今日は久しぶりな侑士の休日である。休日が潰れることの多い医者にとって、最も大切な時間。だから俺だってゆっくり休んで欲しい訳で、遊園地行こうとかは言わない。それはまぁいつか追々行くとして、今日はとにかくゆっくりしよう。のんびりゆったり。
…なのだけど、俺はそのつもりなんだけど、何で侑士は本を読み出すのかな。目を酷使するからあんまり良くないって誰か言ってなかったっけ。というかまず、何で俺がいるのに本を読むのかな。うるさくしたら心閉ざす気なんでしょ知ってるんだからな!

「ねぇ侑士、」
「…。」
「侑士ったら!んもう…」

侑士の趣味がラブロマなのは十分理解している。だからせっかくの休みにラブロマ補充したいのも分かるけど、それなら俺は侑士補充がしたい。毎日大人しくクリーニング屋の手伝いをしている俺にご褒美は無いのかご褒美は!!

「さっきから喧しいんやけど…」
「侑士が悪い」
「急に何やの」
「俺のこと無視する侑士が悪い!」

ぎゅうぎゅう。中学生の頃から、侑士にくっつくのが好きなので大人になってもこうして膝枕だの何だのとしてもらっている。(たまに俺もするけど)ソファでゆったりしていた侑士の腰を抱き締めたのだが、ちょっと身を捩られただけで終わってしまった。無理矢理はがれなかっただけマシなんだろうけど。けどさー…。

「せっかくの休みなんだよー?」
「俺もせっかくの休みなんやけど」

いや、俺の場合正しくは休みを取ったんだけどね。侑士の休みの日を休みにしてくれるように家に頼み込んだんだけど。その苦労を侑士はきっと知らない。

「…分かった分かった、構ったるから。ただし、」
「ただし?」
「あの行為は無しな」
「えー!!!?」

マジで!?駄目なの何で何で!?反抗心を剥き出しにして侑士の膝を叩く俺に、侑士は「痛いわ阿呆」と俺の頭にチョップを食らわせた。痛いって、俺そんなに痛くしてないじゃん。ちょっと二重の理由で涙出そう。楽しみにしてたのに。

「今日は休みやけど、今日の常勤医は人数少ないしあんまり期待出来ひん言うか何て言うかなぁ…、いつ呼び出し食らってもおかしないねん。『恋人とまぐわってるから病院行けません』やなんて言える訳ないやろ?」
「言えばEじゃん」
「絶対に嫌や」

勤務医である侑士は、休日にヘルプで仕事をしに仕事場へ向かうことはたまにある。だから俺だってそのことは理解しているのだけれど、最近ご無沙汰過ぎて我慢するのが嫌いな俺には耐え難い苦痛なのだ。流石に、ハードな仕事を終わらせて帰ってきた恋人を無理矢理襲うような真似は……し、しない。(ホントは我慢出来ずにヤったことある。あの時は本当にごめんね)

「俺そろそろ我慢の限界なんだけど」
「きゃんきゃん吠えとる内は案外平気なんやよ。犬と一緒や」
「俺は犬じゃありませんー、羊の皮を被った狼ですぅー」
「そうやね〜」

何でそんなに侑士はケロッとしているのだろうか。頭を撫でてくれる侑士の腕を掴んで、口元に引き寄せると軽く手首を甘噛みしてやった。侑士の切れ長の目が見開かれて驚いているのだと分かると、ちょっとは気持ちも落ち着いたりして。

「じゃあ今日は一日中いちゃいちゃしよう、ね?」
「しゃあないなぁ…、確かに慈郎には酷なことさせとる自覚はあるしな。ええよ」

少しだけ困ったような顔をして、それでも照れたように笑う侑士を見て。心の中のもやもやが大分晴れたような気がする。侑士の手からラブロマ小説が離れたので、俺は侑士の胸に思いっ切り抱きついた。