その日は、雲一つない空色日和。こんな日こそ、外で思いっきり鍛錬するのが楽しいってもんさ。
自分より大きい剣を振りかざし、練習相手になってもらってる兵たちを、どんどん倒していく。とは言っても、ちゃんと血や怪我させないように気をつけてる。
「息子」
と、そんな時に親父に呼ばれた。
「鍛錬を欠かさずやるとは、良いことだ」
感心するように親父は、腕を組んで何度も頷いた。
俺は自慢気に「どうだ!」という感じに、重い剣を肩に担いで胸をはった。が、重すぎてすぐに下ろした。
「どうだ?少しは強くなったんじゃないか」
「いやいやいや、まだまだだよ親父」
戦に出陣した回数はまだ少ないほうで、名のある武将に当たったのはギリギリ両手で数えられる程度。強い相手となればやる気もガツンと上がるし、それ相応に強くなるもんなんだけど、青二才の俺は武将一人倒すのにも一苦労。
だから俺は鍛錬を、人一倍頑張ってるつもりだ。
「お前はしっかりしてて偉いぞ。その調子で頑張れよ」
「へへっ」
子供みたいに扱うように、頭を撫でてくる親父だが、それでも誉められて俺は、凄い嬉しかった。
「俺、いつか親父を越すことが夢だから」
剣を持ってない片方の手を広げ、強く握る。
それを見た親父は、俺の志を理解したのか、ご自慢の弓を取り出し、まじまじと見つめた。
「へへっ。なら俺ももっと鍛錬して、息子に負けないよう強くならないとな」
流石親子、というほど俺から見ても、親父の笑った顔は似ていた。
「やめてくれよ。これ以上親父が強くなったら大変だ」
元々親父は、主君から厚く信頼されてるほど強い。幼なじみという関係でもあるから、余計だった。
「はははっ。そしたら今以上に鍛錬に励み、実戦で多くのことを経験して強くなればいい」
親父の言葉には、重みがあった。俺が知らない多くのことを経験してきた親父だからこそだった。
伊達に戦に出ているわけではないことも窺えた。
「…親父…?」
それは一瞬だった。
何やら黒い影が、微かに見えたのだ。
「なんだ?息子」
何も知らんふりの親父の顔に、俺は気のせいだろうと自分に言い聞かせた。
「……いや、なんでもない」
ただ、やっぱり不安は完全には拭えなかった。それでも俺は、何時でも出陣できるよう、再び鍛錬を始めた。
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