act.17 チャラ男とは





「…………」



帰ってきたら、何か偉い事になってました。

木の実を集めにウィンディに乗ってウバメの森を走り回っている間、レッドさんに留守番を頼んだ。

コンコン、とボクの部屋なのに何でノックしてるのか…というのも今は珍妙な客人がいるからで。何も応答はなかったが遠慮なくボクは扉を開けた。
ベッドに腰掛けたレッドさんは今日も今日とてボールを磨きながらチラリと視線を僅かに動かした。まるで「何か用かよさっさと出ていけ」と言われているかのような…あ、ごめんかなり被害妄想入ってました。

うそです。そんな威圧的ではないです。

レッドさんにざっくり要件を伝えると「ん」と一言。なんだよ「ん」って。なんやねんその返事。まあそれは彼なりの了承の合図である。

決してシロガネ山に戻ろうなんてしないで下さいね!と念を押して家を飛び出した……が。



「……ワタルさん、貴方何やって」

「やぁ!アヤちゃん、数日振りだね。お邪魔してるよ」

「あ、はい…お邪魔されてます…お邪魔されてますけど!」



何やってんの…!?ってかなんでいるの。

何故だか家の扉を開けるとワタルさんが。
そのワタルさんが我が物顔でソファに座り、足を組み。その隣にレッドさんを座らせてワタルさんが身につけていたアクセサリーをジャラジャラと現在進行形で付けているではないか!

しかも何か凄いレッドさんが友好的!あ、いや。少し鬱陶しそうにしているけど何も言わないってことはそういうことだ。好きにさせている時点で妥協しているということ。何で!?二人とも仲良いの!?

ワタルさんの顔はもう生き生きとしていて、レッドさんはされるがままだ。



「ワ…タルさん何やってるんですか…!?」

「いやー驚いたよ!まさかアヤちゃんの家に遊び………いや様子見に来たらレッド君が居るし!ビックリしすぎて二度見と言わず三度見くらいしたよ。もしかしてシロガネ山に行ってくれたのかい?どういう心境の変化?それにしてもよく連れて来れたねアヤちゃん」

「あ、会ったのはたまたま偶然で…だってレッドさん突然倒れたから……んじゃなくて!」

「それにしてもキミは昔と全然変わらないね。案外元気そうだし…大丈夫かい?元気してた?」

「………問題ない」

「話を聞いてワタルさん」

「アヤちゃんが戻る間、ムダに時間を潰すのもなんだから試しと思って彼に色々付けてみたけど…まあ似合うよね。流石俺と一緒で顔も体型も良いからアクセサリー系は似合う似合う!ジャラジャラでも良く似合うよレッド君、格好良いね!」


「いやいやいやそこまで武装しちゃうと明らかなる不良……っじゃなくてぇ!何自分の趣味をレッドさんに擦り付けてるんですか!っていうか何勝手に人の家で茶シバいてんですか!只でさえワタルさん普段でも一見キラキラゴテゴテの不良みたいな人なんですから!レッドさんに変な事吹き込むのやめてくださいよ!」

「キミも言うねぇアヤちゃん」



ハハハハと軽快そうに笑うワタルさんが多少なりショックを受けたらしい。

ワタルさんは昔からアクセサリー類を多目に身に付ける癖を持っている。
ピアス空けたり(方耳に2つずつ空いている)ネックレスは付けるしファッションチェーンやキラキラゴテゴテのベルトとか金品で装飾されたマント等々…とにかく昔から結構な派手男なのだ。「今度舌ピアスとかしてみたいんだよな」とか言ってる限り見た目チャラ男のレッテルは貼られ続けられるだろう。

でも元より顔や身長、体型がスラッとしている為にキラキラゴテゴテでもそれが調度良く寧ろ格好良いのだ。

レッドさんもワタルさんに負けないくらい見た目も全身も完璧なのでジャラジャラキラキラしていても逆に格好良い。似合っている。自分の好みは置いておくとして。
……何だろ、ボクの周りには美形しか居ないのか。嫌み?これ嫌みなの?


「レッドさんもワタルさんも、顔整ってて良いですよね…嫌みですか羨ましい」

「……それは誉めてるのか貶してるのかどっちだい?」

「チィイッ」

「え、アヤちゃんそれ舌打ち?舌打ちした?随分デカい舌打ちだねオイ。そんなんじゃいつまでも立派なレディにはなれないよー」

「む、ムカつく……!!」

「はいはいどーどー」

「……おまえ、ワタルと知り合いだったのか?」

「え?あぁ、昔からよくお世話になってたんです。面倒見てくれたりとか色々…………レッドさん?」




ワタルさんはボクの頭に手を乗せてバスバスと撫でる。それがバカにしているのか慰めているのかわからない。ムカつく…!!

