パーカーの彼女


忘れもしない、今年の2月14日。レッドと迎えた、初めてのバレンタイン。

そして、偶然出会った、不思議な人…―――――



【パーカーの彼女】



「待てやテメェコラアアアァァア!!」

「逃げられるとでも思ってんのかコラアアアァァァアァ!!!!」

(ヒィィィィィィッ!!!!!!)



タマムシシティの路地裏をばたばたと走りながら、ボクは一体何をしているんだろう、と思わずにいられなかった。怖面の厳つい風貌をした、明らかに不良だのゴロツキだのと形容される連中に追い掛けられながら、思い出すのは1時間前のこと。



今日はバレンタインということもあり、ボクはお世話になっている人達にチョコを渡し、最後に一応恋人であるレッドをタマムシシティに呼び出してチョコを渡した。チョコを受け取ったレッドはボクを夕食に誘ってくれて、色気より食い気のボクは勿論その話に食いついた。
けれど、食事も終盤、さあそろそろデザートと紅茶を楽しもうかという頃になって、ふいにレッドが眉間に皺を寄せた。何かと思って視線の先を追えば、そこには何故かボロボロの不良集団が。


「ようやく見付けたぞテメェェェェ!!!!」

「表に出ろ!!さっきの礼返してやらぁ!!!!!!」

「………………」



出されたケーキをぱくりと一口食べ、レッドはうんざりした様子でため息をつく。
話によると、ボクが電話をした時にレッドはタンバで暴れていた暴走族を潰していた真っ最中だったようだ。ボクの電話で制裁を中断したレッドは、そのまま屍累々の暴走族を放置してジェット機のごとくタマムシシティへと来たそうな。



そしてその残党達が、仲間を集めて復讐に来たらしい。


店の迷惑にならないように外に出ると、あっという間に暴走族連中に囲まれた。
ほとんどの奴はレッドに無謀な勝負を仕掛けていたけど、その内の何人かは何故かボクを標的にしてきたから困ったもんだ。レッドみたいに同時に何人も相手に出来ないボクは、必然的に全速力で逃げるしかない。



こうして、レッドとはぐれて逃げること数十分。
慌てて逃げ出したもんだから、手持ち達のボールなんかが入った鞄はレッドに預けたまま。ポケギアはかろうじて手に握っているものの、こうも走り続けていたら電話を掛けることも出来ない。



体力もそろそろ限界、もう走るのは無理かと思った、その時だ。



「、!」

「どわああぁああぁぁあ!!!?」




猛スピードで角を曲がったら、偶然通りすがった人と危うく激突しそうになった。
ぶつからないようにとボクが必死で体を捻り、向こうもなんとか避けてくれたから最悪の結果は免れたが、そのせいで体勢を崩したボクは顔面から固いコンクリートに倒れかける。


転ぶ、と固い衝撃を予期して反射的に目をつむれば、ふわりと何か柔らかいものに抱き留められる。恐る恐る顔を上げれば、ボクを抱き留めてくれたのは、今まさにぶつかりそうになった女の子だった。



「大丈夫ですか?」

「え、うわ、あの……は、はい………」



何かの耳の付いたフードを目深に被った女の子は、小首を傾げながら静かな声で尋ねてきた。
彼女の胸に思いっきり顔を埋めてしまったボクは、吃りつつも慌てて返事をする(大きくて柔らかいなぁなんて感想を抱いたのは内緒だ)。



「ようやく追い付いた……!!」

「よくも散々逃げてくれたな、テメェ!!」

「覚悟は出来てんだろうな……!!!」

(うわこの人達のこと忘れてたーーーーーー!!!)



向こうも長時間の全力疾走で息が乱れたようで、荒い呼吸を繰り返す暴走族の男三人が角から姿を表す。体力は尽きても怒りは更に増したようで、ボクを見詰める目はギラギラと不気味に光っていた。この様子では何をされるか分からない上、フードの彼女も巻き込んでしまうかもしれない。



それだけは避けなければ、とラリアットを喰らわせる覚悟をしたボクだったが、対する彼女は不愉快そうに口許を引き結ぶ。そして、毅然とした姿勢でボクの前に進み出た。



「なんだテメェ!オメェも仲間なのか!?」

「ちょ、ちょっと危ないよ、貴女!」

「……」



無言で暴走族を睨む彼女の横に、恐らく手持ちなのであろうピアスをしたグラエナが黙って控える。唸るでもなくじっと佇むその姿には、静かな威圧感があった。



「テメェ、黙ってねぇでなんか言ったらどうグヘェアァェェッ!!!」

「!!!!!?」



痺れを切らした暴走族の男の一人が詰め寄った瞬間、彼女の容赦無い蹴りが鼻っ柱に直撃した。よくよく見れば随分とヒールの高い靴。あれはかなり痛いだろう。



「テメェ……いきなり何すんだよ!!」


当たり所が的確過ぎたらしく、鼻血をボッタボタと流す仲間を横目に別の暴走族ががなり立つ。それを見たフードの彼女は、ふん、と鼻を鳴らして腕を組んだ。



「それよりも、大分人目が集まって来ましたが、いいんですか?」



言われてみれば、確かに色んな人がこっちを見ていた。
三人組の男と女二人が揉めていれば、注目を集めるのは当然か。このままではジョーイさんが来るかもしれない。暴走族達もそう判断したらしく、「覚えてろよー!」とお決まりの台詞を吐いて走り去って行った。

なんとか収まった…と、安心して脱力したら、ふいにポケギアが震えた。レッドから電話が来たのだ。通話ボタンを押せば『今何処だ』と相変わらずの簡潔な言葉。けれど、騒々しい音が絶え間無く聞こえることから、まだ乱闘中のようだ。



「もしもしレッド?ボクは大丈夫……そっちはどう―――え?よく聞こえ…―――」


ない、と言い切る前にブツリと通話が途切れる。レッドのことだから大丈夫だろうけど、いきなり切るとはどうしたんだ。大技でも決めたのだろうか。



「レッド……」



物言わぬポケギアを唖然と眺めていたら、横からぽつりと聞き馴染んだ名前を呟く声がした。
あ、と思ってフードの彼女を見れば、向こうもボクの方を見ていた。フード越しでも視線を感じる。


「……それでは、私はこれで」

「あ、ちょっと待っ……なんか本当に巻き込んでしまってすみません!」



背を向けて歩き出した彼女に大声で呼び掛ければ、一瞬立ち止まって首だけを巡らせる。そして、「こちらこそ、」と何故か逆に謝られて、そのままスタスタ行ってしまう。



【パーカーの彼女】
これが一緒に歩くグラエナそっくりのパーカーを着た、不思議な人との出会いでした。



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ミコマチ様のユータナジアとの相互記念!

まままままさかのバレンタイン小説の続きッッーー!!!こんな構図の立て方もあるなんて凄いよユウちゃああああ(エコーエコー)ちょっ…!暴走族に追われるアヤドンマイ!レッドにメタメタにされる暴走族ドンマイ!ユウさんにヒールキックされる暴走族ドンマイ!でも尚美味しい!←

最後が何故電話が切れたのか気になりますが…取り敢えずニヤニヤしながら妄想しようと思いますニヤニヤ( ̄ー+ ̄)

ミコちゃん素敵な(×10)相互記念ありがとう!宜しくお願いします!





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