正臣と臨也01 「だめだよ、そっちに行っては」 きりきりと締め上げてくるのは棘のようで、ゆるりと侵食してくるのは猛毒のよう。 しかし実際には。 俺を引きとめているのは生白くて細っこい一本の腕で、俺に囁きかけているのは底辺へ誘う甘い声。 「きみは、あっちの人間ではないだろう?それはきみ自身、よぉくわかっているはずだよ」 そうだ。あの光へなんて、どんなに手を伸ばしても到底届かない。俺は、期待と優しさの仮面を被った、虚構と絶望の仄暗い世界へ、足を踏み入れていた。底なし沼のように引きずり込まれる力に、俺は抗えはしないのだ。 でも、それでも俺は。 「焦がれるな、欲しがるな。ほら、現実を見てごらん?」 笑って、怒って、泣いて。当たり前の日常を生きる光を。 「彼らは、もうきみなんて、振り向かないだろう?」 嘲る笑い声の顔も見ずに、その手を取った。 この手は、俺を救ってくれる? 「こっちを見て。自分で歩いておいでよ」 ふさがれている両目では、何も見えはしないと言うのに。 手を引かれているままでは、迷うこともできやしないと言うのに。 背後で、誰かを呼ぶ声が、聞こえた気がした。 ------ 100416 電波系。正臣→帝人+杏里。声の正体と、呼ばれた名前は…秘密です^^ △ |