「ごちそーさまー」
「アメいる?」
「いる!」


お弁当を鞄に入れるついでに友人はアメの袋を取り出す。口直しで毎日出してくれるのだ。


「はい、ハッピーバースデー」
「もう少し豪華なプレゼントでお願いします」


そうだ、今日はあたしの誕生日である。国語では誕生日だからといって当てられた。嬉しくない。しかも間違えた。ま、先生には気持ちだけ頂いたということで。朝からたくさんの人に祝福の言葉やプレゼントを貰って満足……していない。
クラスも違う。出身中学校も、部活も違う。隣のクラスだから体育が合同なだけ。泉くんがあたしの誕生日なんて知るはずもないし、そもそもあたしに興味がないと思う。廊下で会った時に挨拶するぐらいで、まともな会話もしたことがないのだから。


「アメ何色?」
「知らない
「見てあげる。口開けて」
「あーー」


友人から貰ったアメは舐めると色が変わり、それで占いをするという、失礼だが実にしょうもないおまけが付いている。今は口の中にあるアメの居場所だった袋の説明を読むと、赤は勝負運、ピンクは恋愛運、青は勉強運、黄色は金運、が上がるらしい。陳腐だ。


「あ、ピンクだよ」


陳腐、だ。

それでも、彼に…と願ってしまうあたしの脳みそは笑えないぐらい愚かだ。

今の状況や自分への苛立ちと共にアメを噛み砕く。あと5分で予鈴がなる。トイレ行こ。


「トイレ行ってくんね」
「ほーい」


しまった。トイレへ向かうには必然的に9組の前を通らないといけない。


(居ない…か)


横目で泉くんが居るかチェックをしてしまう自分が嫌になる。それでも見れた時は嬉しいんだけどね。

再び進路に目を向ける、と。


「!」


合ってしまった。目が。泉くんと。


「おーっす」
「…おはよう」


すれ違う。少しでも泉くんを感じようと神経が右側に集中する。完全にすれ違ったところで、静かに吐いたため息を消すように踵を鳴らしながら歩き出す。


(やっぱり、)


やっぱり何もなかったや。ううん、誕生日に少しでも言葉を交わせただけで幸運だと思おう。言い聞かせても無駄で、つい名残惜しくて振り返ってしまう。

ま、た。

目が合ってしまった。泉くんと。
どうしよう。振り返ったところを泉くんに見られたのが恥ずかしい。泉くんはドアに手を掛けながらこちらを見ていて、無言が続く。う、気まずい。


「あんさ、」


先に沈黙を破ったのは泉くんだった。


「間違ってたらわりーんだけど、」


もしかして……。いや、ダメ。期待しちゃ。その分ショックが大きいんだから。


「今日誕生日?」


パチンと何かが割れて、胸や頭の中は踊りだすどころか普段より静かだ。


「う、うん」


すると泉くんは、あー…とか、えっと…とか言いながらポケットを探る。そして何かを取り出して口を開ける。


「今コレしか持ってねーや。浜田に貰ったヤツだけど」


いくぞ。との合図の後、泉くんの手を離れた『それ』が宙に弧を画く。
あたしは前にも後ろにも動くことなく『それ』を捕る。カサッと音を立て、チクリと手の平に刺さる。


「ナイスキャッチ」
「あ、ありがとう…!」
「おう。おめでとうさん」


そして今度こそ泉くんは9組に消えていった。田島くん達の声が廊下にも響く。
手を広げて思わず笑ってしまった。中には先程友人から貰ったのと同じアメがあったのだから。同じアメなのに、どうしてこんなにも違うかなあ…。


「ナイスキャッチ」


本当に、ナイスキャッチだよ。どれだけあたしの心を捕らえる気だろうか。
まだ微かに口に残っているアメの味を気に留めずに新しいアメを舐める。数十秒経ってトイレの鏡の前で口を開ける。


「あーー」


ピンクだった。


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