「ちゅう〜…痛っ!」

「うっさい天パ!」

「彼氏が彼女にちゅうして何が悪いの!?」

「わ、悪くは……知らない!!」


あぁ…またやってしまった…
素直になるってどうするんですか
意地を張らないってどうしたらいいんですか


「はぁ…」


銀時と付き合い出して半年くらい経つ
意地っ張りな私はスキンシップをしてくる銀時を拒んでばかり
別に嫌なわけじゃない。恥ずかしいのだ
銀時が思ってる以上に私は銀時のことが好きなのにそれを上手く伝えられない
こんなんじゃいつか捨てられる
そんなことを考えながら街をブラブラ一人で散歩していたら吉原に続く道の通り来てしまった
何故こんな道に…



「あれ?銀、時…?」



遠くに銀時を見かけた
女連れの銀時を見かけた
銀時は楽しそうかどうかはよくわからないけど相手が銀時のことを好意的に思っているのは間違いないだろう
相手の表情が柔らかい


「銀さんが浮気?」

「わかんないけど…」


銀時の浮気現場(まだわかんないけど)を目撃した私は慌ててお妙ちゃんの元にやって来た


「私にそんなこと言われてもねぇ…」

「だってお妙ちゃんホステスやってるんだし男心とかわかるんじゃないの?」

「そんなのわかるわけないでしょ」

「だって…グスッ」

「ほら泣かないの、だいたいなんで本人がいないと素直なくせに…本人を目の前にするとくだらない意地張っちゃうんだから」

「恥ずかしいんだもん…」

「そんなんだから銀さんに浮気されるのよ(たぶん浮気じゃないだろうけどね)」

「うっ…(やっぱり浮気…しちゃったのかな)」

「たまには素直に甘えてみたら?」

「……甘える?」

「そうねぇ…例えば銀さんがスキンシップしてきても嫌がらないとか…自分から抱き着いてみるとか」

「そっそんなの無理!!恥ずかしくて死ぬ!!」

「じゃあこのまま銀さんが違う女に心変わりしてもいいのね」

「それは…」


それは…
―…嫌だ


「何お前、今日いつも以上に静かじゃね?」

「え、あ、あぁ、うん、ちょっと考え事してて…」


お妙ちゃんのところから万事屋に戻った私は今、銀時と別々のソファーに座っている
新八くんはお通ちゃんのライブでいない。神楽ちゃんは定春を連れて公園に遊びに行った
チャンスは今しかない…!!


「ぎ、銀時…」

「え……」


私は意を決して向かいのソファーに座って怠そうにテレビを眺めていた銀時の横に移動し、両手を絡めながらギュッと銀時の片腕に抱き着いてみた
普段の私なら絶対にこんなことはしない
既に恥ずかしくてもう銀時から離れたいけどお妙ちゃんに言わせればこんなのはジャブらしいからもっと頑張らねば!!


「え、ちょ、おま…(何何何!?なんでそんな困った顔して、眉ハの字にして潤んだ目ぇして俺を見上げるんだ…!腕が!腕が谷間に挟まってますけどォォォオ!!何フラグこれ!!ちょ、なんか下半身ゾワゾワするんですけどォォォオ!)」

「銀時…」

「な、何」

「好き、大好き…」

「(きゅんっ)」


ぐわぁぁぁぁあっ!!!!
何これ!背筋がゾワゾワする!
誰だコレ!私じゃない!
で、でも…
銀時とあの女の人が歩いていた場面を思い出すと胸の奥が痛い、苦しい
あぁ…やっぱり浮気されてるのかな
銀時はもう私なんか好きじゃないのかな


「銀時…」


銀時の腕にぐりぐりと押し付けていた頭を上げて銀時を見つめる
彼は心なしか頬を赤くしている様に思えた


「んぅ、」

「ん…(キスされたァァァア!!何コレすっげーきゅんきゅんっする!きゅんきゅんっする!)」

「…っはぁ」


銀時の唇から離れて銀時の胸に顔を埋めた


「銀時、好きなの…」

「…ッ!!」

「きゃっ!」


いきなり両肩をガシッと掴まれて銀時から離された


「銀時…?」


嫌だったのかな
やっぱり気持ち悪かったのかな…
私から顔を背ける銀時の顔を無理矢理覗き込むと、驚くことに彼は耳まで真っ赤になっていた


「わ、わりぃ…別に嫌なわけじゃねぇんだけど、その、普段お前から俺に甘えてくることってねぇだろ?だから突然こんな可愛いことされて、なんつーか心臓鷲掴みにされた気分っつーか…」


普段私といても真っ赤になんかならない彼が頭を掻きながら照れる様子を見て胸が切ないくらいきゅんとなって泣きたくなった


「…ッう」

「おわっ!ちょっなんで泣くんだよ!?俺なんか変なこと言ったか?」

「昼間…昼間一緒にいた人…ッ誰…」

「昼…?あぁ、月詠のことか」

「うっ…誰…」

「あーもう泣くな泣くな!月詠は吉原の奴で……お前…」

「(やっぱり吉原の人と…)」

「なぁ、もしかしてお前嫉妬してんのか?」


泣いてる私の顔を覗き込んで銀時は不思議そうに訊いた
私は恥ずかしくて顔がいっきに赤くなるのがわかった
恥ずかしい、恥ずかしい…
銀時が好きで好きで
嫉妬して普段しない甘え方までして
全部は銀時の気持ちが離れていくのが怖かったから
銀時が私の前からいなくなるのが怖かった


「だから珍しく甘えてきたのか?普段そんなことしねぇのに変だと…」

「だって銀時が…!」

「可愛い奴だなぁお前は」


銀時は私の腕を引いてギュッと私を抱きしめた
銀時は「そうか、そうか、嫉妬したのか」と何やら嬉しそうに言いながら私の頭を撫でている
それがなんだか心地好くて荒立っていた私の気持ちも落ち着いてきた


「浮気…したの?」

「してねぇよ、あいつは吉原の番人でなんか厄介な客がいてなかなか追い払えねぇから手伝ってくれって頼まれただけだよ」

「そう…」

「おう」

「よかった…」


安心した私は銀時の厚い胸板に顔を押し付けてギュッと強く抱きしめ返した
銀時の匂いを肺いっぱいに吸い込む


「あのさぁ…」

「何?」

「俺、普段キスとかセックスとかは結構頻繁に迫るけどお前に愛してるとか言わねぇだろ?」

「うん…」

「えーと、その、なんだ…」

「何?」

「あー…俺もちゃんとお前のこと愛してるから…」


眉を下げて困った様に笑いながら言ってくれる銀時を愛しいと思った
あぁ、これからは私からも甘えてみよう
私からキスをするのはまだ難易度が高いから
そうだな、まずは愛の言葉を呟くことから初めてみようかな


寄り添って生きていく


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