「原稿、急かされてるみたいですね」
久瀬先生が黙ってしまったから何か話さなくちゃと口を開いたら余計な事を言ってしまった。ドツボだ。
「最初は趣味で書いてたんですけど、いつの間にかこうなってしまって。学園で副業の禁止はわかっているんですが……内容も内容だし……だから本当に内緒ですよ?」
「大丈夫です。約束します!」
「今、酔ってますよね?醒めてもちゃんと約束覚えてますか?」
「はい。先生方に囲まれて飲んだから緊張してあまり酔えなくて……だから頭はハッキリしてます」
それは本当だった。「女の教師」という事でジロジロ見られていたからお酒の味すらわからず飲んでいた。
「僕の不安、取り除いてくれませんか?」
私の手を掴んで困ったような顔をする。どうすればいいかわからないけれど、とにかく「はい」と返事をした。
「杏珠先生の恥ずかしい所も見せて下さい。それでおあいこ、秘密を交換しましょう」
穏やかな笑顔のままそう提案してきた。私に久瀬先生のような大きな秘密なんてないのに……
「特に秘密なんて……」
「ないなら作りましょうか。こっちへ」
手を引かれて2階へと上がる。左に曲がった部屋に連れられた。
そこは洋室で大きなベッドともっと大きな本棚がある。
そのたくさんの本のうちの一つを取り出した。
文庫本サイズのそれ、著者名は『佐倉甘藍』、久瀬先生の本だ。
「これ朗読してもらおうかな」
「は、恥ずかしいです!」
「だから、おあいこかな……と思ったんですが、ダメですか?」
さらりとそう言われると、断れないような雰囲気になってくる……
「ちょっとだけでいいですか?」
「もちろんです。どこを読んでもらおうか、な、と」
パラパラとページをめくる先生。
ちょっと楽しそうに見えるのは気のせい?
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