テキスト | ナノ

例え、目が見えなくなろうとも、耳が聞こえなくなろうとも、手が千切れようが、足がもげようが、この戦いに勝つつもりだった。
自分が果てようとも必ず勝ってみせると、誓っていたのに。



誓いなんてもんはただの戯言でしかないのだ。
どんなに必死に、あれほど護ってきたものでも、いとも簡単に自分の手から零れ落ちていく。


俺が護ろうとしていたものは、俺だけじゃ支えきれなかった。
気が付けば周りの奴らは皆くたばっていて、戦場には自分だけが残っていた。
悔しさや寂しいという感情よりも虚しさだけが残っていたのを覚えている。
自分は一体何をしているのか。自問してみても答えなんて分からなかった。



俺が辿り着いた答えは復讐。幕府を恨んだ。
護りきれなかった自分の弱さを国になすりつけて、自分への怒りを何かにぶつけた。
そうでもしないと自分が壊れそうだったんだ。
どうにもなれ、と。



「俺みたいな奴は生きて苦しんだ方がいいのかもしれねーなァ、」



緩やかな川の流れの中に入って、冷たい水を感じる。
かつて生きていた君が大好きだったこの場所。





たくさんの罪を犯した。生きて償え、とはこのこと。
特に、俺が愛したあの人には謝らなければならないことがある。
死ぬまで、死んでからもずっと、謝っても謝りきれない。
こんな俺を、お前はどう思う?弱いと思うか?愚かしいと、軽蔑するだろうか?
それでもいい、最後まで死ぬまで俺を愛し続けたお前を例えどんな風に思われていても愛し続ける。
お前が俺をずっと愛してくれたように。



だから、傍に置いてくれないか。
この俺を、受け入れてくれ。






「今更だけど、傍にいてーと思うんだ」



す、と抜いた刀は闇夜にうっすらと浮かび上がり綺麗だと思った。月に照らされ光るこの刀。
てめェの血で真っ赤に染まり、川の透き通った水で流されるだろう。


その光景は、美しいんだ。お前のように。

あいつがしたように自分も同じ場所で、同じように、惚れた女を追い掛けて腹を切る。
笑うか?前のように、微笑みながら。あの柔らかい表情で。



ぱしゃぱしゃと控え目に水音がたった。
座ると、羽織っている着物が水を吸い込みずっしりと重くなる。
別に構いやしないさ。もう、ここから立ち上がることはない。どうせ、逝く道は下だ。
俺がお前の傍にいたいと思い、近付こうとしても結局傍に逝けないのは分かってる。
ただ、足掻くぐらいいいだろう?


本当に想ってるならこの足掻きですら愛おしいと感じる筈だ。



それに、いつか、本当にお前の処に逝けるように、下で暫く世話になる。



「これが、俺の罪滅ぼしだ」






絶対にお前の傍には逝けない。そう分かってても俺は足掻くから。
どうか、上で見守ってくれ。










本当は、許してくれると知っている。
俺が下でお前の処へ逝こうと足掻くのを見るのは辛いことも、知っている。
こんなの、罪滅ぼしにならないことくらい、分かってる。
ただの俺が、美化したいだけの自己満足に過ぎない。




それでも俺は、君に会える少しの可能性を信じて――――、










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