act.07 落とし物





弱いポケモンは要らない。強いポケモンさえあれば良い。

それは最強のトレーナーを目指すには間違ってはいないはず。

弱いやつは嫌いだ。

弱いやつに限ってウジ虫みたいな連中と馴れ合って集団で固まって、その強さを見せ付けてくる。

そんなのはヘドが出る。決定的に、もうバトルなんかしたくないと考えるくらいに叩きのめしてやりたいくらいだった。

当然ポケモンに優しくとか甘い事言ってるこの女だって、弱い筈なんだ。雑魚のはず。そのよく分からんポケモンを女が泣くまで必要以上に痛め付けて、「雑魚」と言ってやるのだ。そしてクソナマイキなこと言ってごめんなさいと土下座させてやる。

どうせ弱っちいのだ。

弱い筈、なんだが。



「はーい!ボクの勝ちィ!」

「……なん、」



見たことないバトルだった。

今までの屑な集まりのトレーナーとは全く違った。力もタイプも、全てが予想外だった。

そもそも戦い方が違うのだ。

俺はパワーでひたすら、ひたすらにポケモンに命令を出し攻めて攻めて猛攻の限りを尽くした。しかしこいつはなんだ。

全てを受け流す様に攻撃をいなして全く当たらなかった。このポケモンはなんだ?格闘タイプなのか?格闘タイプなら飛行タイプに弱いはずだ。なのに何故まだ倒れない?

あのポケモンが特別なのか?

なら絶対に欲しい。このブサイクはバトルが始まる前に勝った方の言うことをなんでも一つ聞く、というルールを追加した。願ってもない。バトルに勝ったらそいつを貰おう。まさか自分のポケモンが欲しいとは思ってないはず。

嫌がって渋っても奪えば良い。

人のものを奪うのは簡単だ。

オレが持つワニノコも研究所から盗んだものだ。

なのに!



「なに、まだやんの?いいよぉ別に」



呆気なく倒されたポッポを戻し、ボールをギリギリと握り締める。

俺の知らない、見たことの無いバトルをこの女は知っている

ポケモン自身を主張した存在感がある綺麗なバトルだった。それをなんと言ったら言いか分からない。

唖然とする間にポッポだけではなく、ワニノコまでたった一体のあんな小柄なポケモンにやられてしまったのは何故?

あいつのポケモンの二度蹴りが直に喰らい、ワニノコが地面に崩れたのを見てやっと我に返った。



「……チッ」



使えねぇ。

舌打ちを一つして倒れたワニノコをボールに戻す。ボールを握りしめて女を睨み付けた。

俺と同様に女はポケモンをボールに戻して、視線に気づいたのかにんまりした顔でこちらを見ている。

チクショウ!何でこんな奴に負けたんだ!



「良いか、今回俺が負けたのは何かの間違いだ!まぐれで勝ったからって調子にのるなよ」

「はいはい」

「…!(舐め腐りやがって…!)ポケモンも、弱いやつは要らない!」



覚えてろ、みたいなどこかの悪役染みたセリフを吐き捨てて踵を返し歩き出す。

クソ、クソ!悔しい。いや、決して負けた訳じゃない。運がわるかった。今回は運がなかっただけだ。

舌打ちばかりして階段を降りようとしたら何か聞き間違いじゃないだろうかと言う単語が奴から飛び出した。



「シルバーくーん」



ビタリ、と足が止まった。

……………あ?



「…………おい、」

「?」

「何で、俺の名前……」

「そうそう。ほら、落とし物!」



かなりの笑顔で渡された見覚えのある…いや、見覚えも何も俺の物であるトレーナーカードが奴の手の中にあった。

本日二回落とした俺のトレーナーカード。

笑えない!

無言で引き返しトレーナーカードを奪い返して早足で歩き出す。早くこの場から立ち去りたい。しかしこのクソ女が俺の肩に手を置いて笑顔で迫ってくる。「逃がさねえぞこのクソガキ」と顔に書いてある。



「あのさぁ。約束をなかったことにしようとしてる訳じゃないよねぇ?」

「ぐ…」

「勝った方の言うこと一つ、聞いてもらおうかなぁ」

「クソッ…なんだよ!」

「全裸で塔の下まで降りろや」

「は」

「なんでもするんでしょ?……んー、あっ!でも情けをかけてもいいよ。パンイチで1階まで降りなよ」



この女。人畜無害な見た目をしている癖に悪魔の皮を被っているらしい。



「サイキョーを目指すんでしょ?なら、こんな所でブサイクなクソアマに負けた上に約束一つ守れないんじゃぁねぇ……」

「っ…こ、のッ…クソっタレがッッーー!!!!」

「シルバー!ボク、アヤって言うのーまた何処かで会おうねー!」



テメェの顔、絶対忘れねぇからな!!!

次会ったらコロス。



シルバーはパンイチで一階まで爆速で降りていった。







- ナノ -