「はよ、多串くん」

「あ?」


教室で一番後方の席を陣取りさっさと授業の準備に取り掛かっていた俺に、如何にも起き抜けですと言わんばかりの間抜けな声をかけてきたのは。同期生であり同じアパートに住んでいる、坂田だった。相も変わらず銀色の髪は好き放題にはねていて、死んだ魚のようなやる気のない目で此方を見下ろしている。とは言えそれはコイツの通常装備であって、別段寝起きだからと言うわけでもないのだが


「…土方だつってんだろーがっ、テメーはいい加減そのネタ引っ張んのやめろ。しつけーんだよっ」

「あーはいはい。朝っぱらからギャンギャン言うなって、元気だなー多串くんは」

「ギャンギャン言わせてんのはどこのどいつだ!」


五月蠅い、と耳に人差し指を突っ込む仕草をしながら坂田は隣の椅子を引いてダルそうに腰掛けるなりそのままパタリと吸いつくように机へ突っ伏した。一発殴っていいかな、殴っていいよなコレ


「あー…寝不足。とりあえず今日は一日睡眠学習決定〜」

「今日は、じゃなく毎日睡眠学習…そういやテメェが一限目に間に合うなんざ珍しいじゃねえか。まさか地球でも消滅させるつもりじゃねえだろうな、遅刻常習犯」

「するか阿呆め。低血圧なめんなよ、俺だってサボってゆっくり寝坊したかったっつーの」

「なんかあったのか?」


訊ねると、溜め息混じりに頭をポリポリ描いた坂田が少し拗ねたように言う


「いやさ、なんか…プラスチックゴミに押し潰される夢みちゃってよー」

「は?」


だからー、と改めて夢説明を始めた坂田の声は俺の頭の中でくだらねえという5文字へ変換されていく。バカだバカだとは思っていたが、見る夢までバカだったとは。その内チョコレートが話しかけてきた!とか言い出すんじゃねえだろうな、そうなればとっとと引越しよう。そうしよう、やっぱバイト増やすか


「おい、土方。聞いてる?」

「聞いてるよ。どうせプラスチックに嫌がらせでもしたんだろ、とりあえずプラスチックさんに謝れ」

「んー…悪夢見せられるようなことしたおぼえはねえんだけど」


からかったつもりだったが思いの外いやな夢だったらしく、本気で悩む男を見て呆れてかはたまた同情か。俺も深く重い溜め息を吐いた


「今日がプラスチックゴミの日だから、とかそんな理由だろ」

「かもな…でも別に夢に見る程気にしてなかったし」

「いや、気にしろよ。ちゃんと出してきたんだろーな」

「そりゃオメー、そんなもん見せられちゃ出すしかねえだろ」

「なら、ゴミも出せて授業にも間に合った。寧ろ総合的に見て、いい夢だったじゃねえか」

「あー、まあそうなんだけど…プラスチック、なあ」

「…?」

「……………、あ!」


何やらスッキリしないと首を捻っていた坂田の表情が、みるみるうちに青ざめる。同じく考え込んでいた俺は、なぜだか突然その表情の意味を理解した。これがアハ体験というやつか。坂田と俺はひきつらせた顔を見合わせたまま、最早笑うしかない状況にあっさり陥った。そう、プラスチックゴミの日。この日の重要さをきれいサッパリ忘れていたなんて


「アハハ、そーだよプラスチックゴミの日だよ。土方くぅん」

「アハハ、そうだな坂田くん。俺達ァなんでこんな大事な事を忘れていたんだろうなー」

「どどどどうしよう…俺今日家に帰りたくない」

「ききき奇遇だな、俺もだ坂田」

「「アハハハハハ」」



坂田の夢は、プラスチックさんの仕返しでもゴミの日を意識し過ぎてのレム睡眠でもない。ただ正夢だったのだ



「もう、銀ちゃんも十四郎も起こしてくれないからまたプラスチックゴミ出し忘れたじゃない!」

「いやいやいや目覚まし三台がかりで起きない人の起こし方なんか知らないからね、銀さん」

「また二週間分のプラスチックゴミが…また二週間分のプラスチックゴミが…悪臭…害虫…」

「ちょ、土方!?き、気持ちは分かる!分かるが落ち着けっ、戻ってこい!」

「とにかく、出し忘れたゴミ袋が溜まっちゃって部屋が狭いの…銀ちゃん、十四郎。幾つか預かってくれないかな」

「「拒否!!」」



100729 たかい

今回は共通で、三人が同じアパートに住んでていつもゴミ出し忘れるヒロインとそれに振り回されるご近所の土方と坂田がテーマ…だったんだけど。あれ?重要な部分短いな。あれ?



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