静雄と臨也01 コルクを捻って頭から冷たい水を一気にかぶると、のぼせていた脳味噌が正常に戻っていくのがわかる。 しかし、体が冷たくなる中、それでも引かない熱の跡が残っている。 「うわー…気持ち悪いくらい綺麗に跡付いたね…」 ちょうど腰骨のあたりにくっきりと残った赤い筋は、十本の指の形をしていた。 これは先程、この世で唯一憎い人間が残していった内出血の跡だ。彼の力はいかなる場合でも暴力でしかなく、臨也の嫌悪の対象だった。 その力に曝されて、たいていの人間は彼から離れていった。彼を恐れず望んで傍にいる奴は、よほどの馬鹿だろうと臨也は考えている。身内だということを嘆きたいほど変態な双子の妹がいい例だ。 それらを傷つけることを恐れ、自分を好きになれない彼が嫌いだ。人間離れした怪力や、哲学も思想も美学も解さない頭は確かに呆れるべきものではあるが、臨也が一番気に入らないところが、それだ。 「…ははっ、見ようによっては犯された跡みたいじゃない?」 そう呟いてから、タイルに反響して耳に届いた自分の言葉がどうにもおかしくて、弾けるように笑いだした。 「あははははっははっ!ははははははは!」 笑い声は、風呂場では喧しく響き、思考をメチャクチャに掻き回してくれる。 (そうだ、俺は笑っている、)(笑っているんだ) どうにも笑いに収まりが付かなくなって困った。笑いはじめた理由なんてもう忘れたと言うのに、肝心の元凶がいつまでもダラダラと引き摺っていたら、意味がないではないか。そういうところ、また、気に食わない。 どれもこれも、彼のせいだ。(さあ、どうしてくれようか) 骨がみしりと軋んだ時は何でもない顔をしていたくせに、それは臨也がちっとも痛がる風がなかったから気付かなかったんだろうが(もちろん全力のやせ我慢に決まっている)、その後、白い肌に生々しく刻み込まれた傷のような跡を見た途端、顔色を変えた相手を思い出す。 「女あるまいし、そこまで柔じゃないのにねぇ?てかそう考えたら自販機投げるのはどうなんだっての。シズちゃんは相変わらず馬鹿だなぁ」 でも、今なら機嫌がいいから笑って許してあげようと思っている。寛大な心を持って臨也は頷いた。 不思議なくらい気持ちが軽いのは、やはり、憎む相手が実に面白い顔を見せてくれたからだろうか。 「はっ、せいぜい苦しめばいいさ。俺はこれっぽっちも気にしちゃいない。いい気味だ」 だから、とっとと謝りにでも弁解にでもしにくるといい。 そしていつもみたいに、思い切り笑い飛ばしてやるのだ。 (この折原臨也は、そこらの柔で馬鹿な人間みたいに簡単には、壊れてやらないんだと、思い知るといい) きっと彼は、状況を理解できなくて一瞬顔をしかめてから、すぐに規格外の凶器を投げ付けてくるだろう。 そしてまた 二人の戦争という名の 日常へ ------ 100417(100522/加筆修正) ツイッター宿題「腰掴みシズイザ」。どんなシチュエーションなのか、わたし自身見当もつきません(笑)。書きたい箇所から足して書いていった勢いだけの産物なので、ちょっと無理矢理感があるかもしれないですが、まぁこれはこれで…。 暇があったらこれの前の話とか後日話とかも書いてみたら面白いかも…多分書かないよ^^← △ |