選択ミス



「やっぱり慣れない事はするもんじゃ無いんだよ……」

「そういう問題でもないと思います」



【選択ミス】



抜けるような青空の下、快晴の今日にそっくりな瞳を持つ年上の友人をちらりと横目で見て、私はこの街の地図に視線を戻す。

サンダースと一緒に隣を歩くアヤさんと私の今日の予定は、貯まったポイントカードで普段着を新調するのと、絶品という情報の老舗カフェのコーヒーセットを食べること。そして、アヤさんのコンテスト衣装用のドレスの調達だ。



トップコーディネーターでありながら、アヤさんは自身の身の回りにあまり気を配らない。「グランドフェスティバル決勝戦?いいよボクはジャージで出るよ」という爆弾発言をして周囲を昏倒させるくらいに、ドレス系統の服を持っていないらしい。そのため、先日幹部の女性に「なんとかしてくれ」と泣き付かれた私は、こうして買い物に同行している。



「ボクお店とか全然分かんないんだよねー…」

「なら、私のよく行く店で良いですか?」

「お任せしまーす!」



今日一日を買い物に費やす予定の私達だが、ナギは「伝説の人とバトルする!」とアヤさんの恋人である、あの“レッドさん”とバトルをしている。勝てるかどうかは別としても、全力は出すとナギは力いっぱいに主張していたからか、時折聞こえる爆発音は多分気のせいではない。



「……ここ?」

「はい。……お気に召しませんでしたか?」

「あ、えと……そうじゃなくて…………うん、大丈夫」



妙に歯切れの悪いアヤさんを不思議に思いながら、私は一緒に歩いていたアレックスをボールに仕舞う。この店はポケモンの入店を認めていないからだ。



「う、わぁ…………」



同じくサンダースを戻したアヤさんと店に入ったら、とたんに吐息のような独り言がポツリと聞こえた。シックな色調でありながらも華美な装飾の施された店内に圧巻されたようで、服を見て回ってもアヤさんはポカンとした表情を浮かべたままだ。



「あの…アヤさん……?」

「へ?…ああ、ごめんごめん!」



私がディープブルーのドレスを手に声を掛ければ、一拍置いた後に跳ね返すような反応が帰って来た。商品を眺めながらずっと「桁がおかしい」や「これ何の冗談?」と言っていたから、値段に驚いているのだろうか。



「随分と高価なお店なんだね……」

「まあ、老舗の高級ブティックですし……ですが、本部から衣装代として支給出てますし、気にしなくて大丈夫ですよ」



0が5つも並んだ値札を摘み上げて渋面を浮かべるアヤさんに、私は淡々と事実と現状を告げる。
そうなんだけど、と漏らしたアヤさんをフィッティングルームに引きずって行けば、ポンと手を叩いて明るい笑顔を浮かべられる。



「でもこんなに高価なお店だったら、強盗とかに襲われてもおかしくないよねー。あ、なんか悪人面見たくなってきた」

「確かに有り得そうですが、そんな都合良くは……」



ガッシャーン!!



「オラオラオラァ!!」

「金出せやコラァ!!!」


「「あ……」」


都合良く、強盗が現れた。



* * * *


「やっぱり慣れない事はするもんじゃ無いよね……」

「そういう問題でもないと思います」



人質として客の全員が店の一角に集められたのだが、私達二人には緊張感の欠片も無い。床に座らされた体制で、のんびりおしゃべりを続行中。まさか本当に悪人面を拝めるとは、と好奇心を覗かせるアヤさんの服の裾を、強盗集団の中に行かないようにとガッチリと掴む。



「それにしても、やりたい放題ですねー……」

「本当にねー……」



金を出せと暴れる連中は、店の調度品は壊すし服は散らばすと暴挙の限りだ。そんな彼等は今、現金の次に宝石等を要求している。余計な事をして騒いでいるあたり、連中の計画性の無さと低脳ぶりが窺える。



「やる事成す事乱暴ですね。本気で犯罪を犯すならスムーズにスピーディーに、スマートにやるべきです」

「お、語るねユウちゃん」

「典型的な馬鹿の集団ですよ。あれは私の美学に反します。そもそも、こんな人質を集める暇があったらさっさと現金を奪って逃走すべきですし、物品は捌くのに足が突き易いためわざわざ奪わないのが定説です。ああ言うリスキーなことをしている自覚の無い奴等は見ているだけで虫酸が走って…――――あら、」



じとりとした視線を感じて振り向けば、そこには私を睨む強盗達。喋り過ぎたか、と口をつぐんだ次の瞬間、喧しい声量で喚きだす。



「オラオラオラ姉ちゃんよぉ!」

「随分言っちゃってくれたじゃないのぉ!?」

「………………」



あまりにも知性の感じられない台詞の数々に、私は怯えるどころか呆れてしまった。正直な感想としては、弱い小動物がキャンキャン騒いでるようにしか見えない。



「黙ってねぇでなんとか言ったらどうよ、あぁん!?」

「…―――――ッ!」

「あっ!ちょっと何してんのコラアアアアアア!!」

「ゴッハアアアアアア!?」



ドガシャーン!!!!



ガクン、と肩を掴まれて固い床に押し倒された私を見て、アヤさんが素早く立ち上がる。私に馬乗りになった強盗の男に、素晴らしい威力のラリアットを喰らわせた。

そのまま男がショーケースに突っ込んだと同時に、私も直ぐさま体を起こして横に立っていた男の足払いをする。転がった男の横っ面を慢心の力で蹴り上げたついでに、モンスターボールをその場に放る。


こうなったら徹底的にやってやる、と本気を出して臨戦体勢に入ったアヤさんと一緒に、強盗集団を再起不能なまでに叩き潰したのであった。



選択ミス


〜強盗集団調書より〜

「選んだ店が悪かった……」




強盗ネタ!まず選んだお店より人質の人選ミスですね彼女達はジョーカー。一気に二枚も引き当てるとは強盗さん達は違う意味で運がいい…\(^o^)/アッー!
普通に足が飛んでくる女はどこだ!ここにいる!←

素敵な小説ありがとうございました!





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