act.21 ワンコール
「じゃあね、ここを真っ直ぐ行けば森から抜けられるよ」
数時間後、二人をウバメの森の入り口付近に案内して別れる事になった。
この数時間で分かった事はゴールド君は少々可哀想な子で、コトネちゃんは見た目と違ってかなりの狂暴性(凶暴性?)を持った子だという事が何となく分かった。
そしてやっぱりポケモンも飼い主に似るのは良くある事だと言う事も。
「ありがとうございました!」
「アヤさんサンキューな!今度会った時は絶対にバトルだかんな!」
「だからしないって」
ブンブンと手を振る二人に対してボクは苦笑い気味に手を振り返す。
元気そうに歩く二人の後ろ姿を見ながらそう言えば、とふと思った。最近自分は他人と接触する事が多くなってきたのでないだろうか。一ヶ月内で都市伝説レッド氏、シルバー少年、可哀想なゴールド君に狂暴性コトネちゃん…それでワタルさんを入れれば5人の人と喋った気がする。
前までは人を避けるようにして酷ければ半年、ジョーイさんやショップの人を除いて人と関わる事をしなかった。
そう思えば一ヶ月に5人の人間と喋ったというのは何か不思議なような異常のような……。
何だか可笑しくなって小さく笑えば肩に乗るリオルと寄り添うウィンディが不思議そうに見上げて来る。それを軽く撫でて家に戻る路地へ踵を返した。
「あー…何か色々疲れたぁ……」
パタン、と家の扉を閉めて中に入るなりソファーに勢い良くダイブした。
あの二人を家に招き入れた事であれだけ騒がしかった部屋の中が静寂さを取り戻し、時計の音のみがカチカチと鳴り続けている。枕に顔を埋めて一眠りしようと瞼を閉じたら背中にモフッと軽い重さがよじ登った気がして、チラと頭を動かせばリオルが丸まって一緒に眠る準備をしていた。おいおい…君の寝床はあっちだろうリオル……。
ポケモン達は全てボールから出して野放しにしているが基本的皆大人しい。この無駄に広すぎるリビングでカイリューが歩く時は流石にのしのしと軽い地響きはするが(本人は気を付けているつもりらしい)眠りを妨げる様な大きな音を発した事は過去には一度もないのだ。
あ、いや、リオルが腹が減ったと叩き起こされた事は過去何回か有ったが。各自好きな様に過ごしていたりもしくは一緒に寝てしまう事が多いボクのポケモン達は、案外物凄い平和主義な子達なのかも知れない。
薄く目を開ければガラスの窓の先でサンダースとウィンディが丸まって寝ているし、この前用意した水を張ったビニールプールの中に入ってプカプカしてるシャワーズに、向かいにあるソファーに仰向けになって死んだように眠るムウマージ(目を開けたまま寝るもんだから死ぬほど恐しい)、部屋の隅で座りながらポフィンをかじるカイリュー。
……本当に平和だ。昔だったら考えられない程平和だ。
各々をふわふわした意識の中で確認してもう一度瞼を閉じた。
――あ、寝る、と思ったその時、
『<ダダンダンダダンッ!!!!(♪)>』
「ぎゃあああああッッ!!!」
「ばうっーー!!?」
「「「!?!?!?」」」
物凄い大音量の音にびっくりして奇声を上げながらボクは飛び起きた!
物凄い勢いだったからそれまで背中に乗って寝ていたリオルは跳ねて転げ落ち、床に落ちた。外にいる連中や中にいる連中もビクー!!と飛び起きて何事かと自分を見ている。
ボクはそんな事よりも今も鳴り続けている音の発生源を確認した。それはテーブルの上に置いた自分のポケギアからだった。
『<ダダンダンダダン!!!!(♪)>』
「ってか何この曲っ!!?」
ポケギアから発せられる曲はター〇ネー〇ーだ!ボクこんな曲着信にした覚え無いよ!?
しかもいつも着信音量は2の筈なのにまるでMAXぐらいの大音量だ。
ボクは恐る恐るポケギアを手に取り液晶を確認する。
「……み、未登録……」
ダダンダンダダン!とあの名曲が高鳴りする中、液晶を確認すると名前じゃなく横にずらりと並んだ番号が表示されていた。…あぁ、そうだった。昔だったかな、未登録の着信音はター〇ネー〇ーに設定してた覚えが…(我ながら馬鹿な事したと思う)
ボクは液晶に移る見覚えの無い電話番号をじっと見る。過去何回か間違い電話は有った。それともボク目当ての電話だろうか。
…って言っても自分の電話番号を知っている人なんて指に数えられるくらいしか居ないし、勝手に他人に流すなんてもっての他だ。それにその人達は決してそんな事はしない。
……だとしたら本当に誰だろう。
「……ん……?あれ?」
もう一度じっと番号を見ているとある違和感に気付いた。
あれ。この数字の羅列、どこかで……。
「……………」
ひと睨みした後、悩んだ末に通話ボタンを押して耳にポケギアを当てた。
「…はい。もしもし?どなたですかー……?」
『……俺だ』
「……………、ん?」
たっぷり間をおいた後に聞こえた。
いや、つい最近耳にした聞き覚えのあるこのハスキーボイス、は………!!
「レ、レッドさん……!!?」
『ああ』
「え、なっ、あれ!?ボク、レッドさんに番号なんて教えてない筈…!何で知って…」
『そういえばお前から携番聞くの忘れてた。だからワタルから聞いた』
「(あのチャラ男もどき…)」
なんか一瞬、不機嫌そうな声になった気がするのは気のせいだろうか。
それよりもそうだった。レッドさんの携帯番号を教えてもらったけど、登録するのが恐れ多くて未だに登録出来ずじまいだった!伝説レッド氏に繋がる携帯番号が書かれているが故に存在感がレベチになってしまったメモ帳は今現在、机の上に放置されています。
ボクの番号はワタルさんから聞いたのかぁー…。なんでわざわざボクの連絡先を聞いたのかはわからないが。何かご用かなぁ。
まぁそれは置いといて、ワタルさんはレッドさんだから勝手に教えたんだろうけどせめて一言「教えといたから」と連絡くらい欲しいよ!突然突拍子もなくいきなり伝説の人から生電話なんて心臓が痛い。お陰で眠気なんてとうに吹き飛んじまったぜ。
とりあえず自分の心を落ち着かせて慎重に言葉を選んだ。
「えっと……どうしたんですか?」
『……今時間あるか』
「…え?」
『来れるか』
「え?」
『シロガネ山へ、今すぐ』
「what?」
それはまあ唐突に!