そんなボク達二人をじっと見るジャラジャラになったレッドさん。無表情のままの問いかけにボクはそうだと頷いたのだが…何故か、眉間に皺が寄っていた。え?なぜ?何そのシワ。



「…あ…あの、レッドさん?」

「………」

「れ、レッドさーん…?」

「……レッド君?」



無言を貫き通すレッドさんにとうとう僕は困り果て、レッドさんの顔を覗き込むが全く何を考えてるのか分からない。

ワタルさんまで首を傾げる始末だ。



「………おや、」



そこで、ワタルさんはふと何かに気がついたらしい。

レッドさんとボクを交互に見ながら暫く何かを考える仕草をした。するとボクの頭から手を離し、口端を上げる。



「……なる程、いい傾向だね」

「え?な…何がですかワタルさん」

「や、何でも無いさ」



さも面白そうにクツクツと笑いを噛み殺すワタルさんにボクは遂に頭イカれたんじゃないかと心配した。

訳が分からない、と目を白黒させて見ていたらワタルさんはマントの下から小さな包みをボクに手渡した。パッケージには紅茶の葉の絵がプリントしてある。



「この間ホウエンに行った時のお土産だよ。近々アヤちゃんの様子を見に来ようと思ったからそのついでにね。本当は今日、それを渡しに来たんだよ」

「はぁ…あ、ありがとうございます…?」

「どういたしまして。…さて、じゃあ俺もそろそろ行くかな。またねレッド君。くれぐれも体調管理には気をつけるように。………アヤちゃん、レッド君のことよろしく頼んだよ」

「何をッ!?」



お土産を受け取り、椅子から立ち上がりマントを靡かせながら部屋を出ていくワタルさん。突然の事でその行動について行けなかったがパタリ、と扉がしまった事でフリーズした脳内はちゃんと動き出した。

見ればレッドさんにはワタルさんの不良道具が大量に武装したままだ。え、持って帰らないの!?こんなゴテゴテに装備されたレッドさんは不憫すぎる。さっさと取って突き返してこい。っていうかこんなの家に置いてかれても困る!こんなんいらねぇ。



「ちょっ…こんな大量に置いていってどうするんですかワタルさん!レッドさんを不良の道に引きずり込もうなんて…」

「……変か」

「ぅおっ、え?」



今すぐ返しに行こうと扉に手をかけようとすると、低い声と一緒に襟元を掴まれた。

何事かと振り返るとレッドさんの顔がこれまた近くにあって、赤い目が貫く様に、瞬きもせずにボクを見ていた。一瞬息も忘れてその眼力に怯んで、真っ白になった。

え、こ、こわ。

え?っていうか、突然どうしたんだろうこの人。まさかレッドさんあんな不良になりたいとかいう願望が…いやまさか!



「……あ。変じゃ、無いです似合ってます……格好良い、んじゃないでしょうか…」



途切れ途切れだが自然と口から出た言葉は確かに偽りはない。

しばらくするとレッドさんははっとしたような顔をしながら目をパチパチして、滅多に見せないポーカーフェイスを崩した表情を見せた。

めちゃめちゃビビる。内心汗だらけだ。

というかそもそもレッドさんがこんなふうにコミュニケーションを取ってきたこと自体が初めてでどうすればいいかわからない。レッドさんは基本ここに来た時から何も用がない限りボクに話しかけようとしないし、近寄っても来ない。この前の洗濯物の時はたぶんあまりにも自分の洗濯物が多かったから手伝ってくれたのだろうし。
ボクが勝手に体調が完全に回復するまで部屋の中で療養するようにと伝えたのを律儀に守って、あまり貸し与えた部屋から出てこない。

そして何かを考えるように黙り込むと、ボクの襟首を離さず「ふむ」と手をおいた。

あのお人形さんの、無表情の代名詞のレッドさんに一体何が…!

何事…!?と目をバチバチさせているとレッドさんは「そうか、」と静かに呟いた。頬を指が掠め、頭の上に置かれた重みがダイレクトに伝わってきた。

彼はまるで何かを試して、確認するかのようにボクの頭を軽く撫でていた。



「……………!!?」



本当に何事!?また熱でもあるとか…!?

普段しない様なレッドさんの行動にボクはいよいよ心が悲鳴を上げた。



―――――バンッ!!!!!



「ワタルさんぁぁあっっ」

「あれ、アヤちゃんなnブッ!!」

「不良チャンピオンめ!レッドさんに何かしたんでしょ!!何したの!それとも何言ったの!!どうするんですか元々特殊な人だったけど更に特殊な人になっちゃったじゃんっっ」

「はっ!!?何だいそれっ!?っていうか不良チャンピオンって失礼過ぎ…」

「秘伝のローキックをくらえ!」

「危ねぇッ!!ちょ……アヤちゃんキミねぇ!」





彼のその時の表情。

それは何の意味があったのかは、全く分からない。




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