act.23 明日生きているかどうか





「うわぁああああ寒ぃぃぃぃぃ!!」



あの時と同じようにシロガネ山の敷地内に入れば野生のポケモンから荒々しい歓迎(決して嬉しい歓迎ではない)をされて散々追い回され、やっとの思いで撒いたようだ。

だがいつの間にか雪が降るなんてレベルじゃなく、軽く吹雪いているじゃないか!
その中ボクはコートの下はいつも通りの服装だし、首元はスースーするしもっと着込んでおけばよかった…!これじゃあ真冬に素っ裸で走り回る奴と同じ気違いじゃないか!
唯一の救いがウインディの入ったボールは今とても暖かくて、高性能なカイロの役割になってくれているということ。


「カ、カイリュー大丈夫…っわぁぁああ!!カイリュー顔真っ青だよ!?ちょっ、しっかりッーー!!!!!」



カイリューの顔を覗き見ればかなり真っ青な顔。ゆっくり大きく浮遊する体の体温は本当に冷たい。冷たすぎる。

そうだよカイリューは氷は天敵だ…!天下のドラゴンでも氷タイプが苦手なのは有名じゃないか!

フラフラと飛ぶ中、ボクが慌て出すと大丈夫だと小さく鳴いた。これだと落下は時間の問題だ。早く着陸しないとお互い命に関わる…。

バサバサと宙を飛んで数時間、シロガネ山の頂上に着いてカイリューはゆっくり地面に降り立った…と同時、へなへなと座り込んでしまった。



「わぁああごめんカイリュー!後で暖めてあげるから戻って休んで…!」

「ルゥー…」



光に包まれてボールに戻ったカイリューを確認してからボクは鞄じゃなくて内ポケットに入れた。少しでも暖を取らせる為だ。

最近はポケモンを鍛えていないし、体力も衰えているだろう。(技しか磨いてない)しかも自分を背に乗せて雪の中を長時間飛行したのは流石にキツかったか…後で頭を地面に擦り付ける勢いで土下座しよう。

代わりにウインディがボールから出てきた。雪にも寒さにも強いし、ウインディも自分に任せろと鼻高くしている。頼りになるぅ!後でねこまんま用意してあげるね…!
しかしまあシロガネ山の山頂に着いてしまった。よく吹雪の中到着できたな。カイリューさまさま。

ああ…レッドさん、どうしたんだろう…。怒ってたらどうしよう…。肩に乗ったリオルにどうにかしてよ、と質問すればやれやれと首を垂れた。何だこいつぅぅうう……!!



「……………レッドさんの所行かなきゃ…な………」



レッドさんに自分から殺されに行くような事しちゃってさ!せめて冥土の土産に怒ってる理由なんかも聞いて…いやいや、殺さないでって泣いて懇願するとか……あぁどうしよう本気で泣きそうだぜ。

―――――ジャリッ



「ぎゃあああああ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃお願いですからどうか命だけはッッー!!」
「……何を言ってるんだお前は」

「ばうばうーー」



突然背後から雪を踏んだ音に異常にビビった。後ろを振り向けば今お会いしたくない顔……レッドさんが何だか軽く眉間に皺を寄せて首を傾げていた。え、何で不機嫌そうな顔!?やっぱりボク何かしたのか…!!?

そんなビクビク怯えまくるボクを裏腹に、リオルはピョンッと肩から降りてレッドさんのところにトタタタタと走って行った。よじよじとレッドさんの肩によじ登ったリオルをやはり無表情で軽く撫でている。



「…って言うかレッドさん寒!!何で半袖!?ちゃんと服着てって言ったじゃん!?見てるだけで凍える!雪降ってますよほら周りを見て!白、真っ白なの!!」

「…………」

「なっ…何でそんな不機嫌そうな顔するんですかー!?しかもその首に下げたネックレスは何です!?何だか某カントーチャンピオンの匂いがプンプンするんですけど…!?置き土産かあの人!?」



あぁ、と自分の首元にあるシンプルな金のネックレスに気付いたレッドさんは「返すの忘れてた」と小さく呟いた。よく見れば赤いピアスも耳にあるではないか。あんなのしてたっけ?…まさかレッドさんは完全にワタルさんに毒されてしまったのでは…!

なんて事…。

しかも雪も降っていて軽くだけど吹雪いているのに半袖で外にいるなんてどういう神経してるんだろう。この人には感覚と言うものは無いのか…!

未だにリオルを撫でる手は止めずに、不思議そうに首を傾げるだけのレッドさん。これは本気で人並みの常識を教えといた方が良いのかも知れない。ピカチュウさんにも協力してもらって……。

…………あれ?



「レッドさん、ピカチュウは……?」

「………」



ピクリ、とリオルを撫でるレッドさんの手が止まった。

ピカチュウと言えばいつもレッドさんの肩に乗っているのに。そのピカチュウを肩に乗せないでレッドさん一人出歩くのは珍しい。あの一週間この人は必ずと言って良いほどパートナーであるピカチュウを傍に置いていたから。

何でだろう、と不思議に思っていればいきなりレッドさんが凄い勢いで手を掴んで来た。



「ヒィッ!?」

「ちょっと」

「え、え、えぇっ!!?」



来い、と有無を言わせない言葉の重みと威圧感に負けてボクはいよいよ人生の終わりを感じた。



「(ああ、終わった…………)」



洞窟に引きずり込まれながらシロガネ山が自分の墓穴になるのかなんたらと考えていたが、レッドさんが微かに、よっぽど注意して見ない限り分からないけど…やっぱり焦っているように見えたのは気のせいではなかった。とこの後のボクは思ったのだった。












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