「あれ、幸村くんは?」
「幸村は病院行くから休むっつってたぜよ」
「…ふうん」


子供の頃、一日でも会えないと寂しくて部活に集中できなかったのに、とか。



「今日幸村くんこねーの?」
「禁酒中なんじゃと」
「…」


大人になっても、いつだって会いたいのは仁王じゃなく幸村くんだったのに、とか。



「もういいよ、ブン太の顔も見たくない」
「…ああそうかよ」


俺達にとって喧嘩は凄く珍しいイベントで、出会ってから今まで本当に数えられるくらいしかしていない。その度に俺は思うんだ。あの頃は会えるだけで幸せだったのに、贅沢になった、って。


「…何笑ってるの」
「幸村くんにはわかんないよ」
「何それ」


喧嘩できる程の仲になったんだ、って。子供の頃、幸村くんと喧嘩する真田や仁王を見ていつも羨ましかった。まだ対等な立場になれてない。幸村くんに釣り合う男にならなくちゃ。


「なんか…ブン太が笑ってるの見てたら俺も笑えてきちゃった」
「うん、やっぱり幸村くんは笑顔が似合うよ」
「ありがとう。…ごめんね」
「こっちこそ、ごめん」


必死に努力して、ようやく実現できた幸村くんとの同棲。一緒に住み始めてだいぶ経ったせいか、最初の頃の緊張感はほとんどない。かといって、幸村くんが好きかと聞かれればもちろん大好きと答えられる。だけど、あの頃の気持ちからひとつだけ消えたものがある。



「ねえ、明日の夜、外にご飯食べに行かない?」
「ああ、そうだな…何食いに行きたい?」
「仁王とか誘いたいからー…」
「仁王?」
「うん、だめ?」
「だめ。たまにはふたりっきりでデートしようぜい」
「…いつも家で二人きりなのに」



今ではもう、会いたい、なんて思えるほど空白の時間がない。遠くで見つめるだけだった昔の俺、どーだ!羨ましいだろい?