act.11 赤い瞳に赤い帽子
何だか吹雪いてきた気がする。吹雪の中バトルをする人なんてボク達以外誰も居ないんじゃなかろうか。
っていうか何でボク、バトルしてるんだろう。
雰囲気、雰囲気で流されましたはい。
だってめっちゃ怖いんだもん。
赤い帽子に赤い瞳、黒い髪。
ピカチュウを連れた半袖の少年。
その人は間違い無い、レッドさんだ。あの伝説の。
ワタルさんに聞いたレッドさんの容姿を当てはめればそれはもう目の前にいる方はあの都市伝説じゃあないか。
「シャワーズ!バブル光線で視界を奪って!」
「風起こし」
「バブル光線の意味ぃ……」
もう一度言う。
何でボク、バトルしてるん…?
しかもあの伝説の人と。
レッドさんはボクの隣に居たサンダースを見てバトルだと思ったらしい。静かにボールからリザードンを放ち、極自然にバトルが始まった。
断ろうとしたけど断れない。そんな雰囲気じゃなかったし、逃げる事も許されない感じだった。しかもめっちゃ目ぇ怖い…絶対零度…。
逃げても良いなら逃げ出したい。バトルは苦手だ。
「噴炎」
「波乗り!下からアクアテール!」
「アイアンテール」
空を飛んでいる上からのリザードンのアイアンテールが重力に乗っている分、シャワーズが力負ける。
何だか、レッドさんは顔の表情を崩さない人なのかな。さっきから眉一本動かさない。技がヒットしても完全なポーカーフェイス。………何考えてんのか分かんないや。
……それにしても、この人、
「シャワーズっ、雨乞いから溶けて!」
「エアスラッシュ」
「っえ…!ま、まじか、」
シャワーズがリザードンのエアスラで怯んだ。
この人、面倒な能力上昇をさせる気がない。
「アクアリング!」
「炎の渦」
「(アクアリングの意味ィ!!)〜〜ハイドロポンプッ!!」
「煙幕」
「そんなんされたら当たりません……!!」
怖すぎ。何この技の切り返しと判断能力の速さ。
つ、強いなぁ…。さすがです伝説。
ヤバいこれあかん。負けるな。指揮系統のボクが最初から諦めてちゃいけないけど、でも本能的にビンビン感じる。
勝てる要素がない。この人には勝てない。
リザードンを出してきたからあえて相性で、シャワーズを出した。タイプでこっちが断然有利な筈なのに今確実にメキメキ押されている状態だ。しかも地形は吹雪いているのに。威力半減も、していない様に感じられる。どういうことなの神様。
「(水…!水がないとシャワーズの真価を発揮できない…!)あ!濁流!」
「火炎放射」
とりあえずリザードンにガンガン炎技を出させてそこらじゅう水浸しにさせよう。
いやーさっすがボク。機転がきくね天才。自分で自分を褒めないとやってられないわこんなの。シャワーズもボクの意図に気付いたらしい。即席で出来上がった水の中に溶け込んだ。
「!」
「そこからハイドロポンプ!」
「………!」
溶けた水の中に入り込んだおかげで炎の渦もなくなった。
因みにそこからのハイドロポンプは不意打ちになったのかリザードンにモロに直撃したけど……まあ倒れないよねぇ…。あーどうしよ、同じ奇襲は通じる訳ないし。
とりあえず頑張って何とか粘って数発ハイドロポンプをぶち込んだシャワーズは偉い。偉すぎる。(それでも倒れないリザードンって何)
今日のMVPです。
しかしすぐに対策されて。熱風でここいらの雪と水を全て蒸発しにかかってきた都市伝説レッド氏とリザードンさんにビビったボクは勿論、シャワーズもビビったらしく水から弾き出された。な、なんて力技なんだ…。ゴリラだ…。ラージャンじゃん…。
飛来したリザードンのドラゴンクローがシャワーズに直撃してシャワーズは倒れた。
一応、手加減はしてないんだけどな…しかもハイドロポンプも何回か当てた筈なんだけど。
まだ倒れないのか。どんだけタフなんだろう。
これがトレーナー最強と言われる、実力。
おそらく彼はこちらの手持ちが0になるまで攻撃の手は止めない。戦いに来た訳では無いと何を言ってもたぶん聞いてくれない気がするし。
「ムウマージ!」
シャワーズをボールに戻し新たにムウマージを放つ。
先手必勝と言わんばかりにシャドーボールをぶつけてやろうかと考えて居たが、そこで異変が起きた。
前方からドサリと何かが倒れた音がした。
「ピィカ!」
「……………え?」
驚いてリザードンより後ろを見ると、あの伝説が倒れていた。彼の傍に居たピカチュウも驚き、リザードンでさえも目をぱちくりさせている。
な…何事…?
ピカチュウがバシバシと赤い帽子を叩いているのを見ても、彼はピクリとも動かなかった。リザードンも慌ててトレーナーの元へ駆け出したのをきっかけに、他の手持ちであろうポケモン達もボールから出て倒れた伝説を囲んでいる。
「いたっ」
グサ、と足に何か刺さった。サンダースだ。そこで我に返ったボクは慌てて駆け寄る。
「えっ!?ちょ、大丈夫ですか!?なに!?……は!?」
ムウマージがユラユラ揺れていつもと変わらない不気味な笑い声を発しているのが今だけは恐ろしく思えた。
とりあえず大変な事になっているのは明らかで、ボクは恐る恐る近付いてうつ伏せになった状態のレッドさんの顔を横にずらした。
見れば赤みが差した頬。荒い息を繰り返し少しばかり痙攣する彼の状態のこれは!
「分かんないけど風邪かなぁ…」
あれ、でも普通の風邪ならこの痙攣は?
風邪とは思えない痙攣の状態。これは―――?
―――【ブルーメチル草】
薬草類の植物。
星の様な形をした青い花。メープルのような甘い香りがする。
触ったり嗅いだりすると麻痺や頭痛を引き起こすが、煮る事によって毒を抜き出す薬草になる。効果は外傷の傷の痛みを和らげたり腹痛や頭痛など、様々な効果を発揮する。ポケモンにも可。
ただし、長年に渡り密閉空間などで大量に咲いている場合、強い毒が体に蓄積して高熱を引き起こす。痙攣が良く見られる。最悪死に至ることも。直ちに治療を行う事が必要である――――――。
フラッシュバックした図鑑を読んだときの、ソレ。
いやぁ…これはもしかしなくても…。
「結構ヤバいんじゃ……さ、最悪、し、死………………」
「ピィカアァァ!!?ピピカチュウッー!!」
おい!何とかしてよ!!と言わんばかりの彼のピカチュウがボクにキックしている。
おい、このピカチュウも凶悪だな。
伝説の人はシロガネ山現在6年滞在中!!
(いやほんと頭おかしいと思った)