僕は高校生になっても、周りの男子と同じくらいの身長まで、伸びなかった。
百五十ニセンチ。そのせいで、皆からチビって呼ばれた。
「別に、好きでチビになったんじゃないし…」
図書室で参考書探しをしながら、僕はぼそぼそと愚痴を溢した。
「あ、あった」
お目当ての本を見つけ、手を伸ばす。が、あと少しのとこで手が届かない。脚立を使おうとしたけど、なんだか負けてる感じがして、素直に使いたいとは思わなかった。
「あと、少し…」
つま先立ちで腕を最大限まで伸ばす。
「(取れる…!)」
本の角に触れて瞬時に思った。それと同時に、隣から人の気配がした。
「おチビちゃん、どうしたの?」
「へ…?」
見上げれば、同じクラスの宮路さんが僕を見下す感じで見てて、ちょっとムッとした。
「これが取りたいの?」
不満げな顔つきの僕を無視して宮路さんは、僕が取れなかった本を軽々しく取って渡してきた。
「あ、ありがとう」
「脚立あるんだから使いなよ、おチビちゃん」
今の一言で、カチンときた。素直に礼をしたのに、身長が自分より高い(宮路さんは百六十八センチ)からっていい気分になってー…!!
「悪かったな!おチビで!」
「あっはは!怒った顔は幼いね〜」
能天気に笑う宮路さんに、僕は唇を尖らして頬を膨らませ、そっぽを向く。
笑ってた宮路さんは、僕の態度に気付いて頬を面白半分でつっつき始めた。
「拗ねてるの?おチビちゃん」
「…っ、拗ねてなんかない!」
宮路さんの手を払いのけ、横を通ろうとしたが、あっさりと捕まってしまった。後ろから抱き着く体勢で。
「な、にするんだよ!」
いきなり抱き着かれたことに、戸惑いながらも離れようとするが、しっかりと体に巻きつかれた腕を簡単に退かすことができない。力の差というものだ。
「んー、抱き心地は悪くないね。寧ろ良いかも」
「はあ?」
ニヤニヤ笑いながら頬を擦り寄らせ、腕に力が込められる。
正直宮路さんとは、大して会話をしたことがないせいか、抵抗感があった。
「宮路さん、離せって…!」
「名字にさん付けで呼ばれると、壁感じるなー。普通に呼んでよ、普通に」
この状態で何言ってるんだと言いたい。
とりあえず先に、腕を退かしてほしいだけなのに…。
「み、宮路…早く腕を退かせよ」
初めて自己紹介する時並の、緊張感かもしれない。
「可愛いところもあるじゃん。おチビちゃん」
「かかか、可愛い…!?」
中学生の頃から高校生になって、可愛いと女子や男子に言われてきたけど、皆低身長な僕をただ小馬鹿にしているだけだった。
だから僕は、宮路さんに対して馬鹿にされてるんだと、ため息をついた。
「僕は、可愛くなんかないよ」
「俺的には可愛いから。チューしたい」
「あーそうですかチューです………チュー?!」
それってつまり、口と口で…。
想像しただけで、悪寒が走った。
「やめ、やめろぉぉぉっ!!」
バタバタを暴れて、宮路さんから離れようとする。
「ちょっと、元気ありすぎ!落ち着いてって!」
「はーなーせーっ!!」
しかし宮路さんは、離すもんかといわんばかりに、腕の力を一向に緩ましてくれない。
「んじゃ、頬にだけ」
次の瞬間、チュッと、頬にリップ音と柔らかい感触を感じた。
「…………っ!?!?」
何をされたのか、数秒後にやっとわかった。
「あははっ!やっぱりおチビちゃん可愛い」
大笑いする宮路さんと、硬直する僕。
「これから仲良くしてこーね、おチビちゃん」
今度は額にリップ音。
と、同時に腕に込められた力が一気に緩められ、僕はそのまま床に下手りこんだ。
宮路さんは「じゃっ」、とたった短い一言を残して、図書室から出ていった。
「ふっ…ふざけんなぁぁっ!!」
周りなど気にもせずに僕は、思いきり叫んだ。
図書室に居た人達が見返る程、室内に響き渡った。
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