はっぴーはっぴーめるてぃんぐ





あまいあまい誘惑

それは、とろけそうになる、しあわせな





【はっぴーはっぴーめるてぃんぐ】





「あー…」





ん!と銀のフォークに乗っかった生クリームとスポンジを口に含んだアヤは、同時にふにゃりと破顔。
時刻は三時、世間一般で言うところのおやつ時。ご多忙に漏れず、自他共に認める甘党少女、アヤさんは今日も今日とて幸福絶頂におやつタイムを満喫中。可愛らしいデコレーションに粉砂糖の振り掛けられている純白のショートケーキの横には、温かそうな湯気の立つミルクとハチミツのたっぷり入ったロイヤルミルクティー。見る人が見たら胸やけのしそうな食い合わせをしているアヤと向かい合って座る青年、レッドは、いつものことながら呆れたように「よく食えるな」と頬杖をつきながらぽつりと零す。




「だってボク、甘いもの大好きだし」

「知ってる」




掛け値なしに甘いものが大好きな、可愛い可愛い恋人の主張にレッドはため息交じりに自身の紅茶を一口飲む。アヤとは違って砂糖の入っていない紅茶には独特の渋みが残っており、その後味に静かに瞳を細めながら、エンジンが入って熱弁する少女をひたと見詰める。




「砂糖は人類の英知!ボクなら敵に塩よりも砂糖送って欲しいね!」

「諺を変えるな」

「とにかくそれくらい幸せなんだよぉ……ボクが成人した時に甘党って政党あったら投票しちゃいそ…――――」

「そんな政党は出来な…――――って、そういえばお前、この間あの女顔医者に糖尿病予備軍って言われてなかったか?」

「………………」

「……………………」

「………………………」

「……………………アヤ、お前……」




ニコニコと如何に自分が大の砂糖好きかを主張していたアヤは、レッドに先日巻き起こった大事件を混ぜっ返され、んぐっ、と喉を詰まらせる。苦しそうに喉元を抑え込んで手を伸ばしたアヤに、レッドは何も言わずにキッチンに言って冷たい水を持ってきてやる。無言のままに水の入ったコップをレッドに渡されたアヤは間髪入れずに一気に飲み干す。




「落ち着いたか?」

「はい、あの……はい」




確かに先日、兄が総長を務める組織の専属医師に健康診断を頼んだら、「アヤちゃんはちょっと糖分接種し過ぎだねぇ〜。このままだと糖尿病になっちゃうよ?」と女顔負けに綺麗な笑顔でそう諭されてしまったのを、アヤはきっかり覚えている。忘れようもない出来やしない、診断結果を知った兄と恋人の表情が今でも脳裏に焼き付いている。
その時のことを鮮明に思い浮かべ、アヤは銀のフォークを恨めしそうに齧りながらちらりとに純白のショートケーキを盗み見る。一瞬の逡巡の後、つつつ…とケーキ皿を指で押して遠ざけたかと思ったら、やはり我慢が出来なかったようだ。目にも止まらぬ速さで皿を引きよせ、スポンジにフォークを突き刺して掬いあげた欠片にぱくりとかぶり付く。




「あの幸せになる甘さ、心をほぐすやわらかな触感、体の芯をとろけそうになるこの究極の存在を手放すなんて、ボクには到底出来ないよ……!」




絶対無理!と髪を振り乱して禁酒や禁煙ならぬ禁砂糖を断固拒否するアヤに、レッドはさて、と困ったように眉根を寄せる。アヤにとって砂糖は依存性のある麻薬か何かなのか、と疑問と呆れを抱いたレッドだが、ここで静かに口許を緩める。にこり、いつになくやんちゃに笑ったかと思えば、ひょいとクリーム上にあった苺を指先で摘みあげる。呆気に取られるアヤの視線も気にせず、ぱくりとそのまま赤く熟れた果実を頬張った。

「え、あ、ええぇええぇぇぇえぇっ!?そそそそそ、その苺は最後のお楽しみ、の…――――!!!」

「…ごちそうさま」




一拍後に状況を理解したアヤは、わなわなと今しがた恋人の口の中に消えた赤い宝石をわけも分からず指差す。




「幸せになるくらいに甘くて、心をほぐすようなやわらかな触感で、体の芯をとろけそうになるこの究極の存在、なんだろ?」

「そっ、そうだよ!」




売り言葉に買い言葉、レッドの先ほどの自分の主張をなぞる発言に胸を張って応えるアヤ。それより苺弁償してよ、と唇を尖らせる愛しい少女に手を伸ばし、その顎を掬い上げたレッドは、ニ、と白い歯を覗かせて笑ってみせる。




「なら、今度は俺に食わせてくれ」

「え、」




意味が理解出来ずに瞳を丸くするアヤの手を取り、有無を言わせず立ちあがらせる。食べかけのショートケーキが鎮座するリビングテーブルから、あれよあれよという間に連れ出されていた。






はっぴーはっぴー
めるてぃんぐ!




幸せになるくらいに甘くて

心をほぐすようなやわらかな触感で

体の芯をとろけそうになる、この究極的に愛おしい、君のことを






2人が……めちゃめちゃ可愛い……感無量です……(´;ω;`)ありがとうミコちゃん……(´;ω;`)


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