俺は狐の妖怪、天彩(てんさい)という。姿形は着物と羽織をまとった人間だが、金髪のサラサラ長髪に顔立ちは申し分ないくらい整ってると自慢しよう。しかしそれだけでなく、尻にはこれまたご自慢のフサフサ尻尾と、耳も人間とは違った狐特有の天に向けて立派に生えた耳がある。さらには、数キロ先の距離で銭が落ちた音すら聞こえる聴力と、アリ並に小さな姿に見える距離の物を識別できる視覚がある。
生まれて数百年は経つが、今だ若さを保っている。とはいったものの、妖怪に老いというのはない。死というは流石にあるが、いつ死ぬかは定かではない。
妖怪に唯一対抗できる陰陽師に至っては、表向きは倒したとしても、本当は生きたままの力が使えない状態で封印されるだけのこと。
ま、陰陽師に封印されるような力じゃあ、生きてても仕方のない話だがだな。

っと、余談はここまでだ。
俺が話したいのは、昼寝をしてた時だ。その日も天気良好で絶好の昼寝日和だと思った俺は、緑地に寝そべっていた。

「あー…気持ちいい」

このまま何日も過ごすんじゃないかと思われるほど、俺はだらけていた。意識が現実から離れようと、瞼を閉じる。その時だ。
冷たい感触が手に伝った。
反射的に体を翻し、冷たい正体を見つめる。その正体は白い色をした蛇だった。

「珍しい客がいたもんだな」

緑とか黒の蛇は幾度か見かけたことはあるが、綺麗な真っ白とした蛇はごく稀にしか見れないという希少動物だ。まさかこの目でお目にかかれると思わなかった俺は、白蛇の額をツンツンと人差し指で突っついてみた。

ボンッ。

一瞬にして視界を白い煙が覆う。あまりに突然過ぎて、器官に煙がいっきに入り我慢できず袖元で口を覆いながらむせる。何かの罠だったかと警戒して視界を巡らす。徐々に薄れていく煙の中に、人型の影が見え始める。

「けほっ…、いきなりなんだよ」
「私は白蛇の妖怪、弁天(べんてん)という。狐の君に聞きたい。法輪寺へはどう行けばいい?」
「…ほ、法輪寺?」

姿を表したそれは、白い短髪の頭に透き通るような肌をした男が立っていた。よく見ると俺からして左目下に鱗のようなのが数十枚見える。しかも白い着物と羽織と、全身を白で埋め尽くしているせいで生気をあまり感じさせない不気味さを際立たせている。

「どうやら私は、迷い子のようだ」
「自分でいうか、普通」

クスリと笑う弁天。
いきなり白蛇が現れたかと思えば化けて自分と同じ人型の姿となった相手に、俺は特に驚きもせず呆れた顔で言った。妖怪として生きていれば、驚く出来事が必然と少なくなるからだ。

「ふぅむ。散歩しようと出たはいいが、生憎道を覚えるのが苦手でな。引き返そうにもできなくなってしまったんだ」

子供の帰りの遅さに心配する母親のような、弁天の困った顔に少しばかりか頭を回転させ考えた。

「その、法なんとかって確か此処から西南に向かって歩いて山を下り川を渡った先にある寺か?」

なんとなくではあるが、そんな寺があった気もした俺は、僅かながらの記憶を頼りに道標をする。

「それは真か!」

ぱぁっと、暗かった顔が明るい顔に変わる。

「そうか、あっちか。ありがとう。助かった」

胸を撫で下ろす弁天は、西南とは全く逆の東北を指さす。

「そっちは逆だって。法輪寺はあっちだ」

日の傾き方でだいたいの方角や時間を決める世に、なんとまぁ不安にさせられる弁天なんだと俺の顔はひきつった。

「おお!危うくまた迷い子になるところだった」

鱗のある部分を摩りながら、弁天は仄かに顔を赤らめた。白い肌には少しばかりの赤色も目立つ。
蛇でもお恥ずかしいと感じることはあるんだと知ると、それはまた違った意味で失笑してしまう。同じ妖怪ならば何十、何百年と生きているはずだから自身の住処(であろう)場所くらい聞かなくてもわかるはずなのだ。それでも方角を間違えるということは…。

「方向音痴…」
「ははっ…よく言われる。空海にもそれで笑われた」

空海?と聞くと、法輪寺を建立し、白蛇ではあるが人型妖怪でもある自分を恐れもせずむしろ大事にしてくれるお優しい方だと言われた。
自分は人間と親しく相俟ったことがないから、弁天の自慢するような輝かしい瞳を羨ましく思った。初対面なのに、不思議な奴だとも思った。
俺が会った人間は、妖怪である俺を恐れて封印しようとする者ばかりだから、余計にだった。

「そういえば、君の名前を聞いていなかった」
「え?…あ、あぁ、天彩だよ」

相手の名前を聞いてはいても、まだ自分の名前を言ってなかったのを忘れていた。久々の自己紹介に少し照れてしまう。

「天彩!また会えることを楽しみにしてる。というより、遊びにきてくれ!空海に君を紹介したい」

いきなり両手を弁天の両手が覆う。ひんやりとした冷たい手が直に触れ、ビクリと肩を震わす。
目の前には、自分の黄色い目とは違う綺麗な青色の瞳がこちらを見つめている。
俺は哀しくも不慣れな状態に、慌てて返事をした。

「気が向いたら、な」

そう言うと、弁天は微笑を浮かべて大きく頷くと手を離してくれた。そしてまた元の白蛇の状態に戻り、にゅるりと消えた。
俺はその場を数秒間見つめた。
最初から妖術を使えばいいんじゃないかと遅かれの考えに、笑みが溢れた。

「……歳、かな」

俺はそのまま瞳を閉じた。
元々昼寝をしに来たため、睡魔が再び襲ってきたのだ。
弁天のあとを追うのは、それからでもいい。
無事に法輪寺に着くことを祈って、俺は暗闇に意識を飛ばした。





法輪寺…徳島県阿波市土成町土成にある高野山真言宗の寺院。白蛇が仏の使いといわれていることから釈迦涅槃像を刻んで本尊として開基したと伝えられている。(wikiより)

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途中からよくわからなくなった。


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