アザレアを敷き詰めて眠る
その言葉のように
貴方が教えてくれた喜びだから
【アザレアを敷き詰めて眠る】
今日は久々に、レッドと一緒に買い物に出掛けた。基本的に自給自足で生活を賄っているボク達は、あまり買い物等で外出しないため、始終テンションが高かった気がする。
今はその戦利品の一つである、白い花を模した入浴剤を堪能中。けれど、淡い香りや芯まで染みる熱いお湯に疲労が癒され、何だか眠くなってしまった。
すると、ボクの眠気を予期したようにパシャンと水が跳ね、ぼんやりとしていた意識が覚醒する。
「風呂の中で寝るなよ」
「寝ないよ!」
湯気が立ち込める同じ浴槽の中で、レッドが淡々とした口調で失礼なことを言って来た。
寝そうな顔してたぞ、なんて言いながら、レッドは水気を含んだ長い前髪を横に流す。濡れた髪を掻き上げる仕種の一つも色っぽいんだから、本当に目のやり場に困ってしまう。
「…おい、どうした?」
「……っ何でもない!」
お湯は入浴剤のお陰で濁っているとは言え、やっぱり見るのも見られるのも恥ずかしい。ふい、と顔を反らしてレッドに背中を向けて、揺れる白いお湯を意味も無く凝視する。
それにしても、レッドと一緒にお風呂に入るようになったのはいつ頃からだろう?最初は半端無く恥ずかしくて死ぬかと思ったけど……うん、慣れって凄いね。
パシャン、と再びお湯の跳ねる音がして、振り返ればレッドがボクに向かって腕を伸ばしていた。
こっちに来い、という意味なのだろうか。長い指がちょいちょいと動く。
「…………」
「…………アヤ、」
早く来い、と口でも言われ、さして広くもない浴槽を渋々移動し、レッドの胸に背中を預ける。あくまで前を向かないのは、ボクの最後の抵抗だ。
「何を拗ねてるんだ」
「拗ねてなん、か……」
詰問調のレッドの声に言葉が詰まり、視線をさ迷わせていたら、つぅ……とレッドの指が肩を滑った。その感触にビクリと震えるボクにお構いなしに、レッドはそのまま軌跡を描くように指を這わせる。肩から鎖骨、首へとゆっくり登っていき、うなじを伝って髪に触れ、す、と何かが引き抜かれるような感触。
あ、と思った時は既に遅く、お湯に浸からないようにと高い位置で結っていたボクの髪は、呆気なく湯舟に散らばった。
「ちょっと、何すん…――――」
「この花……」
「え?」
せっかく洗った髪が再び濡れてしまい、レッドの意図するところが分からなくて唇を尖らせたら、ぽつりと耳許に囁きが落ちた。
花、と再び言ったレッドの鍛えられた二の腕が目の前を通る。白いお湯の中にぷかぷかと浮いていた入浴剤の花を、形が崩れないようにそっと持ち上げた。
「あぁ、入浴剤の花……?それがどうかしたの?」
「いや……」
大きな花びらが幾枚も重なった花は、今はすっかり色が抜けてしまっている。お湯に浮かべた当初は綺麗な白だった、その花の名前は確か…―――
「アザレア……だった、かな?」
朧げな記憶を辿り、包装紙に印字されているだろう名前を読み上げる。正直、この入浴剤は見た目と他の部分にばかり気がいってしまい、モデルとなった肝心の花の名前はよく見なかったのだ。
「やけに欲しがっていたから……何か理由があったのかと」
「……」
的を得ている発言に、ボクは内心ギクリと固まる。
確かに、この入浴剤はどうしても欲しかった。少し値段が高めだったけど、それを差し引いてでも、レッドと一緒に入りたいと思った理由がある。
「理由、は…………内緒…」
「…―――そうか」
火照る顔を隠すため、髪が濡れるのも構わずにお湯に肩まで体を沈める。呼吸をする度にぷくぷくと小さな泡が浮かび上がり、子供みたいな自分の行為に少し呆れる。
対して、以外にもあっさり引き下がったレッドは、持ち上げた花を何をするでもなく指先でいじる。今にも溶けてしまいそうな白花をぼんやり眺めていると思いきや、ふいにくすりと笑みを零した。
「アヤ、」
「え?………あ、」
顎に指を掛けられ、くい、と引かれて俯いていた顔を上向けられる。驚いてレッドの紅い瞳を見詰めれば、ふわりと優しく孤を描き、何も言わずに花を髪に挿された。
「似合ってる」
「…………!!」
ふっと目許を緩めながら言われた台詞に、ボッと顔が赤くなったのが自分でも分かった。恥ずかしさも相俟って逃げるように俯けば、微かに聞こえる微笑の声。視界の隅を掠める花びらは、彼の吐息に弱々しく揺れている。
背中から包まれるように抱きしめられ、直に感じる肌と肌の感触に心が震える。頬を優しく手の平で包まれ、反らした視線を再び交えれば、もう何も言うことは出来なかった。
「……ん……」
「………ふぁっ…」
無意識に漏れた互いの吐息に、裡で燻る熱は一気に上昇する。熱い湯舟の中、それ以上に熱い互いの唇を重ね合わせ、更に強く抱き寄せられた。
体を向かい合わせて厚い胸板にもたれ掛かれば、啄むような優しかったキスはとたんに情熱的なものへと変貌する。アザレアの香りと口付けに酔いながら、朦朧とする意識の中でレッドの首にしがみつけば、応えるように背中に腕を回された。
アザレアを敷き詰めて眠る
お風呂から上がったら、一緒に髪を乾かそう。
そして、干したてふかふかのシーツに転がって、貴方と一緒に夢を視るんだ。
一緒にお風呂ぉおおおお!!
ちょっ、これは興奮する材料しかないぞ…!一緒の湯船にはいるとか!はいるとかかかかががががががががが!←
素敵な小説ありがとうございました…!