act.02 五年後




輝く日光を遮る深い森、ウバメの森。

薄暗く、ポケモン(虫中心)が沢山住まうが穏やかな森だ。その最奥部にひっそりと佇む一件の家があった。

その大きくない、小さくもない家の中でゴリゴリと何かを擦る音が聞こえてくる。



「リオル、アレ取って」

「ばう」

「それ取って」

「ばう」

「これ取って」

「ばう」



あれ、それ、これ、を表した物を只口から初せばボクが思っていた物と同じ物をリオルは手際良く抱えて自分に渡す。それは長年一緒に居て同じ事をやってきた慣れというものか。

ゴリゴリと木の実を擦り潰し粉状にするとリオルが取ってくれたネコブの実、大きな根っこ、モモンの実を加えてまた棒で擦り潰す。

ゴリゴリゴリゴリ。

トップコーディネーターを決めるグランドフィスティバルが終わって5年が経つ。

ミクリにラリアットして階段から突き落としてしまい、逃げるようにシンオウ地方から故郷のジョウト地方に来て現在はウバメの森に住んでいる。
人に極力見つからない様にひっそり建ててある家には穏やかな生活が続いていて、あんまりにも暇だからある一つの個人営業を行ってみた。ポケモン限定で薬を作る事である。

やっぱり自分もコーディネーターで、ポケモン達に合わせたご飯を独自で混ぜ合わせた物を作る事だってあった。ケアであるマッサージも欠かせないから、それを引っくるめた上で。



「リオルーそれ入れてー」

「ばう」

「あ!そんな入れちゃ駄目だよ、苦すぎる!」

「ばーう」

「これも入れてね。苦いからね」

「ばーう」

「よし、じゃあそろそろか。カイリューおいで」



リオルに棒を持たせてゴリゴリする様に促せば棒を抱え込んでゴリゴリし始めた。
ボクはそれを見た後にカイリューを呼び寄せる。ルゥーと鳴きながらボールから出てきたカイリューは呼び寄せる理由がもう分かっているのか背中にある翼を二、三度羽ばたかせた。



「カイリュー、この薬とポロックをホウエン地方のカイナシティまでお願いね。きっと受け取る人は行けば分かるから」

「ルゥー」



カイリューの首に「特注品」を数個入れたポーチをぶら下げた。お代を示した紙も忘れずに。
カイリューはポーチを確認するとノシノシと歩き、玄関の扉を開けて飛び立って行った。カイリューのスピードなら半日すれば帰って来るだろう。

ゴリゴリと粉を夢中で擦るリオルを止めてそれをビンに移した。

時々、極たまにだけど有るんだよね。何故だか知らないけど突然電話が掛かってきて薬を作る依頼が。勿論薬だけじゃなくてポロックやポフィンとかポケモン専用美容液とか、その他諸々。

本当は運良くここまでたどり着いたトレーナーの人達限定に売り出しや休息所として開いているんだけど、きっとそれが原因で電話があるんだと思う。(勿論自分の顔出しはNGだからマスクやフードなんかを被って対応している)

まぁ元々お金には困らないし、(以前トレーナー達から巻き上げて知らない内に大金になってた)これは本当に趣味でやっている事だから。

もうやる事が無いと分かったリオルはトコトコと歩いてソファーにボスンとダイブし、寝てしまった。ボクも玄関の扉を開けて相変わらず日光の光を葉が覆う薄暗い森を見渡して。

サワサワと葉が葉と擦り合わさる音はいつ聞いても気持ちがいい。



「もう3時かぁ…おやつ何作ろう」



あれから5年。

自分で言うのもなんだけど多分トップコーディネーターに一時でもなった自分はテレビや新聞なんかに大きく取り上げられて、特にコンテスト会場が設置してある地方には広く知れ渡っている。5年間ジョウトに居たけど流石にコンテストが盛んでは無いジョウトにはあまり流れて来なかったようだ。……だと言う事は、その隣接であるカントーには絶対に流れては居ない。トップコーディネーターと言っても所詮、名ばかりのものとなる。

まあバトルのチャンピオンとなれば話は別、だが。

優勝した日に逃走して、しかもミクリさんにラリアットもしてしまったし。パキっとかいう嫌な音も聞こえたから間違いなくどこか折れたかも…。どうしようあそこまでするつもりはなかった。暴力沙汰起こしちまった……。もう怖くて(特に女性陣)とてもじゃないけど帰れない。

あれからホウエンにもシンオウにも行っていなし。そもそも外に出てないし、誰も自分の消息を掴めて居ないだろう。

だからコンテストには一回も出てない。

出たいけど、出れないのだ。本当はまた舞台に立ちたい気持ちはある。けどもうムリだろう。というか多分もう一生出れない。あんなことをしたのだからグランドフェスティバルおろかコンテストひとつ出場することさえ許されないだろう。もしかしたらコーディネーターの資格も今頃剥奪されているかもしれない。

玄関の扉を閉めて。

キシ、と椅子に座ってはぁ。と溜息を着いた。

今更何を罪悪感に浸る必要があるのだろう。全部自分が引き起こしたことだ。



「…………暇だ」



身勝手な罪悪感を感じるのはやめよう。

今現在唯一の悩み。それは暇すぎる事だ。でもほぼ毎日、日常生活の中で技を磨く事は忘れてないしケアも怠っていない。それだけは放棄はしない。

時々ポケモン鍛えたり技を磨いたりと。ポフィンも作ったりするけどそれでも時間は腐るほど余っている。



「…キノコ探しに行くか行くまいか」



暇。

それが現在の生活状況である。やることも無くなってしまった今、森の中を散歩がてら木の実や薬草を集めるのもいいかも知れない。よいしょ、と腰を上げて出かける準備をする。まあ出かける準備と言っても特に準備することなんてないが。カゴとか手袋くらいだろうか。






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