トランプしようぜ!



「ユウちゃんナギ君そしてテーツヤさん!トランプしよう!」



事の始まりは彼女の何気ない一言から始まった。



「……………」

「……………」

「(キャアアアアアァァァ)」

「(おいナギ…!どうすんだよこの状況!!)」

「(いや、どうするって言われても…!)」



どの国にも、世界共通に遊ばれているゲームがある。殆どの国には機械ゲームと言った機械を用いて遊ぶ物や、体を駆使して行うゲームなど、世界には様々なゲームがあるが。その数多く無類にあるゲーム種の中で一般的に、そして手軽に遊ぶ事が出来るのはトランプゲームだ、と誰かは言っていたような気がする。座って出来るゲームだし、何より安全で子供も大人もお爺ちゃんお婆ちゃんも、ババ抜きや神経衰弱と言ったゲームくらいなら簡単に理解でき、誰でも楽しめるもの。

そう、楽しめるものだと思っていたのだが。



「………………」

「………………」

「………………」

「………………」



非常にまずい状況である。

場の配置順から説明しよう。アヤ、ユイ、ユウ、ナギ、テツヤ、とそんな順番で円を描いて座っている訳だか、何故かそれは今形を崩しユウとユイのみが向き合って座っている状況にある。他の残った三人…所謂勝ち組はそこから外れて、少し離れた場所で綺麗に座りその場を重々しく見学していた。

単純なババ抜き…の筈だ。

だがどうして、一体何がどうなってどうしてこうなった?
ユウの手元には一枚のカード、そしてユイの手元には二枚のカードがある。聞かなくてもトランプのジョーカーはユイの手元に滞在中だが…何故か両者は一向にカードを引く気配すらない。寧ろ、何故か互いに無言の睨み合いが続いているのだ10分くらい。

部屋にはパチパチと暖炉の火が弾ける音と、揺れ時計がコチコチと鳴り響いているだけ。5人居るのに、無音だ。話し声おろか隅に居る三人組は己の息さえ殺している。どう見ても負のオーラしか発していないこの二人に、固まった三人組は声にならない悲鳴を上げ続けた。



「(もう我慢ならん!この空間を打開してやる!ってかどうすんだよあのダブル“ユ”の字!恐ぇよ!無言で殴り掛かってくるシヅルより恐ぇよ!)」

「(おおお落ち着いてくださいテツヤさん…!今動くと確実に殺されますって!視線に命奪われますって!!ナギ君もなんとか…、)」

「(……………)」

「(アアアッーー!!?テツヤさん!ナギ君が失神仕掛けてますよ!?失神!意識飛びかけてますよ!?ちょっ…しっかりナギ君!)」

「(しっかりしろナギッー!!あんなの!俺が着替え中のシヅルを覗いた時のキレっぷりと比べたら豆腐と林檎だぞ!!)」

「(その物差しが良く分からないんですけど…!!)」



っていうかシヅルさんって誰?と言うアヤに、テツヤは得意気な顔をして俺のバディだ!と鼻を高くして言った。バディって何だとまた質問するアヤに今度はナギ(復活)が「相棒?パートナーって意味じゃないかなぁ」と切り返す。「間違っても無いが違う!バディだバディ!」「…きっと単語自体が間違ってますよテツヤさん」と半場ヤケクソに突っ込んだナギにアヤは首を傾げた。



「………………」

「………………」

「………………」

「……………何だい、俺の顔に何か付いてるか」

「……………そっちこそ、私が聞きたいです」

「……何か言いたい事があるなら受け付けるが。お嬢ちゃん」

「……私も、何か仰る事があるなら受け付けますが。アヤさんのお兄様」



――――――バチッッ!!!



段々と煩くなってきた外野を二人は聞き流しながら、互いに視線を一切反らさずに見詰め(訂正:睨み付け)る。物凄い邪な雰囲気は本人達も分かっている。だがどうしてもこのオーラを止める事が出来ない。答えは簡単だ。互いが互いに気に食わないからだ。

元々野蛮な、いや、そもそも異性自体があまり好きじゃないユウにとってユイと言う人物は敵対心丸出しに、警戒するに値する人間だからだ。そして極めつけには無類の女嫌いなユイにとっては正直、ユウの事は歓迎もしていない。

お互いがお互いに、良く思ってない事が例え彼らを知らない第三者が見ても一目瞭然に伺える。



「お、おい!ユウ!」



この会話が聞こえたのだろう、テツヤがまず記念の一番手となり、状況を何とか打開しようと手を打った。



「そ…そんなピリピリするなよな!折角こんなにパーティー組めたんだ!楽しく行こうぜ?ほら、俺得意のゲームがあるんだ!“753”つってよ、こうやってトランプを円状に伏せた状態で並べて、一人一人が順番にカードを中心に捲っていくんだ。して、7と5と3のカードが出たら全員一斉にカードに手を伸ばす!楽しいぜ?ほらぁ〜そんな嫌そうに眉間に皺寄せんじゃねぇよ!只でさえ多い皺が増えるぞ!一回やってみようぜ?せっーのsドシィイッ!!ギャアアアアアァァアア手がぁああああぁぁぁああぁぁッ!!!!!」


「「テツヤさッッーーん!!!」」



テツヤ、散る。



「ユユユユユイ兄っ!どうしたの何が気に入らないのさ!トランプ?トランプが気に入らないの!?だったらトランプタワーとかどう?ほら!組み立てれば案外面白いんだよ!神経質なユイ兄にはピッタリな孤独な遊びdグシャッ!!トランプタワーがああぁぁああああ!!!??」


トランプタワー、散る。


数字の3を引き当てたテツヤの掌の上からユウが遠慮無しの拳を叩き付けてやった。見事な音が響いたその部屋には、次にはテツヤの断末魔が響く。わぁああああ!と叫ぶナギに、今度はトランプタワーを兄に勧めたアヤは呆気なくタワーを叩き潰される。


一瞬で大惨事に変わり果てた無音の部屋にハラリ、と不規則に曲がったトランプが地面に落ちた。



馬が合わない。

(二人が仲良くなる事はきっとこの世で三番目くらいに難しいと思いました)



**十五夜**




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