act.14 昼食
「うわ〜久々のトバリだね!」
「ばう」
リーグ近辺のシロナの家がある224番道路から、空を飛んでトバリに降り立った。
以前と変わらないくらいに人が多く、特にデパート付近やブティックの周りに人だかりが出来ている。あまりの人の多さに目眩がする始末だ。
凄いね、と誰にも言うわけでもなく言うと、頭に乗っているリオルがふてぶてしく答えた。
とりあえず先に、今日の宿泊の予約と昼ご飯を食べよう。もう午後の昼過ぎだ。急ぎ足と言ってもそんな焦るつもりは無いし、自分のペースで進んで行くつもりで各地を回る予定である。
それに焦りは禁物だといろんな人から言われて来たのだし。
「(なるべく昔みたいに…)」
あの頃はどんな風に旅をしていたのだったっけ?
まだ未進化の子達もいたし、バトルの強さに自信がない自分はできれば強そうなトレーナーとのバトルは避けていた気がする。だって負ければ生活資金が無くなっちゃうんだもん。
食事と寝床、それにお風呂はポケモンセンターに行けば無償で提供を受けられるが、衣類や日用品雑貨、モンスターボール、傷薬や他のアイテム、ボールエフェクトシールやコンテストで着る衣装、アクセサリーなどはどうしても金がかかるのだ。
だから資金稼ぎの為にポケモンバトルは必須。しかし負けたら元も子もない。極力負けないように相手との力量差を測りつつ賞金狩りをする毎日。
あの頃の不安定だった生活が一変したのはコンテストに出て一次予選を突破する事に僅かながらの賞金と、それと優勝すればコンテストに因んだアイテムが貰えることだ。勿論賞金も付いてくる。
貰えるアイテムには当時の自分には到底値段が高くて手が付けられないものや珍しいものも多く、その優勝商品欲しさにポケモン達と頑張ったりして。
そして気づいたらコンテストの優勝リボンが溜まる。そして賞金も少しずつ貯まってジリ貧生活しない程度にコンテストに出るための下準備などが出来始めたのだった。
昔のことを思い出しながら「そう言えばこんなことあったな…」とアヤは懐かしむようにポケモンセンターへと足を踏み入れた。
「お疲れ様です!回復ですか?宿泊ですか?」
「一泊宿泊したいんですけど……」
「かしこまりました。トレーナーカードはお持ちですか?」
センターの扉を抜けてジョーイにトレーナーカードを渡す。お預かりします、と笑顔で受け取ったジョーイは慣れた手付きでパソコンを弄り、機械にカードを入れた。ピピピ、と小さな音が機械から漏れた。どうやら認証は終わったらしい。
カードから情報を読み取ったパソコンは少しずつ画面に文字を打ち出していく。パソコン画面に映し出された自分の顔と名前、そして個人情報を見たジョーイが一瞬目を見開いたがそれも一瞬で、にこりと笑ってカードを返して来た。
「ではカードをお返し致します」
「あ、どうも…」
「こちらが部屋の鍵です。115番ルームをお使いください。レストラン代は無料となっていますが冷蔵庫に備え付けてある飲料やルームサービスは有料となりますのでご注意くださいね」
「はい、ありがとうございます」
「ごゆっくりなさってください。………アヤさん、おかえりなさい」
「ぇ」
小さな声で聞き逃してしまいそうだったがしっかり耳に届いたジョーイの声。
雑誌やテレビで少しだが、アヤは顔が知れ渡っていた。コンテストの拠点であるシンオウ地方やホウエン地方ではちょっとした有名人である。まあそれも今となっては違う意味で有名になってしまった訳だが。
しかしそれも5年以上も前のこと。姿や容姿が成長しているから少し見られたくらいでは分からないはず。でもトレーナーカードを渡してしまったら、高確率で身バレしてしまうと思った。自分があの元トップコーディネーターだと知れたら良くて嫌味の一つ、悪くて罵声が飛ぶかも知れないと少しの恐怖心もあって。
そう思っていたけど、まさか応援されるとは思わなかった。
慌ててお辞儀をするとジョーイは笑顔のまま手を小さく振って、次の客の相手をしていた。
「(……?あ、あれ…?なんか思ってた反応と違う……)」
予想していた反応と違っていたことに疑問を感じながらもそのまま借りた部屋に行き、大きな荷物をベッドへ放り投げてセンターを出る事にした。ご飯食べてジムに挑む事にしたのだ。ボールの中の皆は既にやる気満々だ。っていうかさっきから頭に乗ったリオルの腹から腹の虫が凄く鳴っているし。
「…………さっき食べたばかりだよね」
「ばう」
飛行最中もバターロールをかじっていたのに…。
今は仕方無く棒つきの飴を頬張っているリオルはムスッとした顔で頭にへばりくっついている。まぁ良いか、とそこら辺の飲食店の看板をぐるっと見渡し、一番美味しそうなデザートがある店をターゲットにして中に滑り込んだ。
「いらっしゃいませ!お一人様で宜しいですか?」
「はい。あの、できれば一番壁際で……」
「かしこまりました!こちらへどうぞ!一名様でーす!」
ウェイトレスに案内された席に着いてメニューを広げる。それと同時に頭に乗ったリオルが目を輝かせて机に飛び降り、一緒にメニューに釘付けになって選び始めた。因みにポケモン達のお昼ご飯はちょっと早いが既に済ませている。これから体を動かす為だ。
アヤはこれから頭を回すために甘いものを多めに摂取しようとしている。そして今はお腹が空いているから大盛りを頼んでいいかも知れない。調子が良いときは茶碗三杯行けるぞ。
けれど今はご飯よりも看板で見たモモンの実を豊富に使ったパフェを注文しようと決めた。今決めた。あ、杏仁豆腐も美味しそう…よだれ出てきそう。
いかんいかんと口元を覆い、机に置いてある呼び鈴を躊躇なく押した。
「お決まりですか?」
「このモモンの実のパフェ一つと、サーモンのクリームパスタ大盛りお願いします!」
「かしこまりました!」
「ほらリオル、何食べるの……ってちょっと!?ポケモン食頼んで!何霜降り牛ステーキ定食指差してんの!?」
「ばう」
「(それにたっか!!値段がサーモンのクリームパスタ大盛りより倍高い!2倍くらいある!)」
「……お客様?お決まりで……」
「すいません。ポケモンのA定食で…」
「かしこまりましたー!」
「ばうー!」
「暴れない!机の上に乗らない!泣かない!!」
暴れるリオル。
いや、A定食にも肉入ってるでしょリオル。
久々の旅の昼食。
「ばうー!!」
「はいはい。さっきのお肉はリオルが進化したらね」
「ばう!?」