ガールズトーク2



男が立ち入ることのない、

身を包む魅惑の世界へ



【ガールズトーク2】



「それでは、先生!ご指導ご鞭撻の程をお願い致します!!」

「…はぁ……よろしく、お願いします……」



ビシッと元気良く敬礼をしたアヤさんに、私は自分でも分かるくらいに覇気の無い調子でぼそぼそと返事をする。
やっぱり、アヤさんと一緒に居ると調子が狂ってしまうようだ。柄にも無く走り回ったり絶叫したりと、本当にペースを乱されっぱなし。けれど、そんな風に振り回されていると自覚しながらもこうして一緒に居るということは、私自身がこの関係を嫌っていないということだ。今まで付き合ったことの無い、くるくると花が咲いたように変化するアヤさんの表情は、見ていて飽きないというか…――――率直な話、かなり和む。あの鉄壁無表情の男が大事にしているというのも、何となく納得してしまう。



「それで、一体どのようにすれば……!?」

「えーっと…ですね……アヤさんは豆乳とか大丈夫ですか?」

「え?嫌いじゃないけど……」

「豆乳の主成分である大豆に含まれているイソフラボンには、女性ホルモンに似た働きをする効果があるため、豊胸効果があります。単純に大豆を接触すれば良い話なんですが、女性の場合は飲み易いこともあって豆乳を摂っている方が多いようです」

「おぉ……!!」



普段は滅法喋らないと言われる私だが、こういった観点、つまりは自分の興味のある点等ではべらぼうに口が回る。ぺらぺらとマシンガントークを繰り広げれば、同じく興味津々のアヤさんは拳を握って食いついてきた。



「大豆と言えば、お味噌汁なんかは乳癌予防にもなると聞きますね。癌細胞は遺伝するとも言われますし、アヤさんにはオススメかもしれません」

「なるほど……大豆ね。分かった」



私の言葉の数々をしっかりと心のメモ帳に書き込むアヤさんは、こくこくと何度も頷いてみせる。ベッドの上に正座をし、私を見詰める蒼い瞳は「次は?」といいう期待できらきらと輝いている。



「あと、体に合った下着を着るというのも一つの手ですね。アヤさんはサイズ幾つですか?」

「え?ごめん何て言ったの上手く聞き取れなかったよ!」

「………………アヤさん、現実から目を逸らしてはいけませんよ」

「…だってぇ〜……」



私の質問をスルーしたアヤさんの素敵な笑顔に、私は溢れそうになるため息を堪えながら華奢な肩を逃げれないようにガッチリと掴む。唇を尖らせるアヤさんに、諭すように言葉を掛ける。



「間違ったサイズのものを着ていては育つものも育ちません。これは重要な話なんですよ?」

「そ…育つって………」



私の直球な言葉にたじろぐアヤさんだが、今は遠慮なんかしていられない。肩を握る力を強め、目尻を吊り上げた私は大きく息を吸い込んだ。



「胸が小さいと悩んでいる方の中には、下着のサイズが合っていないがために胸が流れてしまっているという事態も多いんです。アヤさんもその一人かどうかは分かりませんが、確かめる必要はあります」

「へぇー…それはまた……」

「下着の着用方法を間違っている場合も危険です。ホック部分は肩甲骨の下にくるという話は知っていますか?」

「そっそうなの?」



畳み掛けるように私の持つありったけの知識を並べていけば、若干引いた様子のアヤさんは硬い表情で相槌を打つ。



「サイズが合わない奴だと肩凝りの原因になったりもしますからね。取り敢えず、すぐにでもランジェリーショップに行きましょう」

「いっ…今すぐ、に……!?」

「勿論、善は急げです。憧れのボディラインを手に入れて、レッドさんをあっと言わせてやりましょう!」



追い撃ちを掛けるようにアヤさんの恋人の名前を出せば、決意が固まったのかガッと腕を掴まれる。ここまで来た以上、とことんやる気になった私は頷き返して意思表示をした。



* * * *


アヤと決意を固めたユウは、無言のままに手早く着替えをしていた。シンプルなワンピースを脱ぎ、白いブラウスや黒いベストやスカート、加えていつものグラエナモチーフのパーカーを着れば、これで準備は完了だ。



「…あれ?ユウ、どっか行くの?」

「えぇ。アヤさんと一緒に、ちょっと出掛けて来る」



物音に気付いたナギが扉の向こうから顔を覗かせれば、パーカーに袖を通したユウは淡々とした調子で言い返す。
見境無しに筋肉馬鹿の言葉に惑わされてトレーニングをしようとした純粋な少女は、既に準備を終えてセンターの入口で待っている筈。新たな問題が勃発する前に早く行こう、と慌ただしく準備をするユウに、ナギはくるりと飴色の瞳を丸くした。



「何処に行くの?何かあったらアレだし、僕も一緒に…――――」

「下着屋」

「……いってらっしゃい」

「うん」



時間を急ぐユウは、フードを被りながら目的地を率直に告げる。オブラートに包まれることなく投げられた直球ストレートを受けたナギは、元々免疫のある方でもないため、口許を引き攣らせながら彼女の背中を見送ったのだった。



「……ナギ、どうした?」

「いえ…あの、……女性の話に男が口を挟んじゃ駄目ですもんね……」



がっくりと俯いて脱力しているナギに隣室から出て来たレッドが尋ねるが、声を掛けられた当人は火照る顔を冷ます事で頭が一杯なようだ。無理矢理に納得しようとするナギだが、疑問に首を傾げたレッド相手にいつまでも沈黙を守れる筈が無い。所在無さげに視線をさ迷わせながら、先程聞いたばかりの単語を口にする。



「…ユウ達が、しっ下着屋、に……行くと……」

「一緒に行けば良いじゃないか」

「!!!?」



純情という代名詞が似合う彼にとっては渾身の、精一杯の言葉をしれっと返したレッドの姿に、ナギは器の違いを痛感したらしい。



ガールズトーク2



「最終手段としては、後はレッドさんに頼んで下さい」

「ふぇっ!?な、なんでレッドが……!!?」

「そりゃあ、手っ取り早く揉んd「ユウちゃんストップそれ以上は言っちゃ駄目ぇぇぇぇぇぇ!!!」




**ユータナジア**




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