act.06 赤い髪の少年






「フラッシュ!」

「ぎゃぁあ目がぁああっっーー!!!」



キキョウシティに着いてマダツボミの塔に入るなりお寺のお坊主共がバトルを仕掛けてきた。バトルしないって言ってるのに。仕方なく一人目はサンダースでいなしたけど二人目以降はお坊さんがポケモンを出す前に、眼前でサンダースのフラッシュで目を潰して逃げている。

ここは観光客が多いからあまり目立つようなことはしたくない。



「そこのあなた!マダツボミの塔は…」

「フラッシュ!」

「ぎゃあぁぁ目があああ」

「今の悲鳴は一体…!」

「フラッシュ!」

「目がぁあああぁぁ」



目を押さえながら悶えるお坊さん達を無視して上に進んで行く。我ながらセコいと思うが仕方ない。バトルは苦手!

それにしても本当に面白い塔だ。ユラユラ揺れる大柱はどうなっているのだろうか。非常に気になるところだ。

隣に一緒に歩くサンダースを控えさせて一段一段階段を登って野生で出てくるポケモンもフラッシュで黙らせた。

ここの塔ってなんだろう。マダツボミの塔というだけあってマダツボミでも祀ってあるのか。揺れる塔なんて珍しいのでジョウト地方でも指折りの有名な観光スポットである。階層ごとにいるお坊さんともバトルもできるし、途中のお土産屋さんに寄ってみんなでマダツボミ饅頭とか買って食べている。勿論持ち帰り用に二箱くらい買った。そしてお土産屋さんの隣にはマダツボミ団子なんて売ってるちょっとした茶屋もあるのだ。

んーうまうま。美味しい。

最上階を目指して登っていたけどこれまた途中に小さなお蕎麦屋さんも見かけたからお蕎麦食べてそそくさと出る。因みにカイリューとリオルもフォークで蕎麦を啜っていた。塔なのに色んなお店が入ってるなー。天ぷら蕎麦美味しかったですご馳走様でした。

塔の中に入ってるお店は全てお坊さんが経営しているという。なんて良い商売しているのだろう。



「こんにちはー!」

「おやおや、元気なお嬢さんだね。勝負かい?」

「あっ勝負はしないです。ただの塔の見学で…」

「そうかいそうかい!古いものや歴史が好きなんじゃのうお嬢さんは。若いのに関心関心」

「あはは…それなりには」

「どれ、それならこの塔ができた頃の話でもしてやろうかな」



最上階に着いてまたバトルを申し込まれる前にフラッシュで黙らせようとサンダースを構えさせていたが、最上階には得の高そうなお坊さん一人だけだった。

非常に物分かりが良くて勝負はしないで済んだのは良かったけど…この人長話だなぁ。

一応塔の中は見れたしそろそろ町を出たいんだけど…。


さてどうしようかと本格的に悩んだ時、挑戦者らしい物凄く目付きが悪い赤い髪の少年が登ってきた。



「おい、ここで技マシンを入手出来ると聞いたんだが」

「おぉ…トレーナーかの?やっとるよ、ワシと勝負して勝ったらの話じゃがの」

「……ジジイ、ポケモン出せ。ボコボコにしてやるよ」



挑発に乗った少年がボールを握る。
お坊さんもボールからマダツボミを出し、少年はポッポを放った。

バトルは、見ていて決して良いものではなかった。

お坊さんのポケモンは一方的にやられてしまったが、勝った少年は自分のポケモンにも扱いが荒いし高圧的だ。雑魚だの使えないだの、聞いていてとてもじゃないが気分が良くなるものではない。

少年の飛行タイプにお坊さんの草タイプはやはり相性も悪かったけれど、そうではない何か。

それはきっと少年はポケモンを厳しく、乱暴に育てて扱う戦法だったからだ。

5分もしないで終わったバトルにお爺さんは小さく息を着いた。お見事、と言ったお爺さんの言葉を聞いて少年はポッポを戻す。



「絶対的な強さの持ち主である事は認めよう。しかしお主はポケモンに対してちょいと厳しすぎる。もう少し彼らに許しと愛情を持つことが大切ですぞ」

「ジジイ、負けたくせに文句言える立場か?……フン、馬鹿馬鹿しい。ポケモンに愛情?そんな事をするのは弱いトレーナーのする事だ。…弱いポケモンは必要ないし、存在すら価値のないものだ」



