テキスト | ナノ

結婚しようね、なんて子供だった私達は未来を何も疑わずにそう約束した。
ううん、子供だった“私だけ”がその未来を信じて笑っていたのかもしれない。
学生の頃なんてそんなものなのかもしれないけれど結局、2年目になる直前に別れた。

そんな彼と久しぶりに再会し、皆と会いたいねなんて笑って話して、約束して、来てみたら彼一人で、そんな状況になるとは少なくとも思ってなかったはず。
平然を装って皆は?なんて聞いてみると呼んでない、なんて。
相変わらず馬鹿なのか、喉まで出かかった。

昔と変わらずやることが子供っぽいのね、と少し溜め息交じりに言うと変わったと言われる。
そりゃ変わりもするだろう。もう何年が経った?私達が別れて、会わなくなって。
ああ、貴方は忘れてるわね。どうせ私といつ別れたのかも覚えてないのでしょう。記念日も覚えてない、私の誕生日すらも覚えてない貴方が、覚えているはずがない。
社会の冷たさも温かさも程良く経験した私が昔のままだったら余程の馬鹿よ。


変わってないのは晋助、あんただけ。



「懐かしいから会おう、そういう話じゃなかった?」

「別に二人でもいいじゃねェか、」

「わざわざ約束を破ってまで?」



俺が二人でいいって言ったら別にいいだろ。それとも何だ、二人じゃ嫌か。お前、もしかして万斉が好きだったのか。
なんとも子供のような発言ばかりが飛んでくる。なんでそんなに変わってないのよ、馬鹿。
普通に会いたいと思うでしょ、なんて言ったら俺は思わない。だれも晋助のことなんて聞いてないっての。
私は皆と将来の夢とか、そういうのが違って全く会ってないからこそ、また子にも万斉にも会いたいのに。
晋助はそりゃ今でも関わってるんだからいいでしょうけど、そんなのあまりにも自分勝手すぎる。
それが許されるのは、長くても未成年までよ。


煙草に火を付けて、晋助に仕事のことを聞いた。
前に会った時は時間がなくてゆっくり聞けなかったけれど、今はたっぷりある。
まあ、別に予想していなかった答えではないが、バイトと返された。

どれだけ駄目なんだ、高杉晋助。



「就活しなよ…」

「うっせ、別に生きていけんだからいいだろ」

「そうじゃなくてさ」

「万斉いないからって八つ当たりすんじゃねェ」

「してないわよ、どうしてそうなるの?」

「どうしてそう言うんだよ。昔は『どんな晋助でも好き、困ったら私が助けるから』なんて阿呆みたいに何度も言っていたのによォ」



それは私と晋助が付き合っていた頃の話じゃないか。
今と昔では関係も違うのだから言う事も変わるでしょう、もう私は晋助の彼女じゃないんだから。
それにしつこいくらい万斉の名前ばかり出して、まるで別れた理由が私が万斉のことを好きになったからみたいじゃない。
あの時自分が急に別れようって言って勝手に別れたくせに。

あの後何日も泣いて部屋に篭って両親に心配されるくらい落ち込んで久しぶりに学校に来たときにあまりにも普通に接してくるから腹が立って殴ってやろうかと思った。
そういう男だと分かっていても辛くて、授業をサボって屋上で泣いたのは晋助の知らない事。


無神経で自分勝手で俺様で考えはガキでいつも頭の中じゃえろいことばかりしか考えていない晋助に何度も傷付けられた。
今となってはいい思い出かもしれないけれど、昔はそれでも晋助が好きだったのだ。
割と一途だろう。



「なァ、久しぶりに……、」

「はあ?私達そういう関係じゃないでしょ!」

「別にいいじゃねーか、互いに成長した姿を堪能しようぜ」

「最低!なに?その為に呼んだの?もう帰る。……こんな晋助なんて大嫌い」



昔はこうじゃなかった、そういう思いしかもう晋助にはない。
身体だけしか見てないような晋助、そこまで落ちぶれてしまったのか。


肩に回してきた腕を振り払って玄関に向かう。
靴を履いていると後ろから抱き締められた。
一瞬のドキリと心臓が止まる。
香る懐かしい彼の匂いと、苦い煙草の匂い。







「っ、いい加減に……!」

「悪い…、どう接していいか分からねーんだ」

「誘い方が下手くそになったって意味かしら…?たくさん遊んでいるくせに」

「……あの時、万斉のことが好きだと思ってた。俺に向ける笑顔はぎこちなくて、なのに万斉とは本当に楽しそうに笑うお前を見てそう思ったから俺から別れを告げた。

本当はすっげー馬鹿みたいに惚れてて、俺は結婚のこと…本気で考えてたけど。やっぱりお前の気持ちが一番だからよ、」



「私がいつ、万斉のことを好きって……。それに、晋助といる時は恥ずかしくて上手く笑えなかったの。勝手に勘違いすんな、馬鹿…」



じわっと目頭が熱くなると同時に視界が霞む。
本当かどうかも分からないのに嬉しくて、反射的にまわされていた腕を掴んだ。
腕に顔を埋めて、もう一度馬鹿と言うと謝られた。

勝手に勘違いして勝手に別れて、そんなのずるい。
どれだけ私が泣いたか知らないくせにこうして後ろから抱き締めて謝るのだから。
私は、許してしまう。



別れてから忘れようと何度か他の人と付き合ったけれど晋助を忘れることは出来ず。
それでも大人になってそろそろ忘れてきたころに晋助と会って、二人きりで。
少し期待をしたけれど、晋助の最低な発言にやっぱりもう晋助は私のことを何とも思っていないんだって少し悲しくなったのに。

本当、不意打ちが得意というか。
私のツボはおさえているよう。



「……信じていいの?もう…晋助のことで泣きたくないよ」

「あァ…、俺を信じろ。勝手に勘違いして別れたりなんてもうしねーよ」

「こ、これでも私怒ってるんだからね…」

「誠意見せてやらァ。ちゃんと…、就職してお前を養えるまでになってやる」



堪えていた涙は一度溢れると歯止めが利かなくなり、止まらない。
それを笑って拭く晋助は、やっぱり昔と変わっていなくて。
あの時のまま、カッコいい素敵な晋助だった。










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