あの子へvalentine
「Happy valentine!」
「……は、はっぴ…ばれんたいん」
「…………………」
「…………………」
「やだもう何この間ー!ちょっ、ユウちゃんもうちょいボクに合わせてノッて…!じゃないとボク只の痛い子可哀想な子になっちゃうから…!」
「あ…はい、(いきなり会うなりこの人は何を…)」
みるみる内にいじけるアヤに、ユウは小さな溜め息を着いた。
旅の合間に偶然にも出会ったこの歳上の友人。相変わらず彼女の元気は今日も害なく継続中である。この360度ゴロゴロと激しく変わる感情の並みはいつ見ても飽きないが、突発的な対応は着いていけない。ナギとは違った何かに調子が狂う、というのは言うまでもない。
まあそれは良いとして。
「Happy valentine!」
「……………」
「ユウちゃんんんんん」
Happy valentine!の単語は分かる。分かるのだが。
…分析上それは衣類だろう。それも見れば分かる。けれど!
ヒラヒラの、猫耳フード。
ちょっと待てこの服はなんだ。
「Happy valentine!」
「いやアヤさんハッピーバレンタインじゃなくて…これは…貴女なに持って…」
「服?」
「や、見りゃ分かります」
惜しみもなくアヤが両手で広げる薄ピンク色のそれは衣類だ。しかし何故かロリッぽい気がするのは気のせいか。
ヒラヒラのドレス式に仕立て上げられたそれはレースがふんだんに使われており、白いポンポンが複数付いている。しかもキメが猫耳フードと来た。猫耳と言っても、ユウが着ているグラエナモチーフのものとあまりにもかけ離れているそれに、ユウは若干引いてしまう。
一体、アヤは何故そんなものを。っていうかどっから拾ってきたんだ。
「オタクからぶん取って来たんだ!」
「今すぐ元の所に捨てて来てください」
「ヤだよ!可哀想じゃん!」
「いやいやいや動物じゃないんですから…」
「見てこれ!どっかで見覚えない?このデザインね、エネコなんだってー。ほらこの耳!捨てるのも勿体無いし、ユウちゃん耳フード好きだって聞いたからユウちゃんにあげる事にしたんだよ」
「(え、何、無視?)」
綺麗に無視されてしまった。
どうやら自分の意見は全面無視するらしい。なんて人だ。
っていうかどこぞのオタクからぶん取って来たソレを、バレンタインの品として友人にあげるのか貴女は。…とユウは内心鋭い意見を入れるも本人は当然ながら知らない。
それに、エネコの耳。ユウはグラエナモチーフのこのパーカーが気に入っているだけであって、そんな明らかにロリロリなフリフリの猫耳エネコ服なんて着る趣味はない。
それを着た瞬間にあの筋肉馬鹿おろかナギにまで変な誤解をされてしまうかも知れない。それだけは…!
流石にそれは…と思い留まったユウは目の前の友人に丁寧に断ろうとした、が。
「ボクね、ユウちゃんす、すす好きだよ!だからちょっと変わった贈り物したかったんだ…いつもありがとうって、ボクの大事な友達だから!」
「!!」
呆気なく打ち砕かれたのは内緒にして貰いたい。
君に贈り物。
(大事な、友達)