act.22 ただ怯える
「みんなー!準備はいいでしょうか!」
と声を掛ければ小さく声を上げて頷く手持ちの皆様。
それを確認してからカイリュー以外(リオルをボールに入れようとしたら両手で押された。イや、と言ったようにグイグイボールを押し戻されてしまったから仕方なく肩に乗っている)をボールにしまい、外に出て家の鍵を閉める。
ザワザワと葉と葉が擦れ合う音が今日は異様に大きい気がするのは気のせいか。きっとレッドさんからの襲来電話と急な謎の要求がのし掛かっているせいだ。
断るなんてそんな……ボクができるワケがなく。
いや、別に断ることもできた。レッドさんも断られたからって自分の要求が通らないうんぬんでブチ切れたりする人ではたぶんないし。だから普通にテキトーに理由をつけて断ることもできたんだけど。
電話先で話すレッドさんの声が少し焦っていたような……そんな気がしたから。
ちょっと気になったからシロガネ山に行くだけです!
ばう、と先を急がすように肩をバスバス叩くリオルを撫でてカイリューの背に乗った。
「ボクに何の用があるのか知らないけど…場所はまたシロガネ山だからね。気を引き締めて行こう!」
「ばう!」
「ルゥー」
バサバサと大きく羽ばたいたカイリューはフワッと宙を浮き始める。
リオルが風圧で落ちないように片手で押さえたと同時、空高く浮上する久々の感覚に少し恐怖を覚えて悲鳴を上げそうになったがグッとこらえた。
向かう先は一か月前に踏み込んだシロガネ山だ。
あの時は私情でブルーメチルを探しに探索に来ていたが今回はあのレッドさんからの招集である。レッドさんには悪いが不吉な事が起きそうな、そんな予感がするのは……気のせいかなぁ。…え?もしかして治療中にミスがあったとか…!?言われた通りにブルーメチル全部燃やしたのにまた体調崩したとか!?その文句があるとか…!?療養中特に何もなかったし、中途半端なことはした試しはない。でも万が一ということもある。
ボク明日までちゃんと生きてるかな…!?
第一レッドさんがボクの連絡先をワタルさんに聞いてまでボクに何の用が有ると言うのだ。何らかの理由が有ると思うのだがそれが分からない。(分かってたら苦労なんてしないよ!)
何か、お気に召さない事でもあったとか…予想もつかない方面で怒ってたらどうしよう。きっとレッドさんは無言でキレるんだろうな。あの目力で凄まれたりでもしたら…………………あ、どうしようボク殺されんじゃなかろうか。そうだとしたら絶対に逃げ出せる気はしないし、明日の太陽も絶対に拝める気がしない。
シロガネ山の土にされそう。
今日がボクの命日…!!?
「う、うわぁああ、ああぁあぁぁ」
「ばう!?」
奇声を上げる自分。
逃げたい。
今直ぐに!でも逃げられないっていうか逃げちゃいけない。
それこそ自分の寿命を多く擦り減らす原因だ。レッドさんなら簡単に怨念や呪いとかやってのける様な……黒い眼差しとかいつも発動してるじゃないか!…いや、あれは赤い眼差し…。
「嫌だぁぁぁやっぱり行きたくなぃぃ!」
あれ、本当に自分はあの人に何をしたのだろう。
何だか体育館裏に呼び出された気分だ。カイリューはさも面白そうにバッサバッサと翼を織る。
気づけば、シロガネ山は迫っていた!
(どうしよう雪降ってるよ!!?レッドさんの心の内がついに自然にも影響して……!!!)
「ばうばう…」
「ルー…」
(((それはいくらなんでもねぇよ)))