ボスッ


何だか変な音がしたのは気づいていた。しかし私は大木との争いの最中だったので振り向けずに、奴の投げたらっきょうをかわし続けていた。たまの休みなのにまったくコレだ。

後ろでまた同じ音が何度かした。


「わはは、野村め!今日はこれで帰ってやるわい!」

「待てこのっ」


そう追いかけようとしてやめた。振りかえってさっきの音の正体を確認したかったのだ。忍術学園の庭の中、後ろは縁側でそこには障子にいくつかの穴が……奴の後始末をしなくてはいけない事に思わず大きなため息が出た。


「はぁ……大木め……」


あいつのらっきょうが突き抜けたんだ。迷惑な。しかし、まだ石や手離剣でなくて幸いだったと思いながら、部屋の主に声をかけた。あの部屋は確か笠原先生のはずだ。

紺の装束さえ着ていなければ生徒と見紛いそうな顔立ち。美しいと言うよりはかわいらしい印象だった。歳は知らないがきっと私とは離れているに違いなかった。


「すみません。お怪我はありませんか」

「え……?何が、ですか」


障子を開けた笠原先生は何にも気づいていないようで、苦笑いしながら穴のひとつを指差した。


「え……いつのまに……」
「さっきから外で騒がしくしていたんですが、気づきませんでしたか?」
「ちょっと、考え事しちゃってて。ニブイにも程がありますよね」


あはは、と恥ずかしさを隠すように笑って鼻の頭を掻く。部屋にらっきょうが飛んできて気付かないとは相当ぼーっとしていたのか……


「とにかく、片付けます。障子も修繕しなければ」


部屋にあがると、昼間なのに布団が敷きっぱなしだった。もしかしたら体調を崩して寝ておられたのかも。悪いことをしてしまった。


「具合でも悪いんですか?」

「野村先生っ」

「え……っ、ちょ……っ」


突然、押し倒されて布団の上に尻餅をついた。わき腹から後ろに手を回し、背中にしがみついてくる。



「野村先生って、こうやって女の子の部屋に上がり込むんですね」


そう、にっこりと笑った。
何かとんでもなく勘違いさせてしまったようだった。










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