act.34 チャンピオンの怒り




「ぐふぉおおおお!!!」



ズザザザザー!!と吹っ飛んだ青年にフンッと鼻息荒くポキポキと指を鳴らす我らがシンオウ地方のチャンピオン。相変わらず凄いキレのあるパンチ…じゃなくて何でここに!!?

思わず空振りした腕が行き場を無くしてさ迷い、サンダースもシャワーズもえぇぇぇ…みたいな顔になっている。



「し、シロナさん…?」

「ふん!口ほどにもないわ。そして……久しぶりね。久しぶりアヤちゃん……っ今まで何処に居たの!?どこにいるかも分からないし電話も繋がらないし、探しても探しても見つからないんだもの!なんで何も言わずに……ねぇ聞いてるのアヤちゃん!」

「(…………だ、誰か…!)」



シロナさん、相変わらず物凄いマシンガントークですねそしてとても元気そうだー!

何でこんな所に居るのか分かんないシロナさんとは、本当小さな頃にワタルさんに紹介…いや違う。家に……そうだ、家にワタルさんもシロナさんもたまに遊びに来てたんだった。

勿論ボク目当てで遊びに来ている訳では無い。断じて。
ボクではなく、ボクの身内に用があって。何回か顔を合わせて遊んでもらっている内にワタルさん達“3人”に懐いた。ワタルさんもシロナさんも、今では自分の兄や姉みたいな存在である。…うーん。今思えば懐かしい記憶だ。

殴り飛ばした青年にガンを飛ばした後シロナさんはギュルンと首を回し、自分を見たかと思うと肩をガクガクと揺らし始め、長ぁいマシンガントークを語った。



「(……変わって無いなぁ)」



どんな小さな些細な事でも全力で心配するシロナさんは変わっていない。昔と変わったとこと言えば短い金髪が長くなったのと変な黒い耳(アクセサリーだよね?不思議な形してるけど可愛いですね。たぶんシロナさんしか似合う人いないけど)が付いてる事。

今でもこんなに騒いではいるけど今でも変わらず心配してくれる彼女に心の中で手を合わせて感謝。



「貴様、貴様らぁ…!!俺を無視す」

「アヤちゃぁああああ」

「ゴファッーー!!」

「うあああダダダダダイゴさんんん」


シロナさんに吹っ飛ばされて床でピクピクと動いていた青年がダバダバと血が溢れる鼻を押さえてガバリと顔を上げた瞬間。

今度はドアを突き破り、ボクの名前を叫びながらながら入って来た…………これまた懐かしい顔のダイゴさんに踏み潰されて今度は全く動かなくなってしまった。なんかパキッとかいう嫌な音がしてたので、もしかしたら肋骨か何か折れたのかもしれない。可哀想すぎて言葉も出なかった。

そしてダイゴさんを眼前に捉えた時、自分の口がおもいっきり引きつったのが分かった。



「うわぁああアヤちゃああん!!今まで何処に行ってたんだい連絡もしないなんて酷いじゃないかッーー!!」

「鼻水汚ぇぇぇイヤァァァ」



ダバダバ涙と鼻水を滝のように流しながら抱き着いて来るダイゴさん。ちょ、ヤメテ!涙はいいけど鼻水はっ……アッーー!!

涙を流すこちらの方はシロナさんやワタルさん同様のホウエン地方のチャンピオンだ。グレーの髪が特徴の……いや、何だか紹介するのが面倒なので容姿の説明はここら辺で終わりにします。とにかく無類の石マニアな人だ。この人本当にチャンピオンかよって言うくらいリーグの仕事をほっぽって石を採掘しに遊びに行ってしまうらしい。しかもモンスターボールを開発しているデボンコーポレーション大企業の御曹司である。

すげぇ肩書き多いなこの人。

さて、重要な事を一つ言おう。



「アヤちゃん元気だったかい…?もうボク、心配で心配で……なんでグランドフェスティバルであんなことしたの…?ミクリが骨折ったりして大変だったんだよ…ミクリファンがキミに怒り狂っててさ…」

「そ、その件については本当にすみませんでした…後先なんて考えてなくて……」
「まあもう5年も前のことだけどね…それにしてもアヤちゃんが疾走するまでにメールを送った回数1320回その内24通しか帰って来ないあの日が懐かしいよ…来る日も来る日も僕を足蹴にしてくれたよね。流石にイラッときたよ。でも大丈夫!君の事は妹みたいに昔から見てきているからね!そういうのも照れ隠しって事は分かってい「フンッ!!!」痛イッ!!」



ご覧とおり鬱陶し過ぎて少しウザイ。

そしてこの人は極めつけロリコン気質である。ダバダバと涙を流しながら傷が付いていない反対の頬に頬擦りしてくるロリコン石マニアを頭突きで威嚇するがあまり効いていない。ガッデム。



