おめでとう誕生日
「おめでとう!」
とリーグから帰って来た途端に彼女から言われ、は?と思ったのが正直な感想だった。
意味がわからなく玄関先に立ち尽くす俺に、プレゼントらしき綺麗にラッピングされた袋を押し付けられて漸く彼女の意図に気付く。今日は何日だったか。リーグでチラと見たカレンダーの日付が合ってるなら、確か今日は俺の誕生日だったような。
すっかり忘れていたそれにぼんやりと思い出しながら、少女のマシンガンの如く打ち出される言葉に耳を傾ける。「――――――――って訳でおめでとう誕生日!はい拍手!!」ニコニコと笑いながら少女がパチパチと手を叩けばその背後の群集(少女のポケモン達)もそれに習って手を叩く。そして何故だか肩に乗ったピカチュウまで手を叩く始末。だが生憎四足歩行の奴は両手を簡単には叩けなく、仕方なく床をダスダス叩くお陰で軽い振動になって足元に伝わってくる。
相変わらず主語が抜けていて分かりづらい彼女の言葉や、おめでとう誕生日って逆じゃないかとか、普通帰ってきたら第一声おめでとうじゃなくてお帰りじゃないのか、とか。いい加減に拍手するのを止めさせないとウィンディの足元に穴が空くぞ、なんて言ってやりたい事は結構あるが。何だかんだ少女が楽しそうに笑うなら、と流す事にした。
リビングに戻る少女を追って中に足を進めれば、机にはでかいケーキとでかいパフェとまたでかいケーキが乗っていた。全てが難易度と完成度の高いその甘味は、料理がてんで駄目な彼女が一人で作ったのかと疑いたくなってしまう。「さぁさそんな疑う前に一度食べてみてください…果たしてそんな疑いの眼差しを向けられますかね?いやね、ちょっと久々に少女さん本気出してみましたすげくね?ねぇすげくね?」
…と自分で自分を誉め称える少女は今は放っておこうと思う。喋るのに厭きて構ってほしくなったら何らかのアピールはして来る筈だ。
パッと見、プロのパフォーマーが作ったかのような完成度の高いそれは、取り敢えず何度かは生で作っているところを見たことがあるから本当に少女が作ったのだろうと思う。
渡されたフォークでケーキの端を一口大に切り取り、それを口内に含む。
じわ、と程好い甘さが広がった。
「…………美味い」
「よしキタ!」
口の中に広がる甘さは、きっと俺に合わせてくれたんだろうと思う。普段俺より甘党な少女は、もっと甘さが濃いものを好むだろう。味も良好だ。見た目も味も申し分ない。…だがしかし、何故甘味はこんなに上手く作れると言うのにご飯類は破滅型と言って良いくらいの完成度になるのか俺には分からない。
隣を見ればピカチュウがパフェにかじりついていた。
「(誕生日か、)」
確か去年まで、誕生日なんて都合上誰にも祝われたりもしなかったし、自分でも気付かなかったが。
それでも嬉しいと思うのはやはり自分が心底好いた相手だからなのか。
目の前で“力作”だと称えるケーキにかぶり付く少女を見て、ふと口元が緩んだ。
「…ありがとう」
小さく礼を溢した言葉に、少女はやんわりと笑った。
おめでとう誕生日
(祝ってくれる幸せ)
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りん様リクエスト
「どちらかが誕生日を祝う」