act.27 怪電波





「あっはは!マフラーでも巻いとけば何とかなるよ!ほら、」

「笑い方ムカつく!……そうですか、ね……」



さっきポケギアを使ってレッドさんに文句のみをマシンガンで押し付けて通話ボタンを切ったばかりだ。しかしあれだけ文句を言っても「………」だったし。

やっぱりまああの人は無言だったけど、何か微妙に不機嫌だったような。

息を切らしながらポケギアを持つボクの後ろでワタルさんは椅子にかけてあったマフラーを無造作に掴み、ボクの首に巻き付けた。とても苦しい。

ハハハと何だか腹の立つ笑顔で笑われた後にガシリと手を捕まれ、え?と思っている内にワタルさんに家から引っ張り出された。



「ちょっ…!!ちょちょちょちょ!!?な、何!?何ですか何ですか!?」

「さ、行こうか。ちょっと手伝って欲しい事あるんだよ」

「え、えぇぇぇえ!!?」



あっという間に家から引きずり出されたボクはただ笑うワタルさんに後ろから捕まえられ、首根っこ捕まれて外に居るワタルさんのカイリューに渡された。

やはり彼のカイリューもボクを離す気は無いらしく、がっちり抱き締められる様にホールドされると肺気管がぐっと詰まった。く…苦しい…!!

すると勝手に彼はボクのポケモン達を各々ボールに戻し、鞄を掴むとそれに全部入れる。何故か家の鍵も勝手に閉められて鞄にしまうとワタルさんはカイリューに飛び乗った。



「飛べ、カイリュー!」

「え、ちょっと待ってこれで飛ぶって無い無い無い無いっ……ヒィイイイイ!!!!」



ワタルさんはさも同然と言った顔でカイリューの背中に乗っているのに、ボクはカイリューに抱えられたまま空を飛行する。こんな強引すぎる命が危ない空の飛行なんて初めてだ。

カイリューは自分を離すつもりが無いのは知っているが、やっぱり怖いもんは怖い。だってみてよ!足宙ぶらりんだよ!?

というか何でワタルさんこんな事してんの!?もしかして誘拐?拉致?何が目的だ?もももしかしてっ……、



「誘拐も拉致にも興味無いから安心してよアヤちゃん」

「あのすいません何だかつい最近のデジャヴュを感じるんですが気のせいですか」

「は?何が?」

「こっちの話です放っといて!………で、今回は何の用ですか。強引にまでボクを連れて来るだなんてワタルさんらしくない」

「……あぁ、そうだったね。突然すまなかった。……手伝って欲しいんだ」

「…………、え?」



足は地面に着かずスッカスカだけど、これ以上恐怖心を煽らない為に前を見る。首元でヒラヒラと風に靡く白いマフラーが邪魔でしっかり首に巻き付けるとボクはワタルさんの答えを伺った。

手伝って欲しい、と彼は言うけどあのワタルさんが手伝って欲しい事なんてあるのか。

ボクの脳内で“出来ない事は無い完璧な人間ベスト3”に入るワタルさんが、ボクにお願いだと…!?今まで全て一人でやりこなしてしまう、あの人が?



「は…話の内容によります、けど」

「内容…ねぇ?今ね、怒りの湖がおかしな電波に犯されて無理矢理進化させられたギャラドスが暴れ回ってるんだ。数がちょっと多いから一緒に」

「え、ギャラドスってあの超狂暴なギャラドス?海の暴君巨大ナマズ?それを、何体も………?や、やだ……」

「あはははそう言うだろうから無理矢理連れて来たんだよ。人手不足なんだ手伝ってよアヤちゃん…!」

「い、嫌だぁぁぁぁああ!!!」



そ、そんな危険な事に首なんか突っ込みたくないよぉおお!!

ブンブンと首を振り身体で嫌だと拒否を全力で訴え、今空飛んでる事なんて忘れて暴れるとワタルさんに突然腕を強く捕まれてグイッと引っ張られた。

何だ何だとギョッとしてうる内に、カイリューの背中の上に引っ張り上げたボクの肩にガシリとワタルさんの両手が強く乗った。



「怖がらなくても大丈夫さ。いざと言う時は俺がなんとかするし、それに君は殺しても死なないさ!」

「何それ!!?後者の部分聞き捨てならない言葉が聞こえたんですけどーー!!?」

「褒めてるんだよ、大丈夫だよ君なら」

「何なのこの人ぉおおお」

「それにたまにはポケモン達を満足に暴れさせてあげた方が良いと思うな」

「ぐっ…」

「あはは、ぐうの音も出ないかい」



何処にそんな根拠があるんだ!?そもそも何とか出来るならワタルさん一人でやってよ…!

いつもはカッコいい筈の笑顔が今はとんだ似非笑顔としか感じられない。逃がさんとばかりにマフラーをギュッと掴むワタルさんに内心戦慄を繰り返すボク。

カイリューの背中に引っ張り挙げられたボクは、ワタルさんが落ちないようにと背後でシートベルトの役割を担ってくれているからお腹周りをホールドされている。……最近後ろからよくホールドされるな。

……ギャラドスとか、しかも暴れてる危険なポケモン相手にするなら何も一般人のボク(一般人では無いかも知れない)じゃなくてもイブキ姉さんとか、四天王の人達を引き連れていけば良いのに!きっと彼らなら喜んで着いて来るに違いない。

それに一瞬で終わらせたいなら噂のあのシロガネ山の主を連れて行けば早く終わる事じゃ……あ、あの人はそう簡単に山から出ないか。

ブツブツと文句を言う自分をスルーし続けたワタルさんが何かを思い出したように「あ、」と言うと彼はボクへ気の毒そうに口を開いた。



「……そうだアヤちゃん、最近チラッと聞いた事なんだけど」

「な、何ですか…その物騒な顔」

「失礼だな君は。最近ジョウトのあちこちであのロリコ………ごほごほホウエンのね、チャンピオン野郎…じゃなくて頭文字ダから始まってゴで終わる奴をチラチラ見たって良く聞くんだ」

「……………は?……ま、まじ……」

「マジマジ、大マジだよー何をしに来たか分かんないけどまぁ。休暇かなぁ。怒りの湖でさすがに遭遇するなんて事はまずあり得ないと思うんだけど、」

「う、やややだあぁぁ!!嫌だ!行きたく無い!あの人の出現率は野生のそこらのポケモンと比較にならないくらい……」

「降ろさないからね」

「いやぁあああああ……!!」



ガーーン!とショックを受けている内に怒りの湖は直ぐそこまで迫って来ていた。




(あれ?その怪電波って、自然現象って訳じゃないですよね?)

(ああ、勿論)

(………あれ、もしかして。ワタルさん、もしかしてボクに犯罪集団の掃除の手伝いさせようとしてます…?)

(………まあ、犯罪集団と言っても大したことナイサ)

(………犯罪集団の名前は?)

(……………ロケット団……)

(帰るッッ!!!今すぐ帰る!!降ろしてっっ!!)

(逃がすかッッ!!本当に人手が足りないんだって!!頼むよアヤちゃん!!)








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