act.10 吹雪





「はあ…サンダース、」



一言呟けば、ポンッと光に包まれボールから飛び出るサンダース。薄暗い洞窟でやる事はただ一つ。サンダースは体を発光させてフラッシュをしてくれた。

相変わらず賢い。



「ありがとー…じゃあ探して行こう。片っ端から!」

「ブイ!」

「と、その前に」



鞄から、資料館で借りてきた図鑑を取り出してもう一度開く。

事前確認みたいなものだ。



「場所はシロガネ山で合ってる。因みに湿気が多くて地面が固い場所…つまり洞窟内のあまり踏まれていない様な地面に咲く花…隅っこに咲いてると思うんだ。OK?」

「ブイ」

「あぁ、それともう一つ大事な事。ブルーメチルは煮れば薬草にはなるけど、煮る前は少し毒を持ってるらしいんだ。体が痺れるだけで大きい害は無いと思うんだけど…念のため触らない事!」

「ブイ!」

「野生のポケモンを見かけたら隠れること。相当レベルが高い個体が多いだろうし、何かあっても救援は見込めないしね。最悪死ぬことになるだろうし、もし見つかったら逃げる準備を。やむを得ない場合は逃げながら遠隔で攻撃していこう」

「ブイ!」



サンダースの良い返事を聞いて皆分かったー?と腰に付いているボールにも問うと、返事をする様に元気よくカタカタと鳴った。

図鑑をパタリと閉じて早速捜索開始!

発光するサンダースを前に歩かせて狭い洞窟を歩く。じ、じめじめする…。そう言えばこんな洞窟に入ったのって本当に久しぶりだな…洞窟入ったのはシンオウ地方以来だ。

暫く歩いている内に細い道が大きくなってきている事に気付く。野生のポケモンもさっきあれ程居たのに最奥に進むに連れて出てこなくなった。

所々道の端っこを気にして歩いていたけどそれらしい草や花は生えていない。もっと奥だろうか?

じゃり、と靴を鳴らして道の行くままに進んで大きくうねった通路を抜けるとその通路は…いや、空間が大きくなった。



「…………まさか、最奥まで来ちゃった…」



あの狭くて細い通路からは想像出来ないくらいの大きな空間。
所々岩が積み重なってたり突き出てたり、しかもその広さはポケモンスタジアム並みに広い。足場もしっかりしていて岩の天井までかなりの高さがある。

まさに最奥。

あれだけ暗かったのにこの空間では青白く不思議な光が上から差し込んでいる為、サンダースのフラッシュも不要だ。

しかも水晶みたいな石も所々に埋まっていて光に反射するからかなり幻想的でもある。



「凄い…これがシロガネ山の最奥なんだー…」



シロガネ山の最奥のイメージはもっと修羅場で鬼みたいな強いポケモンがいて、上から岩が降ってくるイメージだった。そしてもっと寂しい感じの所だと思ってたのに。

でも実際は全く違っていて。

大自然とそれに寄り添うポケモンのお陰だろうか。神秘的な空間が作りあげられており、思わず鞄からカメラを取り出して数枚撮影した。パシャ、パシャ、と色んな角度から撮影する。そこら辺の岩も淡く発光していて、何かの原石だろうか。少し頂戴したい。アヤは鞄から折り畳み式の小型のツルハシを取り出し、岩を少し削った。小瓶にそれを詰めると瓶が光っている。



「わぁ」



綺麗だねーとサンダースに言うとコクコクと頷く。



「!ブイ、ブイ!」

「?どうしたの…ってあっー!あった…!!」



サンダースが耳をピクピク動かして走り出した。

ボクもその後を追えばその先にはブルーメチルが沢山咲いていた!えっ、めっちゃ咲いてんじゃん!かなり希少植物なのに!



「うおおおお、あったあった…!でかしたサンダース!偉い!しかもよく見ると他にも、珍しい植物がたくさんある…」



サンダースの頭を撫でくり回すともっと褒めろ、言う様に胸を張って鼻を鳴らした。

なんてふてぶてしいんだ。

サンダースをゴシゴシと撫でてからポケットから採取用の手袋をはめて空きビンに入れる。

因みにブルーメチルだけじゃなくてホシクズ草やピンクドラゴン草などと言った、一般ではあまり目にかけることができない珍しい植物もそこら中に咲いていた。

何だここは宝の倉庫か?



「ブイ!」

「えっ…ま、サンダース!ちょっ…どこ行くの!?」



何故かまたいきなり走り出したサンダースを見て慌ててビンを鞄に戻す。ちょっと待て、置いて行くなと必死に後を追うと最奥だと思っていた空間の端にまた上に続く細い通路があった。

長くもなく短くもない距離を登り切ると途端に飛び込んできたのは、

白と空。



「は…外…?まさか山頂まで登り、きった…………」



洞窟を出ると吹雪いていた。いや、違う。只雪がしとしと降っているだけだ。

だけど今の自分には雪とかそこから眺める絶景とかそんなもの目に入んなくて。

自分の目に映り捕らえるたのは赤。

赤い帽子。

もう幽霊を見ているようだった。

死んだ人に会えるなんて思わなかった。

いや、この人ってもしかしなくて、もしかして。



「………騒がしいな。トレーナーか」



他者の声が煩いからだろうか。騒ぎを聞いたその人はゆっくり振り向いた。

感情の灯っていない目をして。

血の様な赤い瞳。


この人。都市伝説の、本人じゃないか。








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