act.09 シロガネ山
「ヒィィイイイ!!」
空から見る風景は絶景である。
高い山に青い泉に緑が敷き詰められた深い森は一面真っ白。カイリューに乗りながら只この素晴らしい風景をのんびり見る事が出来たらどれだけ良かっただろうか。
空から見る風景は絶景である。
回りを見渡せばポケモンだらけ。それはポケモンが好きな人なら誰もが喜ぶだろう。喜ぶだろう、が!
「ワタルさんの嘘吐きいいい!こんな…こんなのっ!聞いて無いよぉおお…!!」
―――シロガネ山は強いポケモンがいっぱい居るんだけどね。地上を歩くのはやめた方がいいな…高レベルのポケモンが倒しても倒しても湧いて出てくるんだ。そんじょそこらのトレーナーなら一溜りもない。だから俺達は空から行くのが最も効率が良くて安全性が高いと思ってるんだけど……。
なんてあの時、ワタルさんは独り言のように言っていたのをボクはきちんと一言一句覚えているぞ!!
―――流石に地上から正面突破は無理だよ。けどアヤちゃんでも空からなら余裕で行けると思うんだけどなぁ。あ、俺は普通に地上からでも行けたけど。
「キエエエエエエ!!」
「キシャッッーーー!!!」
「ワッーーーー!!!」
「ルーーーー!ルルルーーー!」
どこが!?あの嘘つきドラゴン脳筋マント!!
こんにちは、トップコーディネーターのアヤです。
ブルーメチル草を求めてシロガネ山に思いきって来てみました。今居るのはシロガネ山の上空。カイリューに乗ってこの絶景を満喫したいけどそれどころではございません。
シロガネ山、そこは普通の野生ポケモンの数倍強いポケモンが生息していて、まず一般人…いや一般的に近寄らない危険なお山である。
何もしていないのにリングマの群れが地上から破壊光線撃ってきたり、飛んでいたらオニドリルとプテラの大群が追いかけてきたり、泉からギャラドスの群れが破壊光線撃ってきたり。
そして現在は虫ポケモンの大群に追跡されてカイリューで爆走中である。虫ポケモンでもこんなに強い。こんなに凶悪。スピアーが人喰い生物に見える。とにかくシロガネ山に向かって飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで回って回って…。カイリューもあの日のグランドフェスティバル以降、未だかつて無いくらいの飛びっぷりだ。
こんなんで普通に山の梺まで着けるのだろうか?
ワタルさんの普通ってなに。
普通ってなんやねん。
否、違う。ワタルさんはリーグチャンピオンだ。こんな手洗い歓迎は邪魔されたの内にも入らないのだろう。
「ルゥー!」
「え、ちょっと待ってカイリュー突っ込むの!?突っ込んじゃうの!?た、確かに入れそうな小さな穴場が有るけどどう見ても君の体のの大きさじゃ入れな」
「ルシャァァァァーーー!!」
「何その掛け声うおおおおおおおおおお!!!」
カイリューが大きく一鳴きした。
気付けば随分と山の近くまで来ていて、目先の方には小さな洞窟があった。だがそれはどう見ても翼を広げたままのカイリューの体のサイズじゃ入れない。
大丈夫だ、と言うように片腕を上げたカイリューはボクを背中から両手に抱き込むといきなり破壊光線を岸壁に打ち込みながら翼を畳んでドリルのように回転しながら突っ込んだ。ドラララララッ、と岸壁を破壊し貫通したカイリューのこの技。グランドフェスティバルでミクリのホエルオーを初手一撃撃破した破壊光線とドラゴンダイブ、ゴッドバードのコンビネーションである。段階的に威力とスピードを上げて、最終的に破格な威力を発揮するこのコンビネーションの名前は「ジャベリン(破壊する光鱗の矛)」と名付けてしまった。
こんなのを考えてしまった自分が憎い。
いや…あの観客とミクリのヤベェもん見た…と言う顔は忘れられない。
派手な音を立てて壊された洞窟。同時にカイリューが破壊しながら侵入した岩の壁は無惨に穴が空いていた。
「お…お…おおお…」
優雅に着地したカイリューはふぁぁと欠伸を一つしてボクを地面に下ろした。腰が抜けて四つん這いになってしまう。見ろ、膝が笑ってる。産まれたての子鹿である。
しかし追ってきた虫ポケモン達の雄叫びを聞いた事でその存在を思い出した。撃ち落とそうとカイリューに指示をする前に、隣に居たカイリューは勝手に破壊光線を直撃させた。
半端無い。
当たらずに残った虫ポケモン達が再び向かって来る。だがそれさえもカイリュー第二の破壊光線で今度こそ撃ち落とされた。
容赦無い。
「キミ……逞しくなったね……」
「ルシャー!」
何だか明後日の方向を向いてしまいそうな思考を無理矢理繋ぎ止め、落ちていった虫ポケモン達を見下ろした。
ともあれ、シロガネ山に到着。
いや、ルシャーって何やねん。