それを聞いて一目で分かった。少年の理論は強いトレーナーと強いポケモンで構成されている。そして強いポケモンを喉から手が出る程欲っしている。高みを目指して目指して、最強とかチャンピオンの座を狙っているのだろう。

弱くて勝負に勝てないポケモンは根本的に嫌いで、興味がないんだ。

彼はそっち部類の人間らしい。



「まあそれじゃいつか痛い目見そうだよな……」

「……はァ?」



お坊さんと少年のバトルを観戦していた第三者の自分が思わずポツリと言葉を溢すと、階段を降りようとしていた少年が足を止め、眉間いっぱいに眉を寄せて振り向いた。

確かに、人がどんな意見を持とうとその人の自由だ。

けれど本当に強いトレーナーを目指す上でそんな考え方はいつしか限界が来る。チャンピオンや四天王を見ていればわかるが、ポケモンを物のように扱う人間はまずいない。皆信頼関係や愛情の上にその化け物みたいな強さが成り立っているので、それがわからないとなるといつか詰みます。

まあそんな自分もポケモンを育てる者の一人で、技を磨くコーディネーターの一人であるので。

基本的にそんな考えの人は好きじゃない訳で。

何が言いたいかって言うとこういうクソ生意気な小僧は嫌いだ。



「いつか嫌われちゃいそう」

「いきなり誰だよブサイク」

「うっせぇクソガキ。もっと優しくしてあげなよ。可哀想じゃん」

「うっせぇのはどっちだよブサイク。ポケモンに優しく、とか言ってる奴が強いトレーナーになる訳がないだろうが馬鹿が」

「いやいや。極論すぎるっての」

「………お前、気に入らないな」



初対面で気に入らないって言われたー!

内心ズガンと衝撃を受けたが何とか踏みとどまる。
そして少年はギロリとボールを突き付けてきた。勝負をしろ、と。



「お前みたいな甘っちょろいこと言う奴、ウザイんだよ!ギタギタに叩きのめしてやる」

「え、勝負するの?」

「早く出せよ。どうせ甘ったれなこと言ってるトレーナーがそんなんじゃ、持ってるポケモンだって雑魚に決まってる」

「………」



ビキッとこめかみに血管が浮いた気がした。

いや、ボクの事をどれだけ言われようが何ともないんだけど自分のポケモンを貶されるのは…ねぇ。

それは許さん。

手塩にかけて育てた。もう腐るほど頭を撫で回し腕が痛くなる程ブラッシングをして色んな苦労を一緒にして。
死ぬほど技を磨き健康管理は目が飛び出るんじゃないかと言うほど細心の注意を払った。彼らは仲間でもあり家族である。

それを貶されるのは許せん。



「……良いよ。バトルしよう。フラッシュで目潰しして逃げようかと思ったけど。やっぱりやめた行けぇええリオルー!!」



メジャーリーガーを卒倒させる勢いでボールを一直線に放る。

これは豪速球だ!

豪速球のボールからアワアワとよろけながら飛び出てきたリオル。ボールの内側で頭をぶつけたのか涙目でタンコブを押さえながらボクの方を見上げる小さな青い生き物。ごめんねこんなトレーナーで。



「…見たことないポケモンだな…まあいいさ、叩き潰すだけだ。ポッポ!」

「勝った方が負けた方の命令一つ聞くってどう?」

「面白い!どうせオレが!強いに決まってる!」



チョコチョコと小走りしながらポッポと対峙するリオルを見てボールが壊れてないかボクは今更になって心配した。

ボールを慌てて見るボクを傍らに控えたサンダースが呆れた目で見ていた。



「ポッポ!あいつに風起こしだ!」

「このクソガキに鉄槌を下してやる…」



ボク、数年ぶりにヤル気満々である。






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