いつも追いかけてました。
目線がきみを追いかけてしまうのです。意識してなくても、意識していても、気付いたらきみを追いかけてしまうのです。
フェンス越しに見つめる野球部。私の特等席はセンターの後ろ側。選手たちには見えないように、そっと心のなかでエールを送る。
頑張れ
決まって投げ掛ける言葉は泉くんに対してで、泉くんがどこにいてもわかる私のセンサーはフル稼働。
今日は私の誕生日で、ご褒美としていつもより長めにみよう。くすり、と笑ってみたけど、見られてないか心配でキョロキョロとまわりをみる。
(よかった、誰にもみられてないみたい。)
ふう、と小さな深呼吸をした。カシャン、目の前のフェンスが揺れる。
「わり!ボール当たってないっすか?」
「だっだ、だだいじょうです!」
そこにいたのはまぎれもなく泉くんで、
私の目線がいつも追いかけていた泉くんで、
「あ、」
「水谷くん!」
「なにしてんの〜?」
「帰るとこだよ」
「そういや、誕生日だったんだよね」
「わあ〜よく知ってるね」
「女子がいってた」
「おめでとう!」
「水谷くんありがとう」
おめでとうって言われると心があったかくなる。私の誕生日をみんなが祝ってくれるなんて幸せな日。
「あ、今日誕生日なの?」
「え?あ、う、うん!」
「そっか」
そういうと泉くんはテーピングされた右手をポッケにいれ、油性ペンをだす。なにをするかと思えば、きゅっきゅ、となにかボールにかいた。
「泉なんて油性ペンもってんの?」
「は?今日持ってこい言われただろ」
「あ!忘れた〜」
泉くんと水谷くんのお話をきいてて、私にやけてないかな?なんて心配する。いつも遠い存在だった泉くんが、フェンス越しだけど目の前にいるのだ。
「ん」
泉くんが、ボールをそっとフェンス越えるくらいに優しく投げた。ぽすん、ぴったり私の両手に収まった。
「誕生日オメデト!」
泉くんと水谷くんが走っていく後ろ姿をぼんやりみていた。私の耳は真っ赤だろう。心臓の音聞かれてなかっただろうか。ただ、手にはお誕生日おめでとうとかかれたボールが静かに輝いていた。