act.16 彼
レッドは無感情の瞳で顔も名前も知らない男を見下ろしていた。男は戦闘不能になった自分のポケモンをボールに戻しながら「全く使えねぇ」と吐き捨てる男を見てレッドはやっと不快そうに表情を歪める。
バトル方法を無視した上にポケモン4体も出してなぜピカチュウ1匹にこうもボロボロにされているのか。4体のポケモンに上手く指示すら出せていなく、むしろ男に扱えきれない多数のポケモンがお互いを妨害し合って上手く立ち回れやしない。男の実力じゃあ精々2匹が限度だろう。……まあ見たところ、そもそもそんなんじゃあダブルバトルも怪しい。
「く、クソッ!覚えてろ!」
「…………」
そんな後ろ姿を見送ったのはほんの数時間前だ。
最近、何なんだ。
あの時、確かに壊滅させた筈の奴らがこの頃またうじゃうじゃと湧いて出てくる。しかもギンガ団とか言うまた変な服装の集団と一緒に。残党の奴らが手を組んだのだろうか。
戦闘不能になったポケモン達をボールに戻したロケット団とギンガ団はゴキブリのように逃げていく。組織は違っても相変わらずあの逃げ足としぶとさはゴキブリ並みのようだ。
それにしても、本当になぜ?
雑魚とはいえ、手を組んで集団で襲って来られたら鬱陶しい。
「ピジョー!」
「ああ、おまえか」
空から鞄を下げたピジョンが飛んでくる。翼を大きく広げて目の前に着地したこのピジョンは新聞配達用のポケモンだ。嘴にくわえた新聞を受け取り、料金を鞄に入れてやれば飛び去って行った。
そして受け取った新聞に軽く目を通せば予想通りの事が書いてあった。
……やはり、最近の迷惑集団の騒動はジョウトだけではなく隣のカントーと…シンオウまで被害が出ているらしい。人やポケモンが殺された、なんてことは今はまだ聞いてないがこんな事が続けばもしかしたら…と考えてしまう。
それでも人様のポケモンを奪い取ったり物や金品を盗んだり壊したりとやりたい放題しているようだが。さっきの連中も、この間から自分のポケモンや何を思ってか知らんが所持品を奪い取ろうと突っ掛かってくる。ボコボコにしてもキリがない。自分が誰だか分からないのだろうか。全く懲りない連中だ。
もう用が無い新聞をゴミ箱へと投げ棄てた。
それにしてもジョウトは風が強い。
「ピッカ、ピカピ」
「………あいつ、大丈夫だろうな」
「ピーカ!」
「試合は午後からだろ」
赤い帽子が風で飛びそうになるのを片手で抑える。ピカチュウはまだ体を動かし足りないらしい。さっきのは準備運動にもならなかったと。結構なことだ。次の試合で発散すればいい。
バトルタワーは楽しい。ワタルに勧められて立ち寄ったものの、そこにはバトルの猛者共がうじゃうじゃいる。1階〜100階まであるその建物は階層が上がっていく程トレーナーの強さが増していき、持ち物や技構成も一定数に絞らなければならない為戦略も複雑になってくる。全国から集まってくるトレーナーが多いから知らないポケモンも沢山いるし。そういえばこの前キテルグマとかいうなんかイカした熊(目がイッてる)を初めて見たが、遠い地方のポケモンらしい。対面したカメックスが冷や汗をかいていたのを思い出した。面白かったなアイツ。
まあバトル好きにはたまらない施設だった。
「(しかし何もアヤからは連絡もないから、困ってはいないんだろうな)」
もし何か困った事があれば連絡しろ、とは伝えてあるしできる限り手伝うつもりだ。今離れた地にいる女の顔を思い出して、グランドフェスティバルが開催されるまでここで思う存分遊び尽くすつもりである。趣味に没頭して遊ぶってこんなに楽しいのかよ。
バトルタワーの屋上で彼は今一度、午後から行われる試合内容を確認するためにルールブックを一目通すのだった。
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格闘家に囲まれて迷惑集団は喚いていた。
「ちょっと待て!確かに俺ら悪党だけど今回そっちが一方的な暴力を……!!」
「そうだぜ!いきなり蹴って来たんだぜ!」
「そうなんだなんだぜ!」
「不可抗力なんだぜ!」
「酷すぎるぜっ!!」
ジム裏。
見たくないなぁとは思ったけどやっぱり様子は気になるものだ。恐る恐る現場へ顔を出すと、迷惑な犯罪集団はスモモやジムトレーナー達、そして格闘ポケモンにボコボコにされて(顔が殴られた後で無残な事になっていた)縄でグルグル巻きにされていた。
ロケット団が6人、ギンガ団3人…手を組んだって本当だったのか。と言うかこいつら言葉がムカつくな。(語尾に「ぜ」って何)
「嘘付け!先にジムの壁を破壊したのはお前らだろが!」
「何ィ!?あほんだらァ!ちょっとジムの倉庫を隠れ家にしようとしただけだ悪いかバカヤロー!」
「言い訳になってねェんだよ非常識共がァァ!!」
「「ぎゃぁああああ!!!」」
ジムトレーナーに今一度ボコボコにされたロケット団二名は再起不能になった。ポケモン達は悪党のポケモンを再起不能にした後流石に人間相手には手加減しているのか、ただ奴らの関節を固めて動けなくしているがそれでも脅威だろう。
それよりもスモモの身のこなしが鮮やかで美しい。彼女はあらゆる武道に精通しているのか、空手や柔道の他にもクンフーやらテコンドー、ボクシングやカンフーなど様々な格闘技術を身につけている。このジムの中で恐らく一番の脅威は彼女かもしれない。スモモのポケモン達も彼女に習って体術が非常に流麗流儀、美しい。いいなぁ。ボク…と言うよりもリオルに教えて欲しい。
スモモさん、コーディネーターやればいいのに。とすら思う。
暫くして騒ぎに駆け付けたジュンサーが集団全員をバイクにくくり付け、「サカキ様ー!」「アカギ様ー!」「栄光あれーー!」と今や牢屋にいるであろう自分の上司の名である人物を叫びながら間もなく連行されたのであった。
奴らの目的は、
(恐らく自分達の上司を連れ戻そうとしているんじゃないかと、)