波動の問題だけではなさそうで何かダメらしい。ここは手っ取り早く経験値を積んで進化の兆しを早めた方が良さそうだと思ったからだ。
それにシロナのルカリオによる地獄の波動指圧のお陰かどうかは知らないが、以前よりリオルの動きや技のキレが良くなっている気がするのだ。何だか錘を外したような動きというか、重さが抜けて軽くなったというか。
そんな動きにキレがあるリオルに最初はビックリして。
「あっ…!イ、イーブイッ!」
リオルの電光石火が急所に当たり、坊っちゃんのイーブイが倒れた。ボールの中へと戻っていくイーブイにまた心の中で手を合わせると最後のポケモンであろうゲンガーがボールから放たれる。
…ゲンガー?いきなり最終進化ポケモン?いや、でも坊ちゃんの今までの戦い方を見てれば、リオルでももしかしたら勝てるかも…。鋼タイプのメタルクローはとりあえず覚えてるから、攻撃が効かない訳では無い。あとは特攻が高いゲンガーの攻撃さえ避けられればリオルでも勝てる。
それに今は大量の経験値がほしい。
「そのまま行ってリオル!」
「ばうー!」
素直なリオルはブンブンと手を振って「任せろ」と言ってくれている。しかし違うボールから開閉音が聞こえた。
―――パン!
「えっ…ちょ、サンダース!?」
ボールの開閉音。
リオルを押し退けてサンダースが前に踊り出た。流石パーティーのリーダーなだけあって、変な威圧を振り撒きながら綺麗に着地したサンダースは一瞬ふい、と自分に目を合わせたがすぐに視線を反らしゲンガーと対峙する。あれ……?なんか、不機嫌?もしかしてなんかやっちゃった?と頬をかきながら今日朝からの自分の行動を思い返すが別に何かやらかした記憶はない。
内心焦りながらサンダースの背中を見る。彼が自分の意思を無視して勝手にボールから出た上戦うなんて事、今まで絶対に無かったのに何で?
「えっと…サンダース、ミサイル針!」
「避けてシャドーボールだ!」
「高速移動!」
「ゲンガー!大丈夫だまだ間に合う!追いかけて張り付け!捕まえて……舌で舐める!麻痺させろ!」
「ほっ…放電!」
「あはっ、無駄だって」
ミサイル針とシャドーボールが外れて地面に当たった。高速移動をしたサンダースにも普通に着いてこれるゲンガーはそのままサンダースに抱き着いてべろーん、と舐め上げた。「ピギャッ」とあまり聞いた事のないサンダースが悲鳴を上げた後、何故かギロリと。サンダースはゲンガーではなく自分を睨んだ。え?なに?ボクなんかした!?と悶々と考えながらサンダースに指示を出していたが無駄な思考は消え去った。
このゲンガー、ちょっと強い。
今まで道端で戦っていたトレーナー達はあんまり考えないで、それでいて技だけを指示する人が多いだけだったからアヤは楽に勝てていた。
言うなればトレーナー初心者だったり、ジム戦には到底チャレンジ出来なさそうな初段のトレーナー達ばかり。アヤもそれに合わせてただ考えもせず技だけ指示しているだけ。
ポケモンにほとんどの行動、考えを委ねてあとは技だけトレーナーのタイミングを合わせるようなそんな戦い方ならまだアヤ達の方が軍杯が上がる。鍛えてきた時間も違うし、努力値はそれなりに振ってあるからだ。
しかしこの坊ちゃんはここいらのトレーナー達の一歩先を歩いているらしい。
ドーミラー、イーブイは恐らく捕まえたばかり。ゲンガーは坊ちゃんの…たぶんパートナーポケモンだ。というよりちょっと考えただけでわかるだろうに。ドーミラー、イーブイ、ゲンガーなんて明らかにバランスが悪すぎる。
この坊ちゃんはゲンガーを相当鍛えているのでは。
サンダースの機敏な動きに着いていけて、次の行動をゲンガーが考えるんじゃなくて坊ちゃんが考えて指示を出している。自分の思考を読んでいる。
「(自分のバカ!レベルの低すぎるドーミラーにイーブイからのいきなりのゲンガーなんて。場に出てからちょっと考えれば分かることなのに)」
アヤの陳腐な考えに呆れ、確実にゲンガーのレベルが高いことを読んでサンダースは自分から出てきたのだ。「何してんだよ。コーディネーター何年目だよ」と言わんばかりの目。情けない。頭を回さなければならない。放電を指示する。けれど放電って指示を出すだけでは何も始まらない。技を組み立てなければ……。
「(あれ?そもそも、ボクってどうやって戦ってたっけ?)」
いつもシロナと訓練していたせいで完全に脳がバトル寄りになってしまっている。勿論バトルとしての戦いも今は大切だけど、そもそも旅に出た理由はジムバッジ獲得も理由の一つだけど、本当の理由はそれだけではない。ただのバトルを沢山する為ではない。自分の戦い方を思い出す為である。だってボクはコーディネーターなのだ。
……あっ。そっか。サンダースがなんか不機嫌な理由、それか!ちゃんとしろよということ!?なんかごめんね!?
さてどうするか、と頭を捻ったその時。バチリと高密度の電流が視界を走った。目を見開く。
密かに金色の電気がポツポツと辺りに発光を始め、小さく線香花火のような光が開くように弾け始めた。それは徐々に薄く青みを帯びて。
「サンダース!それダメ!!」
「!」
はっ、と我に返ったサンダースが勝手に10万ボルトをゲンガーに放つ。
線香花火のような電気は散布し、いきなりの電流に貫かれてゲンガーは対応仕切れずに直撃した。
パタン、と目を回して倒れたゲンガーを坊っちゃんは小さく悲鳴を上げて駆け寄っていく。
「お…おいゲンガー!」
「ごめん!大丈夫!?」
「…あ、大丈夫大丈夫!僕のゲンガー、特殊攻撃に強いんだ。それにしてもお姉さん強いねぇ!さっきの攻撃なんだったの?もしかして目くらまし?……っと。はい、これ少ないけど」
と渡されたまた異様に高い賞金の金額。
お礼そこそこに坊っちゃんは「じゃあね!バトルありがとう!」と一言残しゲンガーをボールに戻して早々センターへと戻って行った。ふと、サンダースを見ると虫を噛み潰したような苦い顔でちょこんとすぐ側に控えている。
いつもピンと立っている耳が下に垂れていて。
余計な事をして怒られると、そう思っているのか。
「……行こうか」
ワシワシとサンダースの柔らかいような硬いような毛並みを撫でる。
危なかった。忘れていた訳ではなかったサンダースの“性質”。
「ばう!」
「………」
「…そうだった!それよりどうしたの。何でさっきからそんなツンツンしてるの。いや、元からツンツンだけども」
「ばう?」
「………」
「……てっきり、お前はコーディネーターだろもっとしっかりしろよって言ってるんだと思ったんだけど……そ、そうか!日頃リオルばかりにバトル任せてたから、嫉妬!?それ嫉妬なの!?ねぇサンダース!?このっこのっ可愛いツンデレめぇ!」
ガブッ
「いっでええぇぇ!!!何すんの!?ちっ…血が出たじゃん!!お!?やんのかおぉ!?」
「シャッーー」
「シャーはやめて」
要注意。
忘れていた訳じゃなかったのに、