「いやぁねアヤちゃん。本当は私達、個人趣味でジョウトに来てたんだけどワタルがアヤちゃん今ここに居るよって教えてくれて」

「(ワタルさんの裏切り者!!)」

「それにしてもアヤちゃん何でこんな危ない所に居るんだい?しかもこの頬の傷…普通の怪我じゃないよね。………まるで刃物みたいな傷痕」

「え、いや、あぁその……」



サカキさんの悪人面が見たかっただけだなんて言えない。

それにそのとばっちりで今は撃沈している青年のアブソルの放った鎌鼬が当たっただなんて言えない……(言わずともそれが知られたらボクはワタルさんにメンタルが殺されそうだし、あの青年はシロナさん達に半殺しにされそうだ)

無理矢理話題を変えようとしたその時だった。



「あ、あのそういえばワタルさんは」

「ワタルかい?ワタルなら……」

「ここに居るよ」



いつの間にかカイリューを連れてズカズカと部屋に入って来た噂のワタルさんがニコニコしながら歩いて来た。かなりのしたっぱ達相手に連戦していた筈なのにカイリューのみで戦ったであろうその本人は全く疲れて無さそうだった。むしろイキイキとした顔はまだ暴れ足りないようだ。

相手に畏怖や威圧感を与えるような立ち振舞いや真っ黒なマントをバサバサと靡かせながら歩く姿はまさにチャンピオン…と言いたいが。彼の顔が……異様に笑っているのは気のせいだろうか。ニコニコ、いやニッコニコと笑顔を絶やさずに居る彼は絶対に怒っている証だどうしよう…!

ワタルさんはボクの前まで歩いて来ると辺りに散らばった自分の髪とボクを交互に見て。そして少し血が流れる頬と首を見た瞬間笑みをますます深くし、こめかみに血管が浮いた(!!)



「何をっ…考えているんだ君はぁああッッ!!!」

「ごめんなさいいいいっ」



眉を急激に吊り上げて怒りに染まった顔でガシリと頭を捕まれた。

ヒクヒクと口元が引きつっているワタルさんを見るのは久々だった。



「何で君がここに居るんだ!アジトに来いなんて俺は一言も言っていないだろう!!言ったか!?どうせ意味わかんなくて下らない理由で侵入したんだろうけどダッサイ格好した連中でも危険な集団である事は君も分かってるだろう!その頬も首の傷も!髪も切られて!それだけで済んだもののっ……もし取り返しのつかない事になっていたらどうするつもりだ!!」

「っ…」



ギリギリと頭を捕まれて今までに無い声で怒鳴られる。

こ、ここまで怒られたの、初めてだ……。

シロナさんもダイゴさんもそのワタルさんの怒鳴りっぷりに驚いたように目を点にしている。(まあそりゃそうだろうな)

その威圧に押されて頭を垂れて。ごめんなさい、ごめんなさい、もうしませんと謝るとまだ何か言いたそうなワタルさんが深く溜め息を着いた。



「……昔から俺達もそうだけど、言ってるだろう。もう少し考えて行動してくれって。君に何かあった時、心配する俺達の身にもなってくれ。本当に今までどれだけ心配したと思ってるんだ」

「ご…ごめんなさ……」

「そう。口で謝るのは簡単にできるけどね」

「ごめんなさいぃっっ!!これからはもっと、慎重に行動しますから……!」

「………はぁー…まぁ、無事で良かったよ」



溜め息を着いた後、自分の頭をガシガシかくワタルさん。苦笑い気味でボクの頭を撫でるワタルさんの手を見て本当に申し訳無い気持ちになった。

そうだ、今回の行動は自分が悪い。怒りの湖に連れて来たのは他でも無いワタルさんだけど。



「それにしても本当に短くなったね。……伸ばしてたんだろ?」

「まあまた伸びますし…」

「後で切り揃えた方がいいよ」

「あ、じゃあ私やりましょうか」

「そうだ。あそこに伸びてる彼はどうするの?警察行き?」

「んーそうだね。警察行きだね。他のロケット団も出来れば警察に引き渡して……」

「……あ、あのワタルさん。ゴールド君とコトネちゃんは?」

「あぁ、彼らなら心配いらないよ。どうやら怪電波の原因は無理矢理電力を流し続けていたマルマインだったらしくてね。仕方無いから気絶させる事にしたんだけど…今二人で手分けして作業してるよ」



やっぱりあの子達強かったよ。幹部を倒すだけの力はあったから。

と楽しそうに語るワタルさんの顔を見てボクも改めて息を着いた。



「さ、帰ろうか」




(………ん?そういえば、幹部倒したって……ってことは、コトネちゃん本当にやった!!??吊るして生尻叩きと全裸亀甲縛りやった!!??)


それはコトネちゃんとゴールド君のみぞ知る。









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