愛した色の輝き
彼女を見て、ふと思った。



「髪、伸びたな」

「んー?そうだねー…あの時以来切ってないや」



ベッドにごろりと寝転んだ少女を見て、レッドは唐突に話を振っかけた。

“あの時”より既に何ヵ月か立つ。肩より少し長めの栗色の髪は時間と共に長さを増し、切ることをしなかったそれは既に腰までの長さに到達していた。
癖の無いそれはストンと真っ直ぐに流れ、他の女達と比べたら図々しさは全く感じられない。と言うよりちっとも比べようとも思わないのだが、何故こんなに真っ直ぐなのか疑問に思う事も暫し。真っ直ぐと言っても人間なら誰しも多少は癖があるものじゃないのか、とも思うが、少女の髪は縮毛をかけたかのように綺麗なストレートだった。

確かこいつの兄も髪を多少は弄ってはいたが、根は真っ直ぐだったな、と今この場に居ない歳上の男をレッドは思う。まあそこは正真正銘、同じ遺伝子を次ぐ兄妹だから当たり前と言っちゃ当たり前なのだが。



「切らないのか?」

「え、切った方が良さげ?」

「そういう意味じゃない」



邪魔だからいい加減に切れ、とそのように勝手に解釈したらしい。少し動揺する少女に、レッドはゆるゆると首を横に振れば少女はまた首を傾げた。

邪魔な訳でも無いし、鬱陶しい訳でもない。それらはまず有り得ない理由だ。只本当に何となく言っただけ。ベッドの端に立て掛けられた鏡を手に取り、その中に映る自分を見て何か難しい顔をする少女は「……やっぱりモロ似てる…」「何か出てきそうだから切ろうかなぁ…でも面倒だし…」とぶつぶつと呻いている。そんな少女にこそレッドは不思議そうに首を傾げるが。

こうして見れば出会った頃がとても懐かしく思えた。

サラサラと指通りが良いそれに触れ、口元に手繰り寄せる。確かに今まで目に付いた中で少女の髪は綺麗な髪だとは思う、が。レッドにとって髪が長くても短くてもそんな対した問題じゃない。



「やっぱり邪魔だし…切ろうかな…ああでも、冬は寒いし。でももう直ぐ暖かくなるよねぇ…どうしよう」

「…お前がしたいようにすれば良い。短くても長くても、それが少女なら別に問題無い」

「そっ…そないです、か…」

「只、」



少しずつ赤く色付く頬。

困ったように眉を下げる少女を見て、彼はふと笑う。

そうだ、それで良いのだと。



「お前は、変わってくれるなよ」



その色の輝きに惹かれた。

そのままの君を愛したから。



愛した色の輝き

(何時でも手の届くところに居て欲しい)(万が一変わってしまったとしても)(引きずり戻す自信はあるが)




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鳴滝開耶様リクエスト
「未来のお話」




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