長いコンパスに細身の胴体。一見、優男風だがジャケットの下、シャツの下の身体には無駄のない筋肉が存在している。どうやら着痩せをするらしい。
昔取った杵柄とか、名残と言うか。
柳生はまだ筋トレを続けている。あの頃よりは年を取ったもんだから激しいことは出来ず、軽めのメニューしか出来ないけどあの頃と何ら変わりのない態度で彼柳生行う。そして俺もつられるように柳生とあの頃に戻って、肩にジャージを羽織り一緒に筋トレをしている。

「昔のようにはいかないよね」

腹筋を行う最中、そう呟いた。それからいきなりやる気を無くしてフローリングに大の字で寝転んだ。天井を見つめながら記憶を回想した。病床のことも。全国大会のことも浮かんだところでタイミングよく低い声が聞こえた。一瞥を横に送ると裸眼の視線とかち合う。

「戻りたいんですか、あの頃に」

きりの良いところで柳生も腹筋を止めて俺と同じく大の字に寝転ぶ。深呼吸でせわしい唇が珍しく極端な事を言う。返事をしなかい変わりにほふく前進で近付いて広げられた右腕に頭を置いた。お互い血流が良くなっている為、あったかいと言うより熱い。
ぽんぽんと自分のお腹を労いを込めて叩きながら口をひらいた。

「そうだなー…戻りたいかな」

例え病床に戻ろうとも。

「何故戻りたいんです」

「あの頃は、俺の中でいっちばん輝いてる気がする」

星の煌めきに例えればあの頃が一等星で、今が五等星ぐらい。随分、光を無くしてしまった。

「反対します」

毅然と柳生は言った。

「何故貴方はそんなに酷いことを言うのですか。また病院に戻ってもいいと?またみんなを不安にさせてもいいと?」

苦々しく続いた言葉に返事をすることが出来なかった。声が喉の奥に引っ込んでいく。束の間の沈黙。

「ごめん…浅はかだった」

何の深慮もせずに発した俺は馬鹿だ。みんなを踏みにじるようなことばっかり考えて、実際に柳生を傷つけてしまった。恐る恐る柳生に視線を向けると苦笑していた。

「貴方は今のままが良い」

「五等星でも?」

「何ら関係ありませんよ、私以外で強く輝かなければ」

抱き寄せられ、まだ熱い胸に頬をつけた。心臓の音が何だか落ち着く。
左手の指を紡織するかのように繋いだ。薬指の付け根辺りでお互いの指輪がぶつかる。小さな金属音が、幸せはここにあるよと教えてくれた。

「ねぇ柳生」

「はい」

「筋肉ついてきたね」

「えぇ頑張ってますから、それに幸村部長がメニューを考えてくれたお陰です」

さらりと髪を梳かれ、心地よさに瞼を閉じた。きっと次に唇が落ちてくるだろう。あの頃と同じように恋慕を馳せながら待ち望んだ。