act.20 新人トレーナー





「あたしコトネって言います!」

「俺はゴールド!」



なんて机挟んだ向かいに座り、元気に自己紹介する可愛らしい二人組に向かってボクは笑顔は絶やさない。

どうやら二人共思った通り新人トレーナーらしく、ポケモンを持ってまだ一ヶ月らしい。
バッジの数は互いに2つ。少しずつバトルやポケモンに対して分かってきた頃合いじゃないかな?

女の子はコトネちゃん、男の子はゴールド君と言うらしい。

二人共同じワカバタウン出身の子達でウツギ博士からポケモンを貰って一緒に旅立ったそうな。

……で、ウバメの森を抜けようとしたが運悪くこんな奥地まで来てしまったらしい。よくここまで来れたな。野生のポケモンと会わなかったのかな豪運かよ。
現在は二人もポケモンもかなり疲れてるっぽかったからボクの家まで連れて来たけど。

それにしてもゴールド君凄いなぁ…運が悪くても良くてもよっぽど根気出さない限りこんな奥地まで来れる人は少ないのに。



「そっかぁ、一ヶ月って事はまだまだ新人だねぇ…頑張りなよ!世界は広いよーあ、ボクはアヤって言うの」

「アヤさん…アヤさんって歳いくつですか?」

「あたし達より一つ上くらい…?」

「ボク?16だよー」

「「え」」

「うわ、何その顔」



歳を明かした瞬間にボクを凝視してきた二人組に溜め息を着いた。

確かに昔からそんな風に言われて来たけど…そんなにボクって子供っぽいかな。

目をパチパチさせる二人は何だか姉弟に見えた。



「嘘!アヤさんってそんな年上っぽく見えないよ!」

「失礼だなゴールド君」

「あたし達まだ10……アヤさんが子供っぽいのね!」

「何これ言葉のイジメだー!!」



何なのこの子達!可愛い顔して言ってる事全て心に突き刺さるよ…!

良いじゃないか別に!まだまだ人生をエンジョイ出来る若さだし!

………そういえばレッドさんって何歳なんだろう。年上なのは何となく雰囲気で分かるけど……今一掴み所がない。やっぱり不思議な人だ。

ココア飲む?と聞くとやはりまだまだお子様なのか、甘いものが好きな二人は目を輝かせてコクコクと頷いた。

素直は良いことだね!

席を立ってココアを淹れにキッチンまで行くと先にリオルがマグカップをヨロヨロと棚から取り出していた。
手伝ってくれる事は有難いが相変わらず危なっかしい…。



「大丈夫リオル…?」

「ばう!」

「お湯はボクが淹れるからリオルは…」

「何そのポケモンー!?」

「うわわわっっ」



ココアの粉をダバダバとカップに溢すリオルを見て、ゴールド君がいきなり席を立つ。煩かったのかガツンとコトネちゃんが頭を殴った。

リオルはビックリしてスプーンを持つ手を止めてしまった。



「ポケモン図鑑にも載ってないし…」

「…あぁ、この子はシンオウのポケモンだからだよ。その図鑑だと載ってないみたいだね」

「シンオウ地方のポケモンなんだ…!俺、ジョウトのポケモンしか見たこと無くて」

「うーん…ま、さっきも言ったけど世界は広いんだよ。ポケモンも今や1000匹以上発見されてるって言うしね」

「せ、1000!?」



ぐるぐるとココアをかき混ぜるリオルの手元を見ながら、そういえばポケモンってそのくらい種類いたよなぁと今更ながらに思った。それにまだまだ未発見もいるだろうからこれからも増えるだろう。

伝説と言われるポケモンだってジョウトのポケモンしか知らない時は数匹だけだと思っていたし、実際には他の地方にも伝説のポケモンの話は数多く存在していた。

まだまだボクらが知らない事は沢山あるし、知らない事の方が多いと思う。

そんな事を思いながら出来上がったココアを二人の目の前に置けばコトネちゃんはおずおずと口を開いた。



「あの…失礼かも知れませんが、アヤさんは何でこんな人目につかない様な所に住んでるんですか?しかもウバメの森…」

「あ、それ俺も気になった!何で?」

「あー…、…あれだよ、世の中にはね、スパイとかハンターがね、……多い世界なんだよ」

「は?」

「?」



頭にハテナを飛ばす二人にボクは明後日の方向を向いた。
だってグランドフィスティバル優勝者があの元トップコーディネーターにラリアットしてその仕事放棄した上に逃げ回ってるなんて異常じゃないか。有り得ないじゃないか!

っていうか追いかけられるのが嫌。それに同じ場所に留まるなんてことしたくない。まだ10代なのに、もっと好きなことに時間を費やして過ごしたいのだ。



「心穏やかに生活したい……」

「え?」

「ごめんこっちの話」

「…?アヤさんは不思議な人だなぁ…。あ、そうだアヤさん!俺とバトルしようよ!」

「えぇぇええぇええ……」

「何だよその果てしなく嫌そうな顔ッッーー!!?」

「嫌がった人、初めて見たわ……」

「うー…ボクはバトルは苦手だからしない主義なんだよ」



あはははと笑いながら自分のカップに口を付けるとゴールド君は口をパクパクとしながら驚いた顔をする。それはコトネちゃんも一緒で少なからず驚いた目でボクを凝視した。

机に座ってポフィンをモフモフと食べるリオルをワシワシと撫でるとゴールド君は訝しげな目でジロジロ見て来た。



「……アヤさん、トレーナーだよな?」

「んーー?……、……………うん?」

「その間は何!!?」

「トレーナーじゃないんですか?」

「トレーナー…だよ。うん、トレーナーだよ!それで良いや!」

「「何それ!!!??」」



ガビン!とショックを受けながら唖然とする新人二人にボクは笑った。

まぁ…あながち嘘吐いてる訳でもないし間違ってもないから良いと思う。

それにしても新人かぁ……昔ボクもイーブイ貰った時は舞い上がってガラス張りに突っ込んだっけなぁ。それから新人で旅に出た時にはトレーナーカードは無くすし、鞄の中でモンスターボールが紛失して選出に時間がかかるし、イーブイはゴーストタイプに進化するとか本気で思っていた頃が懐かしい……。



「俺、一番強いトレーナー目指してるんだ!バッジを8つ集めて、リーグに挑戦して…チャンピオンを倒して最強になりたい!」

「あたしはリーグに挑戦したいとは思わないけど…バッジ集めて違う地方に行ってみたいわね。バトルは好きだけど特別好きな訳じゃないから」

「そっか!頑張りなよー」



バッジを全部集めて、リーグに挑戦してチャンピオンのワタルさんを倒す事がカントー、ジョウトの最強を指す。

でもそれと同時にレッドさんを倒さなきゃ頂点には立てないんだよね。

………きっと強くなるだろうなぁ。




「………アヤさん?」

「あぁごめん、何でもないよ」



この子達、化けるかなぁ将来。












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