不正な奴らをつまみ出せ
「うぅぅ…頭ァ猛烈に痛い…頭バーンしそう…」

「馬鹿、だから言ったろう。寒い中長時間薄着でいるからだ」

「だってレッド、平気そうな顔してたじゃん…半袖で平気そうな顔してたじゃん…もしかしたら大丈夫かも知れないって思ったんだよ…」

「俺と比べるな。お前とは細胞の造形からベクトルが違いすぎる」

「……ねぇレッド、それ自分が超人だって自覚してるような言い草だよ」

「別に超人じゃない。至って普通だ。…只、お前があまりにも人並み以下に防御の壁が薄すぎるだけで。いい加減に自覚しろ」

「違うよー?皆ちゃんと人並みの免疫力を兼ね備えてるからね。ある一定数値を越えると皆ウイルスにボコボコにされちゃうからね。年中雪山を半袖で過ごして平然としているそれを超人って言うんだよ。いい加減に自覚しよう」



なんて会話をしながら水に浸したタオルを絞る。


少女が、風邪をひいた。

発端は昨日の夜。外の空気を吸おうと半袖で家を出た俺の後を、少女がくっていて来たのが発端だ。しかしそんな半袖な自分を見て何を思ったのか、厚着もせずに部屋着である薄着のままついて来たのだ。こいつは何だかんだ言ってよく体調を崩す。とは言っても高熱などそんな大事には至らないものの、やはり少女にはなるべく辛い思いはさせたくない訳で。そんな少女に俺は良くは思わず「厚着して来い」と言いもしたが、「別に寒くないから平気!」と切り返されてしまった。
何度言っても聞く耳を持たない少女に溜め息一つ着き、仕方ないと彼女を連れて20分弱外をぐるりと歩き、帰宅。

そして丁度その時、盛大なくしゃみをかました少女を見て予想通りの結果が。



……こうして看病をするのは何回目だろうか。まあ決して嫌な訳ではないのだが。(というより嫌な訳がない)

水気を切って適当に畳んだタオルを熱の籠った額に置けば、目元をやんわりと緩める少女を見てふと笑みが浮かぶ。



「……冷たくてきもちー…」

「…高熱じゃないにしろ、頭痛は酷いらしいな。次からは上着、絶対に着ていけよ」

「はーい……」

「…飯作るから、寝てろ」



小さく笑みが溢れても、熱で潤んだ蒼の瞳はどこか虚ろだ。気力0と言うか、死んだ魚の目というか。活発性の無いぼっーとしている少女を見て、聞こえないように再び小さく溜め息を着く。

素直に瞼を下げる少女を尻目に、台所に向かう為に席を立った。



「や!」

「………………」


バタン。



扉を閉めた。

…今、俺の目に狂いがなければ変な人間が居た事は確か。一応ここはウバメの森最深部にある少女の家、のはず。インターホンは鳴ってはいないし、元々俺は見ず知らずの人間、それが男なら絶対に家に上げるつもりは欠片も無い。それに興味も無い。他人に自分から積極的に関わった事もあまり無い。(つまり何が言いたいかと言うと少女とポケモンと身内以外はゴミ屑だと思っている)

という事は、こいつは(自分が言えた義理ではないが)不法侵入だ。



バアアアンッ!!


「ブフゥウウウッ!!!」



外開きの扉を捻り開け放つ。

どうやら顔面に入ったようで綺麗に吹っ飛んだようだ。ボタボタと赤い液体を垂れ流しにしながらうつ伏せに倒れているそいつ。
チラ、と念のため寝室に目を向け、少女が起きていない(と言ってもちょっとやそっとじゃ起きない)事を確認すると静かに扉を閉める。



「ぶっ…!!あ、相変わらず容赦、ないね…!その無表情も相変わらず健在で…!!見て!扉が僅かに亀裂が入ってるの!!見て!あの威力で顔面にクラッシュした僕の鼻!!」

「…………大誤算だな。家の鍵は閉めた筈だが…魔除けの札でも貼っとけば良かったか」

「ね、それ僕に対して嫌がらせ?嫌がらせだよね?だいごさんとかさ、何か違う意味に聞こえて来たんだけど。僕まだ生きてるよ死んでないよ生霊にならきっと頑張ればなれるけどまだ未遂だからね!!それに今回はトイレの窓からお邪魔しました」

「ウインディ、この馬鹿を摘まみ出せ」

「ワォウッ!」

「あ゛ああああ僕少女ちゃんが熱出したってルカリオに聞いてお見舞いに来たんだけどぉおおおお!!」

「少女に玄関以外から入ってくる奴は客じゃないし不法侵入者は消……灰にしてくれと頼まれてる」

「ねえ今咄嗟に言い換えたけどあんまし意味無いよ灰より抹消される方が悲しいよお見舞いに石持って来たのにねえレッド君んんんんん!!」

「いらん」



パンパン、と手を叩くと向こうから少女の手持ちである自称“番犬”のウインディが小走りで近付いて来る。
まるでネズミをくわえるが如くどこかのお偉い御曹司の襟をくわえ、外へと去って行った。

少し遅くなってしまったが台所へ行くと、既にピカチュウとリオルがまな板や包丁、鍋やらと食材を用意して待っていた。毎回のパターン化で大体俺が調理する時間を覚えてしまったらしい。誇らしげに胸を張る二匹の頭を撫で、早速調理に取り掛かった。



* * * * * * *



盆に小さな土鍋と水差し、それから薬。熱めの湯(と言っても熱湯に近い)に浸したタオルを絞り盆に置いた。
これらのセットは以前、俺が珍しく熱を拗らせた時(少女に移された)に少女が用意してくれた物一式である。普段一人なら絶対にこんな面倒な事はしないが、如何せん相手は少女だ。粗末には出来ない。(誰かはそれを惚れた弱味だとかなんとか)

頭と肩に飛び乗ってきたピカチュウとリオルには気にせず、盆を片手に寝室に向かった。………が。


「………………」

「おおう旦那!お疲れぃ、邪魔してんぜー」

「あ!レッドの旦那!お勤めご苦労様であります!」



そこには少女のファンだとか何だとか言う二人組が居た。あながち間違っちゃいないがこいつらに旦那と呼ばれる筋合いは無い。
……ふと端に見たベランダの戸が開いている。どうやらこいつらも不法侵入らしい。



「いやね、さっき下に行ったら変な兄ちゃんが倒れてた訳でよーゼンさんビックリだよ」

「世の中変な奴が多くていけねぇや、なあ兄貴!ベシャッ!!ぎゃああああああ顔があああああああ!!」

「うおおおおおお!!!??」



熱湯に浸したばかりのタオルをスキンヘッドに叩き付けた。



不正な奴らを摘まみ出せ

(あああ頭いたー……あれ、誰か来た?)(いや誰も?)



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大和様リクエスト
「レッド夢なのにやたらと他の連中がでしゃばる話」




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