act.15 第二印象






初めてだったんだ。

こういうのは。

他人とは必要ない限り会話もしなかったしする必要が無かったから。人と喋るのも第一、自分の周りにはポケモンしか置いて居なかったのも事実で。

人とこんな、土足なやりとりをするのだって初めてに思えた。

今起こった事全て、全部が初めてである。

自分に武力で畳み掛けてきた女も初めてである。

なんなんだこいつは。



「……そう。初めてだ。俺にボディーブローなんてしてくる人間なんて」

「本当にすいませんごめんなさい何か衝動のままにガッ!と…」

「……お前みたいな命知らずな奴も初めて見た…」

「ボクも貴方みたいな無謀過ぎる人初めて見ましたけどね」



あれだけ強烈なボディーブローをかまされ、意識を綺麗に手放した俺は次に目覚めるとソファーの上に座っていた。何故だか女は俺に向かって正座している。

…元より人に興味を持たない俺が(そこは自分でも自覚はしている)シロガネ山に登ってきたこの人間に対して持った第一印象。「ここまで来るくらいだから恐らく奇特な人間」だ。

こんな雪山に用がある人間なんているのか。

サンダースを連れているのを見てトレーナーだと分かり、次に気になったのは強者か弱者か。

バトルは…そこそこだったかも知れない。自分相手にあそこまで食らい付いてくるトレーナーも珍しい。しかしまあ。あまり見たことの無い綺麗な戦い方をするな、とだけ思った。

まあそんなことを思いつつも、雑魚は雑魚。

弱い事には何ら変わりもない。

それで気が付いたら勝手に山を下ろされて知らない家で寝かされていていたらしく、そこには最後にシロガネ山でバトルした女が急がしそうに走り回っていた。

第二印象は「めっちゃ変な奴」。

擦り寄って来たピカチュウを撫でて声を発せば面白いくらいに固まり、ぎこちなく会話をする栗毛の女は不信感満載である。

そして第三印象だが。……これはもう何と言うか不思議通り越して「かなり変な奴で危ない女」だった。
見ず知らずの女なんかに自分の世話をやかせるつもりも借りを作るのもごめんだ。
しかし帰ると言ったらいきなりノーモーションのボディーブローかまして来るわ意識を飛ばし目が覚めたら凄まじい速さで土下座はして来る。

なんて危険な女なんだ。

この女の脳内が読めない。理解できない。

無言を貫き通せば真っ青になり両手を合わせて合掌。ブツブツと経文みたいな呪文を唱える。

……とりあえずこいつが危なくて変な人間なのはわかった。関わらない方がいいのかもしれない。



「……やっぱりお前は変だ。どこの山で育った」

「山ッ!!?山って!?いやそれより変って!あんたに言われたかないよ!?雪山を半袖で過ごす人間にそんなこと言われたくないッ!まァボクも変だ変だとは良く言われますけどねェ!」

「……言われるのか」

「はっ!!」

「………」

「と、とにかく!死なれちゃ後味悪いし完全に毒が抜けるまで安静にして…って何その哀れんだ目!?人をそんな目で見るもんじゃありません!めっ!メよ!絶対に一週間外に出すもんかざまぁ!!…は!!ついつい本音が!!」



表情がコロコロコロコロ……変わる裏表が無さそうな変な奴。そして煩い。(加えて見掛けによらずバカっぽい。主に発言とかが)

初めて見るタイプの人間だ。



「…一応聞いとく。……お前、名は」



とりあえず自分を助けてくれた人間の名前くらい聞いておこう。ただそう思って。

過去、聞かれる事はあっても人に名前を聞くなんて、生まれて初めてかも知れない。



「アヤです!!」

「煩い」

「(自分から聞いたくせによォ……)」








 




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